じりじりと迫りくる碓氷を見上げて愛莉は口をひらく。
「あの、言いましたよね? 碓氷さんの前でするのは恥ずかしいから、家で……って」
「恥ずかしがることはない。これは仕事だ。俺の前で実際にやるほうが報告書を作成する手間が省けるだろ」
「……っ!」
それ以上は後ろに行けなくなって、体勢を崩してベッドに転がってしまった。大人の玩具はベッドに散らばっている。愛莉は慌ててスカートのすそを整えながら碓氷を見上げた。
「無理ですっ、絶対に」
「なぜ。きみは仕事に対して真面目だと思っていたんだがな」
「仕事って、そんな……」
「言っておくが俺にやましい気持ちはない。これはきみの教育を兼ねたビジネスだ。さあ、早く」
碓氷はベッド端に片ひざをついて身を乗り出し、小さなローターを手に取っておもむろに愛莉に差し出した。
なぜローターを受け取ってしまったのか自分でも解せない。碓氷の言う「やましい気持ちはない」を信用したわけではないけれど、射るように見つめてくる彼の視線に逆らえなくて愛莉は首を縦に振った。
「……後ろ向きでもいいですか?」
「は? 何か言ったか」
「……いえ」
怖い、怖すぎる。有無を言わさぬ態度で碓氷はベッドに腰かけ腕組みをしている。
「どうした、早くしろ」
「あ……その、使いかたがわからなくて」
「そうか。では寄越せ、俺が」
「いえ、いえっ! 指示していただければわかりますから!」
彼がため息をついたように見えた。使えない人間だと思われたのだろうか。気持ちが沈む。
「まずは乳首に当ててみろ。下着の上からでかまわない」
愛莉はぎょっとして目を見ひらく。
(いま、乳首って言ったよね? なんの恥じらいもなく)
あんぐりと口を開けている愛莉を、碓氷は不思議そうに眺めている。
「ひとまずそのブラウスは脱げ。脱がせてやろうか」
「いっ、いえ、自分で」
あわててそう答え、ブラウスのボタンを外しにかかった。けれど指が震えてうまく外せない。
「何してる、きみはひとりで服を脱げないのか」
「ち、ちが……ぁ、の!」
まどろっこしい、と言わんばかりに手を覆われ、白いブラウスのボタンは瞬く間に外されて下着があらわになった。
(やっぱり恥ずかしい……!)
両腕で前を隠しながらうつむく。
「嶋谷くん、ほかにも業務は山ほどあるんだ。早くしてくれないか」
ひときわ低い声が降ってきて、よけいに身が硬くなる。
「でしたら、やっぱり私……家に帰ってからにします」
「口ごたえするな。次に何か言ったらクビだ」
「ええっ……!? あ……ちょ、まっ……。ん、ぅ……っ!」
こんなことはやはり仕事ではない。セクハラとパワハラのダブルパンチではないか。そう思うのに、口にすることができない。
下着の上からピンク色のローターを押し当てられ、身をよじる。
「あ……ぅ、碓氷さん……じ、自分で……します」
彼の手から玩具を奪う。あっさりと渡され、ひとまずは安心する。
「使いかたがわからないんだろう? こうしておいてやる」
「え……っ!? あ、ん……ッ!」
碓氷が愛莉の手をつかむ。そのまま愛莉の手ごとローターを動かして、下着越しにふくらみの先端をゴリゴリと刺激している。
「ぁ、あ……ん、んっ」
「いまどんな気分だ? 聞かせろ」
「……っ、くすぐったくて……。ん、ぁ……っ。もどかし……っゃ、ん」
「もうじかに触れたくなったのか」
コクリとうなずく。すると碓氷は愛莉の背中に手をまわして下着のホックを弾いた。ふくらみはいっそう無防備になる。
「あ、あの……やっぱり、恥ずかしいです……! ちょっと、待ってくださ……っぃ!?」
視界が揺れる。急に身体を抱き寄せられ、あぐらをかく彼の上に乗っかる格好になった。
「俺の顔が見えなければ恥ずかしくないだろ」
お互いが窓のほうを向いているから、確かに彼の顔は見えない。けれどなんだか主旨がずれてきている。
「碓氷さん……っ、本当に、やましい気持ちはないんですよね?」
「ああ……あるのはきみへの興味だけだ」
「へ……っ? ぁ、あんっ……!」
愛莉の手から滑り落ちたローターを拾った碓氷はそれをブラジャーの下方から忍ばせた。ツン、ツンッと先端を突つかれ、いてもたってもいられなくなって愛莉は膝を擦り合わせる。
「どうした、かゆいのか」
「っぁ、ん……!」
ローターを持っていないほうの手でストッキング越しに脚を撫でられる。
「いくつか同時に試すのもいいな。下はコレでいじってやる」
「んっ……!? ひ、ぁっ」
ベッドの上に転がっていた大きめのバイブを股間に押し当てられ、愛莉はいっそう喘いだ。
「嶋谷くん、使用感の報告を忘れるな」
耳もとでささやかれ、身体が跳ねる。こんな状態で報告どころではないのだが、愛莉はなんとか口をひらいた。
「ふ……ん、ん……っ。そんな……上も下も、なんて……。っぁ、すぐに……イっちゃう……!」
「……素直でいい。そろそろ電源を入れようか」
「ひぁっ、ああっ!」
カチッと音がして、すぐに機械的な振動が愛莉の身体を揺さぶり始めた。
碓氷は愛莉のブラジャーを胸の上まで捲り上げ、振動するローターを乳輪に這わせた。
プラスチック素材の小さな玩具は冷えているわけではないのにつめたく感じてしまう。自分の体温が高いからだ。
「ああっ、あ……。ん、んう――……っ!」
下着とストッキングはいまだに身に着けたままだ。それなのに、割れ目にバイブをねじ込まれただけで身体はまたたく間に痙攣し、花芽がヒクヒクとうごめいた。
「はぁ……う、ん……」
愛莉が脱力しても、碓氷はローターとバイブの電源を止めない。
「きみのココがどのくらいとろけてるのか見たくなった。脱げ」
「ひゃっ……ぁ、ん!」
碓氷はふたつの玩具を器用に片手で持って、ふくらみの先端に交互に這わせた。もう片方の手は下半身の衣服を脱がせにかかっている。
羞恥心はどこかへ行ってしまったようだ。彼に服を脱がされても抗う気にはなれず、むしろ積極的にスカートを脱ぎ捨てた。
(もっと、いじってもらいたい……)
はだけたブラウスとブラジャーはそのままで、愛莉はいま下半身だけを大っぴらにさらしている。
振動するローターが裂け目に近づく。もたらされるであろう快楽を予感して身震いしてしまう。
『諒太くーん、どこにいるのかなー?』
突然、聞きなれない男性の声とともに部屋の扉がドンドンッとノックされた。
碓氷も驚いたのか、彼の手は花芽に触れるか否かのところで止まっている。
『ねえねえ、ここでしょー? 俺だよ、要だよー』
声の主はおそらく碓氷がこの部屋にいることを確信している。そんな口ぶりだ。
「……気にしなくていい」
「んっ……! で、でも……っぁ、ア」
ぷっくりとふくれ上がった豆粒をツンと押されて喘ぐ。
気にするな、と言われてもそうはいかない。モニター室の扉一枚を隔てたところにいる男は相変わらず話し続けている。
『ねぇ、諒太くん。俺ここの部屋の合鍵を持ってるんだよね。いますぐ勝手に入っちゃってもいいのかなぁ』
愛莉は思わず振り返って碓氷を見上げた。彼のコワモテは余計に凍りついている。
「入ってくるな。あとで行くから待ってろ」
低音が響く。耳もとでそんな大声を出されてはたまらない。うるさいわけではない。よけいに身体が疼いてしまって困るのだ。
『嫌だね。一秒も待てない。すぐに出てきて。じゃなきゃ開けるよ』
「待て! ……すぐに行くから開けるな」
チッと舌打ちをして、碓氷は玩具の電源を切った。それから、ベッドの上に散らばっていた愛莉の服を手に取った。
「あ……自分で、着ます」
途中までは服を着せられていた。呆然としていたのだ。
けれどよく考えたら上司である彼に服を着せてもらうなんてゼイタク極まりない。ブラウスのボタンを留めようと手を伸ばす。
「どうせひとりでは着られないだろう。俺がやるほうが早い」
そんなことないのに、とは言えなかった。そう言ういとまもなく碓氷は手早く愛莉の服をもとに戻したのだった。
愛莉はモニター室の出入口へ向かう碓氷のあとを追いかけてベッドから立ち上がった。
彼が扉を開けると、そこには見知らぬ男が満面の笑みで腕組みをしていた。
「いやぁーダメだよ諒太くん、ひとりじめは。新しく入った子、俺にも見せて」
男は碓氷の両肩をつかんでこちらをのぞき込んだ。目が合ったから、会釈をした。男はますますニヤリと口角を上げた。
「どうも初めまして、俺は氷室《ひむろ》 要《かなめ》。専務やってまーす」
「おい、離れろ。重い」
親しげに碓氷とじゃれあう彼は愛莉のなかでの専務のイメージとはかけ離れていた。
ウェーブがかった茶色い髪に、ノーネクタイのカジュアルなスーツ。年齢は愛莉よりも少し上といったところか。碓氷もそうだけれど、役職のわりに若いのだ。
「昨日からこちらで働かせていただいております、嶋谷愛莉です。よろしくお願いします」
「うん、よろしく。それにしても……へえ、ふーん」
氷室は碓氷に払いのけられながら愛莉の前に立った。全身を見まわされ、居心地が悪い。
「諒太くんが入れ込んでるっていうからどんな子かと思えば……真面目なメガネ女子なんて、諒太くんの好みドンピシャだね! 昔っから眼鏡の女の子が大好きだったもんねえ。それに初恋は――」
「要! それ以上よけいなことを言ったらお前の恥ずかしい過去をグループ各社に流すぞ」
「ははは……お願い、やめて」
愛莉は目を丸くしたままふたりのやりとりを傍観していた。碓氷は相変わらず愛想がないけれど、ふたりはずいぶんと仲がいいように見受けられる。
「ところで諒太くん、愛莉ちゃんとふたりっきりでナニしてたの」
「お前には関係ない。嶋谷くん、ボサッとしてないで業務に戻るぞ」
碓氷は咳払いをしてモニター室を出て行った。氷室は今度は愛莉に目を向けている。
このままでは質問の矛先までこちらに向きそうだ。愛莉は大声で「はい」と返事をして足早に部屋を出た。
「あの、言いましたよね? 碓氷さんの前でするのは恥ずかしいから、家で……って」
「恥ずかしがることはない。これは仕事だ。俺の前で実際にやるほうが報告書を作成する手間が省けるだろ」
「……っ!」
それ以上は後ろに行けなくなって、体勢を崩してベッドに転がってしまった。大人の玩具はベッドに散らばっている。愛莉は慌ててスカートのすそを整えながら碓氷を見上げた。
「無理ですっ、絶対に」
「なぜ。きみは仕事に対して真面目だと思っていたんだがな」
「仕事って、そんな……」
「言っておくが俺にやましい気持ちはない。これはきみの教育を兼ねたビジネスだ。さあ、早く」
碓氷はベッド端に片ひざをついて身を乗り出し、小さなローターを手に取っておもむろに愛莉に差し出した。
なぜローターを受け取ってしまったのか自分でも解せない。碓氷の言う「やましい気持ちはない」を信用したわけではないけれど、射るように見つめてくる彼の視線に逆らえなくて愛莉は首を縦に振った。
「……後ろ向きでもいいですか?」
「は? 何か言ったか」
「……いえ」
怖い、怖すぎる。有無を言わさぬ態度で碓氷はベッドに腰かけ腕組みをしている。
「どうした、早くしろ」
「あ……その、使いかたがわからなくて」
「そうか。では寄越せ、俺が」
「いえ、いえっ! 指示していただければわかりますから!」
彼がため息をついたように見えた。使えない人間だと思われたのだろうか。気持ちが沈む。
「まずは乳首に当ててみろ。下着の上からでかまわない」
愛莉はぎょっとして目を見ひらく。
(いま、乳首って言ったよね? なんの恥じらいもなく)
あんぐりと口を開けている愛莉を、碓氷は不思議そうに眺めている。
「ひとまずそのブラウスは脱げ。脱がせてやろうか」
「いっ、いえ、自分で」
あわててそう答え、ブラウスのボタンを外しにかかった。けれど指が震えてうまく外せない。
「何してる、きみはひとりで服を脱げないのか」
「ち、ちが……ぁ、の!」
まどろっこしい、と言わんばかりに手を覆われ、白いブラウスのボタンは瞬く間に外されて下着があらわになった。
(やっぱり恥ずかしい……!)
両腕で前を隠しながらうつむく。
「嶋谷くん、ほかにも業務は山ほどあるんだ。早くしてくれないか」
ひときわ低い声が降ってきて、よけいに身が硬くなる。
「でしたら、やっぱり私……家に帰ってからにします」
「口ごたえするな。次に何か言ったらクビだ」
「ええっ……!? あ……ちょ、まっ……。ん、ぅ……っ!」
こんなことはやはり仕事ではない。セクハラとパワハラのダブルパンチではないか。そう思うのに、口にすることができない。
下着の上からピンク色のローターを押し当てられ、身をよじる。
「あ……ぅ、碓氷さん……じ、自分で……します」
彼の手から玩具を奪う。あっさりと渡され、ひとまずは安心する。
「使いかたがわからないんだろう? こうしておいてやる」
「え……っ!? あ、ん……ッ!」
碓氷が愛莉の手をつかむ。そのまま愛莉の手ごとローターを動かして、下着越しにふくらみの先端をゴリゴリと刺激している。
「ぁ、あ……ん、んっ」
「いまどんな気分だ? 聞かせろ」
「……っ、くすぐったくて……。ん、ぁ……っ。もどかし……っゃ、ん」
「もうじかに触れたくなったのか」
コクリとうなずく。すると碓氷は愛莉の背中に手をまわして下着のホックを弾いた。ふくらみはいっそう無防備になる。
「あ、あの……やっぱり、恥ずかしいです……! ちょっと、待ってくださ……っぃ!?」
視界が揺れる。急に身体を抱き寄せられ、あぐらをかく彼の上に乗っかる格好になった。
「俺の顔が見えなければ恥ずかしくないだろ」
お互いが窓のほうを向いているから、確かに彼の顔は見えない。けれどなんだか主旨がずれてきている。
「碓氷さん……っ、本当に、やましい気持ちはないんですよね?」
「ああ……あるのはきみへの興味だけだ」
「へ……っ? ぁ、あんっ……!」
愛莉の手から滑り落ちたローターを拾った碓氷はそれをブラジャーの下方から忍ばせた。ツン、ツンッと先端を突つかれ、いてもたってもいられなくなって愛莉は膝を擦り合わせる。
「どうした、かゆいのか」
「っぁ、ん……!」
ローターを持っていないほうの手でストッキング越しに脚を撫でられる。
「いくつか同時に試すのもいいな。下はコレでいじってやる」
「んっ……!? ひ、ぁっ」
ベッドの上に転がっていた大きめのバイブを股間に押し当てられ、愛莉はいっそう喘いだ。
「嶋谷くん、使用感の報告を忘れるな」
耳もとでささやかれ、身体が跳ねる。こんな状態で報告どころではないのだが、愛莉はなんとか口をひらいた。
「ふ……ん、ん……っ。そんな……上も下も、なんて……。っぁ、すぐに……イっちゃう……!」
「……素直でいい。そろそろ電源を入れようか」
「ひぁっ、ああっ!」
カチッと音がして、すぐに機械的な振動が愛莉の身体を揺さぶり始めた。
碓氷は愛莉のブラジャーを胸の上まで捲り上げ、振動するローターを乳輪に這わせた。
プラスチック素材の小さな玩具は冷えているわけではないのにつめたく感じてしまう。自分の体温が高いからだ。
「ああっ、あ……。ん、んう――……っ!」
下着とストッキングはいまだに身に着けたままだ。それなのに、割れ目にバイブをねじ込まれただけで身体はまたたく間に痙攣し、花芽がヒクヒクとうごめいた。
「はぁ……う、ん……」
愛莉が脱力しても、碓氷はローターとバイブの電源を止めない。
「きみのココがどのくらいとろけてるのか見たくなった。脱げ」
「ひゃっ……ぁ、ん!」
碓氷はふたつの玩具を器用に片手で持って、ふくらみの先端に交互に這わせた。もう片方の手は下半身の衣服を脱がせにかかっている。
羞恥心はどこかへ行ってしまったようだ。彼に服を脱がされても抗う気にはなれず、むしろ積極的にスカートを脱ぎ捨てた。
(もっと、いじってもらいたい……)
はだけたブラウスとブラジャーはそのままで、愛莉はいま下半身だけを大っぴらにさらしている。
振動するローターが裂け目に近づく。もたらされるであろう快楽を予感して身震いしてしまう。
『諒太くーん、どこにいるのかなー?』
突然、聞きなれない男性の声とともに部屋の扉がドンドンッとノックされた。
碓氷も驚いたのか、彼の手は花芽に触れるか否かのところで止まっている。
『ねえねえ、ここでしょー? 俺だよ、要だよー』
声の主はおそらく碓氷がこの部屋にいることを確信している。そんな口ぶりだ。
「……気にしなくていい」
「んっ……! で、でも……っぁ、ア」
ぷっくりとふくれ上がった豆粒をツンと押されて喘ぐ。
気にするな、と言われてもそうはいかない。モニター室の扉一枚を隔てたところにいる男は相変わらず話し続けている。
『ねぇ、諒太くん。俺ここの部屋の合鍵を持ってるんだよね。いますぐ勝手に入っちゃってもいいのかなぁ』
愛莉は思わず振り返って碓氷を見上げた。彼のコワモテは余計に凍りついている。
「入ってくるな。あとで行くから待ってろ」
低音が響く。耳もとでそんな大声を出されてはたまらない。うるさいわけではない。よけいに身体が疼いてしまって困るのだ。
『嫌だね。一秒も待てない。すぐに出てきて。じゃなきゃ開けるよ』
「待て! ……すぐに行くから開けるな」
チッと舌打ちをして、碓氷は玩具の電源を切った。それから、ベッドの上に散らばっていた愛莉の服を手に取った。
「あ……自分で、着ます」
途中までは服を着せられていた。呆然としていたのだ。
けれどよく考えたら上司である彼に服を着せてもらうなんてゼイタク極まりない。ブラウスのボタンを留めようと手を伸ばす。
「どうせひとりでは着られないだろう。俺がやるほうが早い」
そんなことないのに、とは言えなかった。そう言ういとまもなく碓氷は手早く愛莉の服をもとに戻したのだった。
愛莉はモニター室の出入口へ向かう碓氷のあとを追いかけてベッドから立ち上がった。
彼が扉を開けると、そこには見知らぬ男が満面の笑みで腕組みをしていた。
「いやぁーダメだよ諒太くん、ひとりじめは。新しく入った子、俺にも見せて」
男は碓氷の両肩をつかんでこちらをのぞき込んだ。目が合ったから、会釈をした。男はますますニヤリと口角を上げた。
「どうも初めまして、俺は氷室《ひむろ》 要《かなめ》。専務やってまーす」
「おい、離れろ。重い」
親しげに碓氷とじゃれあう彼は愛莉のなかでの専務のイメージとはかけ離れていた。
ウェーブがかった茶色い髪に、ノーネクタイのカジュアルなスーツ。年齢は愛莉よりも少し上といったところか。碓氷もそうだけれど、役職のわりに若いのだ。
「昨日からこちらで働かせていただいております、嶋谷愛莉です。よろしくお願いします」
「うん、よろしく。それにしても……へえ、ふーん」
氷室は碓氷に払いのけられながら愛莉の前に立った。全身を見まわされ、居心地が悪い。
「諒太くんが入れ込んでるっていうからどんな子かと思えば……真面目なメガネ女子なんて、諒太くんの好みドンピシャだね! 昔っから眼鏡の女の子が大好きだったもんねえ。それに初恋は――」
「要! それ以上よけいなことを言ったらお前の恥ずかしい過去をグループ各社に流すぞ」
「ははは……お願い、やめて」
愛莉は目を丸くしたままふたりのやりとりを傍観していた。碓氷は相変わらず愛想がないけれど、ふたりはずいぶんと仲がいいように見受けられる。
「ところで諒太くん、愛莉ちゃんとふたりっきりでナニしてたの」
「お前には関係ない。嶋谷くん、ボサッとしてないで業務に戻るぞ」
碓氷は咳払いをしてモニター室を出て行った。氷室は今度は愛莉に目を向けている。
このままでは質問の矛先までこちらに向きそうだ。愛莉は大声で「はい」と返事をして足早に部屋を出た。