1階の事務所へ戻った愛莉は自分のデスクを見るなり目を輝かせた。真新しいノートパソコンが置いてあったからだ。
「これ、さっき届いたんだよ! 愛莉ちゃん専用ね」
塩野谷は向かいのデスクから身を乗り出してノートパソコンの端をポンポンと叩いている。
「えーと、ネットの接続がまだなんだよね。専務、お願いします」
「りょうかーい」
愛莉よりも遅れて事務所へ入ってきた氷室は自分の席のごとく椅子に腰かけ、パソコンをいじり始めた。若いとはいえ専務にそんなことをしてもらうのはなんだか気が引ける。
「コイツは専務といっても名ばかりだ。気にしなくていい」
愛莉の心理を悟ったらしい碓氷が言った。壁にもたれかかって腕を組み、氷室の様子をうかがっている。インターネットの接続設定が終わるのを待っているようだ。
「はーい、できたよ。ねえ、見て見てー。コレがわが社のホームページでーす」
うやうやしく言って、氷室は椅子から立ち上がりノートパソコンに五本指を向けた。
言われるままにのぞき込むと、そこには2階の倉庫に並べてあった商品が上品に掲載されていた。
「へえ……いいですね。なんというか……そんなにいやらしくないです」
率直に述べると、碓氷が隣にやってきて愛莉と同じようにノートパソコンをのぞき込んだ。
「実はまだ立ち上げたばかりで、これと言った販売戦略が決まっていない。インターネット販売をするうえで何かいい案はないか?」
「ひゃっ」
トンッと肩が触れて、愛莉は身体を弾ませて数歩下がった。ほんの少しの接触だったのに反射的に距離を取ってしまい、それを不審に思ったらしい碓氷は眉間に深くしわを刻んで愛莉を見つめている。
「……今日中に案をまとめておくように」
眉根を寄せた表情のままの碓氷に凄まれる。愛莉は直立不動で「はい」と返事をした。
「なになにー、ふたりはいったいドコまで進んでんの?」
碓氷が社長室に戻ったあとだった。氷室は愛莉の隣の席から椅子だけを持ってきて座っている。大きく広げた脚の間に両手をついて、いかにも興味津々といった様子だ。
「な……べつに、何もありません」
「うっそだぁ。ねえ、秋穂さんは知ってる? ふたりの関係」
「んんー……? 何がー……?」
雑誌を読むのをやめずに生返事をする蜷川。氷室とは対照的に、まったく興味がなさそうだ。
「愛莉ちゃん、きみったら社長とそういう関係になっちゃったの!?」
頓狂な声を出す塩野谷。愛莉は口もとに人差し指を立てて制する。
「塩野谷さん、声が大きいです! それから、社長とは本当になんでもないですから」
(そうよ、売り物の玩具を試した、それだけ……)
先ほどのモニター室での出来事を思い出して、わずかに下肢がジンと疼いた。愛莉は横に小さく首を振って、商品が掲載されているホームページにふたたび目を向けた。
その日の夕方、愛莉は提案書を持って社長室へ赴いた。ノックをしてなかへ入る。
「早いな、もうできたのか」
「今日中に一度、社長に見ていただこうかと思いまして」
「……名前」
不機嫌そうな顔のまま見上げられる。愛莉は「あっ」と声を出して口もとを押さえた。どうも、彼を苗字で呼ぶのには慣れない。
「すみません、碓氷さん。でも、あの……ふたりのときだけですからね。さすがにほかのかたがいる前で苗字を呼ぶのはちょっと」
愛莉は隣の事務所に聞こえないように小声で言った。社長室の扉は閉まっているけれど、壁が薄いのか塩野谷の声が甲高いからか、事務所からの話し声がいまもかすかに聞こえるのだ。
「……それは、ふたりだけの秘密というやつか」
驚いた。何に驚いたかというと、彼の表情だ。怖い顔には違いないのに、頬が赤く染まっているからかわいらしく見える。
「えっと……まあ、そうですね」
彼が何を思ってそんな顔になっているのか理解しがたい。けれどこちらまでつられて頬が熱くなる。
「あの、それで……いかがですか、提案書の内容は」
愛莉はコホンと咳払いをして、提案書に目を通すよううながした。彼と見つめ合ったままなんて気まずい。
「ああ……」
とたんにいつものコワモテになった碓氷は下を向いて書類を読み始めた。やはり、さがっていいとは言われない。
「……声、か。そんなもので女性は感じるのか?」
「は、い……。そうだと、思います」
愛莉が碓氷に提案したのは、大人の玩具と一緒にボイスドラマをセット販売、もしくはホームページ上で公開するというものだった。碓氷は性に対して寛大なのか、仕事だからなのか、ストレートに聞いてくるから少し困る。
「声を聞いたくらいで濡れるものか? 視覚的な要素がなくても?」
「はい。碓氷さんの声を聞いてるだけで、私……」
ふたたび慌てて口もとを押さえる。今度は愛莉の頬が真っ赤に染まっていることだろう。
(やだ、何を言ってるの、私ったら……!)
「俺の声を聞いてるだけで、なんだ?」
「あの、違うんです。その……」
「違う? じゃあこの提案書はボツということになるが」
「な、そうじゃなくて……とにかく、声は大事なんですっ」
「そうか、では試してみよう。何事も実践だ。そこに座れ」
応接室も兼ねているこの部屋には黒革の立派なソファがある。愛莉は言われるままソファに腰をおろした。
黒革のソファは座り心地がよい。きっとお高い品なのだろう。隣に碓氷も腰かけてきたので、座面はさらに柔らかく沈み込む。
「碓氷さん、あの……?」
肩が触れそうになったので左腕を自身の腰に巻きつけるようにして正面に持ってきて、右手で押さえた。
「きみはさっきも俺のことを避けたな。どういうつもりだ」
「……っ!」
引き気味だった肩をつかまれ、耳に吹き込むようにささやかれた。咎めるような調子で、すごみがある。脇腹のあたりがゾクリと震え、なんとも形容しがたいしびれが走った。
「ち、近い、です……もう少し距離を」
「俺のことが嫌いか?」
「ひゃっ……!」
吐息まじりの低い声音は妙に艶っぽくて、触れてもいない下半身の蜜口がピクンと能動的に跳ねる。
「碓氷さん……何がしたいんですか」
うつむいたまま尋ねる。セミロングの髪は肩をつかまれていないほうの手ですくわれ、指を絡めたり落としたりともてあそばれている。
「声だけで濡れるか試してるんだ。それと……きみのことが知りたい」
耳たぶに生温かいものが触れて、愛莉は驚いて彼のほうを振り向いた。声だけで、と言ったくせに舌も使ってるじゃないか、とは言えなかった。何か言う前に身体はグラリと傾いて、真っ白な天井でいっぱいになる。
「な、な……っ!?」
「どんな具合か確かめるから脚を開け」
「え、あ……っふ、ぅ!」
黒革ソファの上は仰向けになってもやはり気持ちがいい。けれどそんなことを考えている場合ではない。
彼の指と愛莉の秘所を隔てるのはストッキングとショーツだけだ。その薄っぺらい布切れをグリグリと親指で刺激され、悶える。脚を閉じようにも彼の身体が邪魔だった。
「染み出すほどではないようだな。本当に濡れているのか? じかに見なければわからないな」
ごく真面目な顔つきでそう言って、碓氷は愛莉のスカートをバサリと腰もとまでまくり上げた。
「ちょ、待ってくださ……っい……ぁ……!」
肌色のストッキングと下着をいっしょくたにずり下げられ、愛莉は頭の中が真っ白になった。
(なんで、なんで……!? こんなこと)
彼は愛莉に興味があるらしい。それはきっと思い上がりではない。けれど、どういった類の興味なのかわからないのだ。面白半分なのか、それとも――……。
「あっ……ん、ふ」
彼の長い中指が陰毛をたどる。焦らすように揺れ動いて、それからゆっくりと蜜口にねじ込まれる。
「確かに濡れてるな。あれくらいで……。きみは感じやすいのか?」
「っや……なかに、挿れちゃ……ゃ、ぁ」
たやすく指をのみ込むほど濡れているのが自分でも信じられない。彼の指はぬちゅぬちゅと進み、アッサリと蜜奥におさまってしまう。
「ずいぶんと窮屈だ。かきまわすのに骨が折れる」
「ひぁっ……あ、あ!」
碓氷が愛莉の蜜壺をかき乱すのは造作もないことのように思えた。彼は表情を変えぬまま中指で膣壁を四方に押しまわしている。特に力を入れている様子は見られない。
「っや、ぁ……碓氷さ……やめ……ん、ンン」
そもそもこの状況はおかしい。濡れているかどうか確かめると言っていたのに、なぜ彼は愛莉の膣内に指をうずめているのだ。おかしいと思いながらも抵抗しないのは、愛莉の本意なのか身体の意思なのかハッキリしない。
「ここでやめたら もどかしいだろう?イクまでやってやる」
「あっ、アア……!ん、んふ……っ」
彼の指が激しく前後し始めた時だった。ピルルルル、と部屋の内線が鳴り響く。碓氷は初めそれを無視していたけれど、しまいには部屋の扉がノックされて、
『社長! お父様からのお電話ですが、いかがなさいますか!?』
塩野谷の焦燥感あふれる声を聞いた碓氷はわずかに顔色を変えて、名残り惜しそうにゆっくりと指を引き抜いた。
碓氷が電話に出ているあいだに愛莉は乱れてしまった衣服を整えた。電話の内容は聞かないほうがいいだろう。会釈をして社長室を出る。
「ずいぶんと色っぽい声だったわねぇ、愛莉ちゃん」
自分の席につくなり蜷川から声をかけられ、愛莉は顔面から火が出るかと思った。塩野谷もニヤニヤとほほえみながらこちらを見ている。何かうまい言いわけはないかと考える。
『はい、はい……。いまからですか? ……ええ、問題ありません。はい……ではのちほど』
隣室の碓氷の声は筒抜けだ。愛莉の嬌声も同じ状態だったに違いない。気まずさのあまり愛莉は「お茶! 淹れてきますっ」と叫びながら立ち上がり、逃げるように給湯室へ向かった。
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「これ、さっき届いたんだよ! 愛莉ちゃん専用ね」
塩野谷は向かいのデスクから身を乗り出してノートパソコンの端をポンポンと叩いている。
「えーと、ネットの接続がまだなんだよね。専務、お願いします」
「りょうかーい」
愛莉よりも遅れて事務所へ入ってきた氷室は自分の席のごとく椅子に腰かけ、パソコンをいじり始めた。若いとはいえ専務にそんなことをしてもらうのはなんだか気が引ける。
「コイツは専務といっても名ばかりだ。気にしなくていい」
愛莉の心理を悟ったらしい碓氷が言った。壁にもたれかかって腕を組み、氷室の様子をうかがっている。インターネットの接続設定が終わるのを待っているようだ。
「はーい、できたよ。ねえ、見て見てー。コレがわが社のホームページでーす」
うやうやしく言って、氷室は椅子から立ち上がりノートパソコンに五本指を向けた。
言われるままにのぞき込むと、そこには2階の倉庫に並べてあった商品が上品に掲載されていた。
「へえ……いいですね。なんというか……そんなにいやらしくないです」
率直に述べると、碓氷が隣にやってきて愛莉と同じようにノートパソコンをのぞき込んだ。
「実はまだ立ち上げたばかりで、これと言った販売戦略が決まっていない。インターネット販売をするうえで何かいい案はないか?」
「ひゃっ」
トンッと肩が触れて、愛莉は身体を弾ませて数歩下がった。ほんの少しの接触だったのに反射的に距離を取ってしまい、それを不審に思ったらしい碓氷は眉間に深くしわを刻んで愛莉を見つめている。
「……今日中に案をまとめておくように」
眉根を寄せた表情のままの碓氷に凄まれる。愛莉は直立不動で「はい」と返事をした。
「なになにー、ふたりはいったいドコまで進んでんの?」
碓氷が社長室に戻ったあとだった。氷室は愛莉の隣の席から椅子だけを持ってきて座っている。大きく広げた脚の間に両手をついて、いかにも興味津々といった様子だ。
「な……べつに、何もありません」
「うっそだぁ。ねえ、秋穂さんは知ってる? ふたりの関係」
「んんー……? 何がー……?」
雑誌を読むのをやめずに生返事をする蜷川。氷室とは対照的に、まったく興味がなさそうだ。
「愛莉ちゃん、きみったら社長とそういう関係になっちゃったの!?」
頓狂な声を出す塩野谷。愛莉は口もとに人差し指を立てて制する。
「塩野谷さん、声が大きいです! それから、社長とは本当になんでもないですから」
(そうよ、売り物の玩具を試した、それだけ……)
先ほどのモニター室での出来事を思い出して、わずかに下肢がジンと疼いた。愛莉は横に小さく首を振って、商品が掲載されているホームページにふたたび目を向けた。
その日の夕方、愛莉は提案書を持って社長室へ赴いた。ノックをしてなかへ入る。
「早いな、もうできたのか」
「今日中に一度、社長に見ていただこうかと思いまして」
「……名前」
不機嫌そうな顔のまま見上げられる。愛莉は「あっ」と声を出して口もとを押さえた。どうも、彼を苗字で呼ぶのには慣れない。
「すみません、碓氷さん。でも、あの……ふたりのときだけですからね。さすがにほかのかたがいる前で苗字を呼ぶのはちょっと」
愛莉は隣の事務所に聞こえないように小声で言った。社長室の扉は閉まっているけれど、壁が薄いのか塩野谷の声が甲高いからか、事務所からの話し声がいまもかすかに聞こえるのだ。
「……それは、ふたりだけの秘密というやつか」
驚いた。何に驚いたかというと、彼の表情だ。怖い顔には違いないのに、頬が赤く染まっているからかわいらしく見える。
「えっと……まあ、そうですね」
彼が何を思ってそんな顔になっているのか理解しがたい。けれどこちらまでつられて頬が熱くなる。
「あの、それで……いかがですか、提案書の内容は」
愛莉はコホンと咳払いをして、提案書に目を通すよううながした。彼と見つめ合ったままなんて気まずい。
「ああ……」
とたんにいつものコワモテになった碓氷は下を向いて書類を読み始めた。やはり、さがっていいとは言われない。
「……声、か。そんなもので女性は感じるのか?」
「は、い……。そうだと、思います」
愛莉が碓氷に提案したのは、大人の玩具と一緒にボイスドラマをセット販売、もしくはホームページ上で公開するというものだった。碓氷は性に対して寛大なのか、仕事だからなのか、ストレートに聞いてくるから少し困る。
「声を聞いたくらいで濡れるものか? 視覚的な要素がなくても?」
「はい。碓氷さんの声を聞いてるだけで、私……」
ふたたび慌てて口もとを押さえる。今度は愛莉の頬が真っ赤に染まっていることだろう。
(やだ、何を言ってるの、私ったら……!)
「俺の声を聞いてるだけで、なんだ?」
「あの、違うんです。その……」
「違う? じゃあこの提案書はボツということになるが」
「な、そうじゃなくて……とにかく、声は大事なんですっ」
「そうか、では試してみよう。何事も実践だ。そこに座れ」
応接室も兼ねているこの部屋には黒革の立派なソファがある。愛莉は言われるままソファに腰をおろした。
黒革のソファは座り心地がよい。きっとお高い品なのだろう。隣に碓氷も腰かけてきたので、座面はさらに柔らかく沈み込む。
「碓氷さん、あの……?」
肩が触れそうになったので左腕を自身の腰に巻きつけるようにして正面に持ってきて、右手で押さえた。
「きみはさっきも俺のことを避けたな。どういうつもりだ」
「……っ!」
引き気味だった肩をつかまれ、耳に吹き込むようにささやかれた。咎めるような調子で、すごみがある。脇腹のあたりがゾクリと震え、なんとも形容しがたいしびれが走った。
「ち、近い、です……もう少し距離を」
「俺のことが嫌いか?」
「ひゃっ……!」
吐息まじりの低い声音は妙に艶っぽくて、触れてもいない下半身の蜜口がピクンと能動的に跳ねる。
「碓氷さん……何がしたいんですか」
うつむいたまま尋ねる。セミロングの髪は肩をつかまれていないほうの手ですくわれ、指を絡めたり落としたりともてあそばれている。
「声だけで濡れるか試してるんだ。それと……きみのことが知りたい」
耳たぶに生温かいものが触れて、愛莉は驚いて彼のほうを振り向いた。声だけで、と言ったくせに舌も使ってるじゃないか、とは言えなかった。何か言う前に身体はグラリと傾いて、真っ白な天井でいっぱいになる。
「な、な……っ!?」
「どんな具合か確かめるから脚を開け」
「え、あ……っふ、ぅ!」
黒革ソファの上は仰向けになってもやはり気持ちがいい。けれどそんなことを考えている場合ではない。
彼の指と愛莉の秘所を隔てるのはストッキングとショーツだけだ。その薄っぺらい布切れをグリグリと親指で刺激され、悶える。脚を閉じようにも彼の身体が邪魔だった。
「染み出すほどではないようだな。本当に濡れているのか? じかに見なければわからないな」
ごく真面目な顔つきでそう言って、碓氷は愛莉のスカートをバサリと腰もとまでまくり上げた。
「ちょ、待ってくださ……っい……ぁ……!」
肌色のストッキングと下着をいっしょくたにずり下げられ、愛莉は頭の中が真っ白になった。
(なんで、なんで……!? こんなこと)
彼は愛莉に興味があるらしい。それはきっと思い上がりではない。けれど、どういった類の興味なのかわからないのだ。面白半分なのか、それとも――……。
「あっ……ん、ふ」
彼の長い中指が陰毛をたどる。焦らすように揺れ動いて、それからゆっくりと蜜口にねじ込まれる。
「確かに濡れてるな。あれくらいで……。きみは感じやすいのか?」
「っや……なかに、挿れちゃ……ゃ、ぁ」
たやすく指をのみ込むほど濡れているのが自分でも信じられない。彼の指はぬちゅぬちゅと進み、アッサリと蜜奥におさまってしまう。
「ずいぶんと窮屈だ。かきまわすのに骨が折れる」
「ひぁっ……あ、あ!」
碓氷が愛莉の蜜壺をかき乱すのは造作もないことのように思えた。彼は表情を変えぬまま中指で膣壁を四方に押しまわしている。特に力を入れている様子は見られない。
「っや、ぁ……碓氷さ……やめ……ん、ンン」
そもそもこの状況はおかしい。濡れているかどうか確かめると言っていたのに、なぜ彼は愛莉の膣内に指をうずめているのだ。おかしいと思いながらも抵抗しないのは、愛莉の本意なのか身体の意思なのかハッキリしない。
「ここでやめたら もどかしいだろう?イクまでやってやる」
「あっ、アア……!ん、んふ……っ」
彼の指が激しく前後し始めた時だった。ピルルルル、と部屋の内線が鳴り響く。碓氷は初めそれを無視していたけれど、しまいには部屋の扉がノックされて、
『社長! お父様からのお電話ですが、いかがなさいますか!?』
塩野谷の焦燥感あふれる声を聞いた碓氷はわずかに顔色を変えて、名残り惜しそうにゆっくりと指を引き抜いた。
碓氷が電話に出ているあいだに愛莉は乱れてしまった衣服を整えた。電話の内容は聞かないほうがいいだろう。会釈をして社長室を出る。
「ずいぶんと色っぽい声だったわねぇ、愛莉ちゃん」
自分の席につくなり蜷川から声をかけられ、愛莉は顔面から火が出るかと思った。塩野谷もニヤニヤとほほえみながらこちらを見ている。何かうまい言いわけはないかと考える。
『はい、はい……。いまからですか? ……ええ、問題ありません。はい……ではのちほど』
隣室の碓氷の声は筒抜けだ。愛莉の嬌声も同じ状態だったに違いない。気まずさのあまり愛莉は「お茶! 淹れてきますっ」と叫びながら立ち上がり、逃げるように給湯室へ向かった。