甘い香りと蜜の味 《 27

 何とかしてキャリーケースのそばにたどりついた美樹が腕を伸ばす。すると、その手をぐいっと引っ張られた。

「ひゃっ……!」

 ベッドに引き込まれた美樹はあれよあれよという間に拓人に組み敷かれる。

「だめだよ、そんな恰好で出てきちゃ」

 苦しげな顔で、ひとりごとのようにつぶやいて拓人は美樹に顔を寄せる。
 重なった唇は温かいような、冷たいような――よくわからない。

「んん」

 口づけは深くならなかった。拓人の唇はすぐに離れて、首すじと鎖骨を通ってどんどん下がっていく。
 まだ湯の熱を残した美樹の肌をちゅ、ちゅっと吸いながら、拓人はバスタオルの端に指を引っ掛けて徐々に下へずらし、ふくらみをあらわにしていく。薄桃色の部分が見えると、そこをきつく吸い立てた。

「ぁっ! あ、あぁ……っ」

 もっとも敏感な乳頭ではなく、乳輪の際をそうして吸い立てられると、快感がもどかしさとともに湧き起こる。
 彼の舌はいただきをじらすようにぐるぐると円を描いて乳輪をかたどる。じれったい動きだ。
 ふと拓人は顔を上げた。眉根を寄せている美樹を見て、

「このあいだのじゃ、物足りなかったから」

 そう言ってふたたび乳輪の際を舐める。

(私、は……いまのほうが物足りない)

 そんなこと、口には出せない。いや、いっそ伝えてしまったほうがこの甘い拷問から解放されるのだろうか。
 ――一度は拒んだくせに、こんなにも欲しくなるなんて。
 美樹は両手で顔を覆った。情けなさとじれったさで、涙が出そうだった。

「……舐めても、いい?」

 そうして確かめられるのを、心の底から待っていた。
 美樹はこくこく、と二回うなずいた。もう、待ちきれない。
 拓人は口もとにわずかな笑みを浮かべて、尖って硬くなりすぎている乳頭を根もとからべろりと舐め上げる。

「っ、んぁあ……!」

 悦びが全身を駆け抜ける。じらされて敏感になっている胸飾りは一舐めされただけでも快感を体の隅々まで伝えて甘く震えさせる。
 拓人は美樹のふくらみを手のひらでつつみ、揉みしだきながらいただきをレロレロと舐めしゃぶった。

「ぁんっ、あぁ……う、んんっ」

 下半身がバスタオルに覆われていてよかった。そうでなければ脚の付け根から蜜がこぼれて、シーツを濡らしてしまうところだ。
 ところが、拓人は片手でバスタオルをつかんで拭い去ってしまった。

(もう、どうして……!)

 拓人にはすべて見透かされているのではないかと思う。

(私が嫌がることを――ってわけじゃないけど……)


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