あいまいな恋の自覚 ~鬼畜な御曹司と淫らな遊び~ 《 11

「朝飯できたぞ。……あまり気を遣うな。具合、よくないんだろ」

開けっぱなしだった扉を片手で持ち、碓氷は気遣わしげに言った。
彼も服を着ていて、薄手の黒いVネックシャツに柔らかそうな素材のズボンを履いている。見るからに部屋着だ。
愛莉は朝食を準備してもらったことのお礼を述べて部屋を出た。

寝室からダイニングまでは遠かった。おそらくここは碓氷の自宅だから、オフィスの3階ということになる。広いのは納得だ。

寝室もそうだけれど、この家には余計なものがない。
雑貨であふれている愛莉の自宅とは大違いで、必要最低限の物ばかりだ。
20畳ほどのダイニングには4人がけのテーブルと椅子、それから空気清浄機がある。目立つのはそれくらいで、観葉植物のたぐいはない。

「ご準備していただいて、本当にありがとうございます。いただきます」

手を合わせてトーストにかじりつく。頭は痛いけれど食欲はある。お腹はペコペコだ。
テーブルの上にはきつね色に焼けた美味しそうなトーストと、みずみずしいトマト、それから鮮やかな色のオレンジジュースがある。

「碓氷さんは朝パン派なんですね」

お腹がふくれてきたところで愛莉は話しかけた。黙々と食べ進めていては気まずいからだ。

「そうだな。実家にいたときは飯だったが、ひとりだとどうも味噌汁まで作る気がしない」

あいづちを打ってオレンジジュースを飲み、愛莉はさらに会話を続ける。

「碓氷さんのご実家って……その、本当に、えっと」

「きみが考えているのような家ではない。何なら今度、くるか? 自分の目で確かめてみろ」

「いっ、いえ……そうですよね、すみません」

あいまいにほほえんで、愛莉は食べかけのトーストをほおばった。

食事を終えた愛莉は碓氷が用意してくれた薬を飲んだ。
置き薬のようで、昔おばあちゃんの家で見たものと同じだった。使ったぶんだけ支払うというアレだ。

「あの、お薬代はいくらですか」

リビングに移動した愛莉はソファに置いてあった自分のハンドバッグから財布を取り出して尋ねた。こんなところにバッグを置いた覚えはないけれど、中身ともに間違いなく愛莉のものだ。

「そんなものは……いや、いただいておくか」

碓氷は静かに近づいてくる。愛莉は値段を言われるのを待っていた。

「っ、あ、の……?」

待てども待てども薬の値段はわからない。彼との距離はどんどん狭くなる。
愛莉は両手で財布を持ったまま硬直していた。両肩はガッチリとつかまれている。

「ん……っ」

なにをされるのか、予想はついていたのかもしれない。
合わさった唇の感触は、とても柔らかだった。

「……これくらいじゃ足りないな」

口づけが終わって、唇が離れる。キスをしているあいだも愛莉の目はひらきっぱなしだった。
(なにをしようとしてたんだっけ……そうだ、薬代を)

落っことしそうになっていた財布を持ち直す。いま考えるべきことはほかにあると思うけれど、思考回路はマトモにまわらない。

「く、薬代……いくらですか」

「きみは意外と鈍いな。それともわざとか? 金は要らない。身体で払ってもらう」

「わ……!」

ふかふかのソファに沈み込む。部屋の広さに合ったソファだから、仰向けに寝転がっても身体がはみ出したりはしない。

「……目を閉じろ。それとも開けたままのほうが好きなのか?」

碓氷は愛莉に覆いかぶさってささやいた。二回目のキスが迫っている。愛莉は慌ててまぶたを閉じた。

(待って待って、何で言うとおりにしてるの)

頭痛薬の代金を身体で支払うなんてばかげている。数百円を渡せば済むはずだ。逆に考えると愛莉の身体は数百円の価値しかないということになる。

「ん……ぅ……」

ふたたび重なった唇はねっとりと愛莉のそれに吸いつく。
角度を変えて何度も舞い落ちる口づけは甘い。かすかにオレンジジュースの味がする。

薬代だなんて、ただの口実なのではないか。
彼は愛莉とこういうことがしたいだけなのでは――。

「薬は効いてきたか?」

「……んっ!」

碓氷は愛莉の頭を撫でながら首筋に舌を這わせている。少しザラザラしていて、くすぐったい。

「ま、だ……痛い、です」

飲んだばかりですぐに効くはずがない。彼もそれはわかっているようで、

「そうか……じゃあ薬が効くまでは触れるだけにしておく」

次々と外されていく上着のボタン。
抗おうと思えばできたのに、愛莉はそれをしなかった。

(どうしよう、流されてる……。でも、キス……気持ちよかった)

彼の唇を見つめてしまっていたらしく、碓氷は愛莉の視線に気づいたようすでふたたび顔を寄せた。
唇の割れ目から彼の舌が入り込んでくる。すぐに愛莉のものに絡みついて、もう逃げられない。そもそも、それを拒む必要があるのかもわからなくなってきた。

「ン、ン……ッ」

突かれて、吸い上げられて、舌戯に蜜奥がみだらに疼く。まるで下半身の陰唇を吸い上げられているような気になる。
互いの息遣いも官能的に荒くなってきて、いつの間にか下着はまくり上げられて乳房が露わになっていた。

「ぁ……ん、碓氷さ……っん、あ……!ひぁ、う……っ!」

脇のほうからふくらみを寄せられ、中央にピンと勃って並んだつぼみをふたつ一緒にレロレロと舐めまわされる。
初めは探るように控えめだったのに、だんだんと無遠慮になってきて、しまいには根もとから思い切りくわえられていた。

「あ、ああっ……いや、そんな……や、ぁぁ……っ」

「嫌ならやめようか」

「……っ!」

愛莉は唇をへの字に曲げて目を見ひらいた。彼が笑っている。ほがらかとは程遠い、何とも意地の悪い感じの笑いかただ。実際に意地悪をされている。

「や……め、な……で……ください」

視線が泳いでしまう。やめて欲しくない気持ちはあるけれど、それをハッキリと伝えられるほど愛莉は積極的な性格ではない。

「なんだ? 聞こえない」

「んんぁ……っ!」

勃ちっぱなしの乳首を碓氷は指の腹でグリグリと押す。彼の唾液で湿ったそこからは無骨な指の感触が伝わってくる。愛莉は喘ぎながら目を細めた。

「ほら、どうしてもらいたいのかハッキリ言うんだ」

「ん、ぁ……っふ、ぁうッ!」

碓氷は寄せたふたつの乳首を両指で交互に弾いている。初めて見る彼の笑い顏は、愛莉をいじめてたのしんでいるように見受けられる。

「きみのココは硬いな。どうしてこんなふうになってるんだ。答えろ」

「ぁ、ん……っ、だって、碓氷さんが……っぁ、あ」

「俺のせいか? きみが勝手に感じて勃たせてるだけだろう?」

「ひぁぁ……っ、う、んぅっ……!」

硬く尖ったつぼみのすぐそばで碓氷は言葉をつむぐ。濡れた乳頭に吐息が当たって、いよいよもどかしくなってきた。

「碓氷、さ……ん、さっきの……もう一回……っ」

「さっきの? どれのことだ。指で弾いてもらいたいのか」

「ひゃ、ぁ……っん、それ、じゃ……なくて……な、めて……ください」

愛莉は碓氷のほうを見ずに言った。恥ずかしいのには変わりないけれど、彼の顔を見ながらなんてとても無理だ。

「それがひとにものを頼む態度か。俺の目を見てハッキリ言うんだ」

「……っ!」

頭をつかまれ、視線を固定される。碓氷は愛莉の目をじいっと見つめている。

「ち……乳首、舐めて……ください」

脅迫されているような気分だった。言うとおりにしなければなにかとんでもないことをされそうな、そう思ってしまう気迫が彼にはあった。

「……いい子だ」

満足そうにほほえんで、碓氷は愛莉の火照った乳輪をつまむ。

「あっ……ん、ンンッ! っふ、ぁ……ひぁぁっ!」

先ほどよりも遥かに激しく乳首を吸い立てられた。根もとをつまんでいる指がクニクニと乳頭を四方に転がし、それを追いかけるように熱い舌が舐めまわす。
愛莉は瞬く間に下半身をビクビクと痙攣させた。

「……まさか、これくらいでイッたのか」

口もとを押さえながら目を伏せる。そう、触れられてもいないのに、下半身の小さな豆粒は快感に耐え切れず絶頂してしまったのだ。

「きみは敏感なんだな……。そうだ、アレを試してみるか。先日、届いたばかりの新商品のサンプルなんだが、どこに置いたかな」

碓氷は急に起き上がって、リビングを出て行ってしまった。
愛莉は眼鏡の端を上げながら彼を見送る。

数分後、彼は小さな瓶を手に持って戻ってきた。
桜色の液体なのか、そういう瓶の色なのかはわからないけれど、とにかく鮮やかな色をした小瓶だ。

「服を全て脱いで風呂場にこい。俺は先に行って待ってるから」

「……へ!?あの、待……っ、碓氷さんっ!」

愛莉は口をポカンと開けたままソファから動けずにいた。この広い家で、お風呂場がどこにあるかなんてわからない。それに、服を全て脱いで、というのが引っかかる。どうするべきか悩んでいると、

「……早くこい、こっちだ」

壁から顔だけをのぞかせて手招きをする碓氷。愛莉は戸惑いながら返事をして、ソファから立ち上がった。

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