本社に出戻り転籍をして一週間ほどが経ったある日、愛莉は静香に誘われて居酒屋にきていた。
「ねえ、やっぱり帰っちゃだめかな……?」
愛莉は隣の椅子に座る静香にこっそりと耳打ちした。よこ一列には同僚の女子社員が愛莉のほかに4人ずらりと並んでいる。
「ダメです! 合コンはちゃんと人数をあわせなくちゃ」
静香はにわかに息巻いてそう言った。彼女は妙に生真面目なところがある。合コンの人数あわせで居酒屋に来た愛莉は今さら怖気づいていた。
(碓氷さんには つい嘘を言って出て来ちゃったけど……。どうしよう、正直に言ったほうがよかったかな)
なんとなく合コンだとは言えなくて、おんな友だちと飲みに行くと言って家を出たことを後悔していると、男性陣がやって来た。全員が社長なり企業の役員なり をしているひとたちだそうで、みな高そうなスーツを着ている。そのうちのひとりを見るなり愛莉は「あっ」と小さく声を上げた。
「あれ、嶋谷じゃん。久しぶり」
「ほんとうだね。成人式以来かな?」
高校時代の同級生に再会した愛莉は向かいの席に座ったその彼と話を弾ませていた。
「アレ、男性陣はひとり足りないね」
「ああ、遅れてくる。最近、社長に就任したばかりで忙しいらしくて」
「ふうん」と返しながら愛莉は梅酒をあおった。そんなに忙しいなら合コンなんて来なければいいのにと思っていたちょうどそのとき、パシャリとカメラのシャッター音がした。
「え……っ、要さん!? なにしてるんですか」
「それはコッチの台詞だよー。さあて、さっそく諒太くんに送っちゃおっと」
突如として現れたのは前の会社の専務ーーいや、いまは社長の氷室 要だ。端のほうに座っていた愛莉はすぐ隣でスマートフォンをいじる要を見上げながら、
「待ってください、送るっていったいなにを」
「んんー? 愛莉ちゃんが親しそうに男と話してる写真だよ。よし、送信っと」
愛莉は絶句して立ち上がった。するとすぐに袖を引っぱられる。
「嶋谷さんっ、そのかたとお知り合いなんですか? しょっ、紹介してください」
静香は頬を真っ赤に染めて愛莉に懇願している。彼女の目がハートに見えるのはおそらく錯覚だ。
「ええっ? ああ、私が前にいた会社の専務……じゃなかった、いまは社長の氷室さんです。静香ちゃん、このひとはやめておいたほうがいい」
「ひどいなぁ愛莉ちゃん。そんなことより早く帰ったほうがいいんじゃないの」
「そうですね、そうさせてもらいます。ごめん、私はもう帰るね。要さん、静香ちゃんを誘惑しないでくださいね!」
「えっ、待って下さい嶋谷さんっ」
愛莉は心細そうな声で呼び止めてくる静香にふたたび「ごめん」とつぶやいて家路を急いだ。
自宅の扉の鍵をそっと開けて中へ入る。碓氷も外出しているのか、家のなかは真っ暗だ。愛莉はどこかほっとして息を吐き、ジャケットを脱いで腕にかけてリビングへ向かう。彼の寝室の前をとおりかかったとき、
「ひゃ……っ!?」
うしろから羽交い締めにされて薄暗い寝室の中へ連れ込まれる。その拍子にハンドバッグとジャケットを床に落としてしまった。そのまま背中を押され、正面からベッドに倒れてうつ伏せになる。
「ずいぶんと早かったな。おんな友だちとの会話は楽しめたか?」
「ん、んん……っ! 碓氷さん、なにしてるんですか……!?」
碓氷は愛莉の両腕を背中でひとまとめにして何か紐のようなものでグルグルと縛っているのだ。身体を起こそうにも、彼は愛莉のふくらはぎに乗っているため動けない。
「要から送られてきた写真を見たぞ。きみのおんな友だちは男装が趣味なのか? とてもよく似合っていてどこからどう見ても男にしか見えない」
「碓氷さん、話を聞いて下さい……っ、ぁん!」
セーターを胸のうえまでめくり上げられる。碓氷はブラジャーのカップを邪魔くさそうにななめ下にずらして乳房をわしづかんだ。
「なぜ嘘をついた?」
「あ……っ、ごめん、なさ……。ぃぁっ、ふぁぁ……っ!」
「謝るな。責めているわけではない。嘘をついた理由が知りたいだけだ」
「んぁっ、う……。あ、あんっ」
愛莉は困り果てた。理由もなにも、何となく言いづらかったというだけだからだ。
「……言えないのか?」
「あっ、あぁ……っ! 碓氷さ……っぁ、ふぅ」
ショーツをずるりと膝のあたりまでおろされ、すぐに指が陰部をえぐる。縛られているとき、これからされるであろう行為を期待して潤いはじめていた蜜壺は彼の指をよろこんでのみこんだ。ズプズプと荒っぽく抜き差しされている。
「たいした愛撫もしていないのに、なんだこの濡れっぷりは……。くそっ、もう挿れるぞ」
「ん、碓氷さん……あの、ぁ……っ!」
腰を持ち上げられる。膝を立てた格好でうしろから彼の陰茎がいっきに奥深くまで突き刺さる。
「ひぁっ、あ……! っや、アァッ!」
「嘘つきに仕置きをしているつもりなんだがな。そんなにいいか? はしたなく喘いで、気持ちよさそうだな」
一方的に責められののしられ、愛莉も黙っていられなくなった。確かに嘘をついたのはいけないことだけれど、こんな状態ではきちんと話ができない。愛莉はいままでに溜め込んだ彼への不満を噴出させるべくすうっと大きく息を吸い込んだ。
「碓氷さんだって、蜷川さんと……。よく……んはっ……っ! 食事に、行くじゃないですか……っ。いっつも仲よさそうに、ふたりして……まるで恋人どうしみたいに。だいたい、私たちって……。いったい、なんなんですか……!」
突かれながらだから、彼には聞き取りづらかったかもしれない。吐き捨てるように言い終わると、碓氷は律動をゆるめていって、愛莉のなかに打ち込まれた楔は動きを止めた。
「……俺と蜷川さんはきみが疑っているような関係ではない」
「そう、なんですか……? それじゃあ……私と、碓氷さんは――」
愛莉は目をつむって答えを待った。いいかげんにハッキリさせたい。身体だけの関係だと言われる覚悟もできていた。
「……ひとがひとを好きになる瞬間は曖昧だと思う」
「……え?」
碓氷は下肢を繋げたまま愛莉の背に倒れ込んだ。ふたりでベッドに沈み込む。
「思えばあのとき、きみに会って言葉を交わしたあのとき。俺はすでにきみを好きになっていたのかもしれない」
彼がいつのことを言っているのかわからなかったけれど、愛莉は目頭が熱くなった。
「きみがほかの男と話しているのも名前を呼ぶのすら耐えられない。嫉妬に狂ってこんなことをしてしまう前に気持ちを伝えていればよかった」
愛莉の手首を縛ったことを後悔しているような口ぶりだ。けれど拘束は解かれないままだ。
「きみをひとりじめしたい。縛ったままずっとベッドで犯していたい。そうしていなければ……きみがどこかに行ってしまいそうで」
「ん、んく……っ!」
碓氷が抽送を再開する。愛莉は顔をななめうしろに傾けて彼の表情をうかがった。不安そうなおももちだ。
「そんなこと、しなくても……っぁん! 私は……っ、碓氷さんのことが好きでたまらないです……っひ、ぁう!」
「……もういちど言ってくれ」
「ん、はぅ……っ! 好き、碓氷さんが」
「もういちど」
「あっ、だめ……激しくて、へんになっちゃう……っあ、ぁぁん!」
愛莉は両腕をベッドに押しつけて後ろからの猛攻に耐えた。突き込みはいつになく激しく、快感の波がいくどもはねて弾ける。
「あふっ、あぁ……っ! ん、んぁっ!」
心地よい脈動が織り重なる。繋がっている部分が溶け合ってひとつになるような感覚だ。満ちていくのは精液だけではなくて、心も愛しさでいっぱいになる。
「愛莉……っ」
手首が自由になった。身体を仰向けられ、脱ぎかけていた服をすべて取り去られる。彼もなにも身につけていない。
「……悪かった。はっきり気持ちを言わないままなんども抱いてしまって。怖かったんだ、俺ばかりが好きなのかもしれないと思って」
「私たちって似たもの同士ですね。私も碓氷さんと同じです。遊びで抱かれてるのかもしれないって思ってたんです。だから、私の気持ちを伝えたら碓氷さんが逃げて行っちゃうんじゃないかって不安で……」
「ばかな、そんなわけないだろ」
「それを言うなら、私だって。好きでもないひととエッチしたりしません」
碓氷は愛莉の上に覆いかぶさったまま神妙な顔をしていた。眉間のシワはどんどん深くなっていく。
「……ああ、だめだ。きみを見ていると欲情してしまう。愛莉、俺の目を塞いでいてくれ」
「ええっ……!? っぁ、碓氷さ……っん、あうっ!」
両手をつかまれて、無理やり彼の顔まで持っていかれる。それと同時に下半身には肥大した陰茎をふたたび挿し入れられ、
「ふぁぁっ、だめ……っ! まだ、イッたばっかりなのに……っぁ、あ!」
彼の視界をさえぎったところでなにも変わらない。どうもうな一物は元気に愛莉のなかを往復するのだった。
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「ねえ、やっぱり帰っちゃだめかな……?」
愛莉は隣の椅子に座る静香にこっそりと耳打ちした。よこ一列には同僚の女子社員が愛莉のほかに4人ずらりと並んでいる。
「ダメです! 合コンはちゃんと人数をあわせなくちゃ」
静香はにわかに息巻いてそう言った。彼女は妙に生真面目なところがある。合コンの人数あわせで居酒屋に来た愛莉は今さら怖気づいていた。
(碓氷さんには つい嘘を言って出て来ちゃったけど……。どうしよう、正直に言ったほうがよかったかな)
なんとなく合コンだとは言えなくて、おんな友だちと飲みに行くと言って家を出たことを後悔していると、男性陣がやって来た。全員が社長なり企業の役員なり をしているひとたちだそうで、みな高そうなスーツを着ている。そのうちのひとりを見るなり愛莉は「あっ」と小さく声を上げた。
「あれ、嶋谷じゃん。久しぶり」
「ほんとうだね。成人式以来かな?」
高校時代の同級生に再会した愛莉は向かいの席に座ったその彼と話を弾ませていた。
「アレ、男性陣はひとり足りないね」
「ああ、遅れてくる。最近、社長に就任したばかりで忙しいらしくて」
「ふうん」と返しながら愛莉は梅酒をあおった。そんなに忙しいなら合コンなんて来なければいいのにと思っていたちょうどそのとき、パシャリとカメラのシャッター音がした。
「え……っ、要さん!? なにしてるんですか」
「それはコッチの台詞だよー。さあて、さっそく諒太くんに送っちゃおっと」
突如として現れたのは前の会社の専務ーーいや、いまは社長の氷室 要だ。端のほうに座っていた愛莉はすぐ隣でスマートフォンをいじる要を見上げながら、
「待ってください、送るっていったいなにを」
「んんー? 愛莉ちゃんが親しそうに男と話してる写真だよ。よし、送信っと」
愛莉は絶句して立ち上がった。するとすぐに袖を引っぱられる。
「嶋谷さんっ、そのかたとお知り合いなんですか? しょっ、紹介してください」
静香は頬を真っ赤に染めて愛莉に懇願している。彼女の目がハートに見えるのはおそらく錯覚だ。
「ええっ? ああ、私が前にいた会社の専務……じゃなかった、いまは社長の氷室さんです。静香ちゃん、このひとはやめておいたほうがいい」
「ひどいなぁ愛莉ちゃん。そんなことより早く帰ったほうがいいんじゃないの」
「そうですね、そうさせてもらいます。ごめん、私はもう帰るね。要さん、静香ちゃんを誘惑しないでくださいね!」
「えっ、待って下さい嶋谷さんっ」
愛莉は心細そうな声で呼び止めてくる静香にふたたび「ごめん」とつぶやいて家路を急いだ。
自宅の扉の鍵をそっと開けて中へ入る。碓氷も外出しているのか、家のなかは真っ暗だ。愛莉はどこかほっとして息を吐き、ジャケットを脱いで腕にかけてリビングへ向かう。彼の寝室の前をとおりかかったとき、
「ひゃ……っ!?」
うしろから羽交い締めにされて薄暗い寝室の中へ連れ込まれる。その拍子にハンドバッグとジャケットを床に落としてしまった。そのまま背中を押され、正面からベッドに倒れてうつ伏せになる。
「ずいぶんと早かったな。おんな友だちとの会話は楽しめたか?」
「ん、んん……っ! 碓氷さん、なにしてるんですか……!?」
碓氷は愛莉の両腕を背中でひとまとめにして何か紐のようなものでグルグルと縛っているのだ。身体を起こそうにも、彼は愛莉のふくらはぎに乗っているため動けない。
「要から送られてきた写真を見たぞ。きみのおんな友だちは男装が趣味なのか? とてもよく似合っていてどこからどう見ても男にしか見えない」
「碓氷さん、話を聞いて下さい……っ、ぁん!」
セーターを胸のうえまでめくり上げられる。碓氷はブラジャーのカップを邪魔くさそうにななめ下にずらして乳房をわしづかんだ。
「なぜ嘘をついた?」
「あ……っ、ごめん、なさ……。ぃぁっ、ふぁぁ……っ!」
「謝るな。責めているわけではない。嘘をついた理由が知りたいだけだ」
「んぁっ、う……。あ、あんっ」
愛莉は困り果てた。理由もなにも、何となく言いづらかったというだけだからだ。
「……言えないのか?」
「あっ、あぁ……っ! 碓氷さ……っぁ、ふぅ」
ショーツをずるりと膝のあたりまでおろされ、すぐに指が陰部をえぐる。縛られているとき、これからされるであろう行為を期待して潤いはじめていた蜜壺は彼の指をよろこんでのみこんだ。ズプズプと荒っぽく抜き差しされている。
「たいした愛撫もしていないのに、なんだこの濡れっぷりは……。くそっ、もう挿れるぞ」
「ん、碓氷さん……あの、ぁ……っ!」
腰を持ち上げられる。膝を立てた格好でうしろから彼の陰茎がいっきに奥深くまで突き刺さる。
「ひぁっ、あ……! っや、アァッ!」
「嘘つきに仕置きをしているつもりなんだがな。そんなにいいか? はしたなく喘いで、気持ちよさそうだな」
一方的に責められののしられ、愛莉も黙っていられなくなった。確かに嘘をついたのはいけないことだけれど、こんな状態ではきちんと話ができない。愛莉はいままでに溜め込んだ彼への不満を噴出させるべくすうっと大きく息を吸い込んだ。
「碓氷さんだって、蜷川さんと……。よく……んはっ……っ! 食事に、行くじゃないですか……っ。いっつも仲よさそうに、ふたりして……まるで恋人どうしみたいに。だいたい、私たちって……。いったい、なんなんですか……!」
突かれながらだから、彼には聞き取りづらかったかもしれない。吐き捨てるように言い終わると、碓氷は律動をゆるめていって、愛莉のなかに打ち込まれた楔は動きを止めた。
「……俺と蜷川さんはきみが疑っているような関係ではない」
「そう、なんですか……? それじゃあ……私と、碓氷さんは――」
愛莉は目をつむって答えを待った。いいかげんにハッキリさせたい。身体だけの関係だと言われる覚悟もできていた。
「……ひとがひとを好きになる瞬間は曖昧だと思う」
「……え?」
碓氷は下肢を繋げたまま愛莉の背に倒れ込んだ。ふたりでベッドに沈み込む。
「思えばあのとき、きみに会って言葉を交わしたあのとき。俺はすでにきみを好きになっていたのかもしれない」
彼がいつのことを言っているのかわからなかったけれど、愛莉は目頭が熱くなった。
「きみがほかの男と話しているのも名前を呼ぶのすら耐えられない。嫉妬に狂ってこんなことをしてしまう前に気持ちを伝えていればよかった」
愛莉の手首を縛ったことを後悔しているような口ぶりだ。けれど拘束は解かれないままだ。
「きみをひとりじめしたい。縛ったままずっとベッドで犯していたい。そうしていなければ……きみがどこかに行ってしまいそうで」
「ん、んく……っ!」
碓氷が抽送を再開する。愛莉は顔をななめうしろに傾けて彼の表情をうかがった。不安そうなおももちだ。
「そんなこと、しなくても……っぁん! 私は……っ、碓氷さんのことが好きでたまらないです……っひ、ぁう!」
「……もういちど言ってくれ」
「ん、はぅ……っ! 好き、碓氷さんが」
「もういちど」
「あっ、だめ……激しくて、へんになっちゃう……っあ、ぁぁん!」
愛莉は両腕をベッドに押しつけて後ろからの猛攻に耐えた。突き込みはいつになく激しく、快感の波がいくどもはねて弾ける。
「あふっ、あぁ……っ! ん、んぁっ!」
心地よい脈動が織り重なる。繋がっている部分が溶け合ってひとつになるような感覚だ。満ちていくのは精液だけではなくて、心も愛しさでいっぱいになる。
「愛莉……っ」
手首が自由になった。身体を仰向けられ、脱ぎかけていた服をすべて取り去られる。彼もなにも身につけていない。
「……悪かった。はっきり気持ちを言わないままなんども抱いてしまって。怖かったんだ、俺ばかりが好きなのかもしれないと思って」
「私たちって似たもの同士ですね。私も碓氷さんと同じです。遊びで抱かれてるのかもしれないって思ってたんです。だから、私の気持ちを伝えたら碓氷さんが逃げて行っちゃうんじゃないかって不安で……」
「ばかな、そんなわけないだろ」
「それを言うなら、私だって。好きでもないひととエッチしたりしません」
碓氷は愛莉の上に覆いかぶさったまま神妙な顔をしていた。眉間のシワはどんどん深くなっていく。
「……ああ、だめだ。きみを見ていると欲情してしまう。愛莉、俺の目を塞いでいてくれ」
「ええっ……!? っぁ、碓氷さ……っん、あうっ!」
両手をつかまれて、無理やり彼の顔まで持っていかれる。それと同時に下半身には肥大した陰茎をふたたび挿し入れられ、
「ふぁぁっ、だめ……っ! まだ、イッたばっかりなのに……っぁ、あ!」
彼の視界をさえぎったところでなにも変わらない。どうもうな一物は元気に愛莉のなかを往復するのだった。