般若部長の飼い猫 《 第七話  チャンネル争い

おそらくデートとおぼしきものをした翌日も、部長は理沙の部屋に夕飯を食べにやってきた。
なぜキスをしたのか聞いてみようと思っていたのに、彼を前にするとなかなか尋ねられない。
理沙のようすがおかしいことに気付いているはずなのに、部長はなにも聞いてこない。

(私ばっかり意識しちゃって……何だかバカみたい)

地上波の洋画を見始めた部長の横顔を、理沙は彼から一番遠いソファの端に腰かけて眺めた。きららをひざのうえでゆっくりと撫でている。
洋画は期待以上に面白く、すでに時計は22時をまわっている。ふだんならもっと早くに帰るのに、部長も続きが気になるのかまったくそんな素振りを見せなかった。

『ぁ……っあぁ、いや、ダメよ……ッアン!』

理沙は突然のラブシーンに目を丸くした。外国人女性の豊かな乳房がたわわに揺れる濡れ場は何とも艶かしい。
理沙は反射的にテレビのリモコンを手に取ってチャンネルを変えた。

「おい、勝手に変えるな」

部長が近寄ってきて、リモコンをもぎ取られる。

「なっ、わ、私の家のテレビなんだから、いいでしょっ」

気が動転して、敬語を使うことすら忘れ、理沙は奪われたリモコンを取り戻す。

「おまえもおもしろそうに見てたじゃないか」

プチ、プチッとチャンネルはせわしなく切り替わる。

「みっ、見てなんかない! あんな、エッチなシーン……!」

「あれぐらいでなにを言ってるんだ。とにかく寄越せ」

「やだ……きゃっ!」

リモコンを渡すまいと背中に持っていたのに、部長が無理やりそれを取ろうとするから、理沙は体勢を崩してソファに寝転んだ。
額になにか柔らかいものが触れた。部長の髪の毛だと認識するのには少し時間を要した。

「お前は本当に強情だな」

洋画の濡れ場はまだ続いている。けれど理沙の耳には部長の声しか聞こえていなかった。

「どうした、急に黙り込んで……。さっきまでの威勢はどこにいった」

好きで黙り込んでいるのではない。部長の顔があまりにも近くにあるから、言葉を発することができないのだ。

「にゃぁ~」

きららが頬にすり寄ってきた。助け舟とばかりに子猫のほうを向こうとすると、頬をガシリとつかまれて、視線をはずせなくなった。

「にゃっ」

相手にされないとわかったのか、きららがソファを飛び降りてしまう。
子猫はいなくなってしまったというのに、ペロリと唇を舐められた。

「ふ……っ」

部長の舌は少しザラついている。理沙の部屋で吸っているのは見たことがないけれど、たまにベランダから煙草が香る。

「……そんなにポカンと口を開けてるんだから、なかに入れてもいいんだろうな」

なにを、と聞くいとまはなかった。
口内に侵入してきたザラザラの舌が理沙を絡め取ろうと追いかけてくる。
こういったキスの経験も少ないから、どうしたらよいのかわからず逃げ惑う。

(やだ、私……受け入れる事を前提に考えちゃうなんて)

どうすればよいのかなんて、考える必要などない。彼はただの上司で、恋人でも何でもないのだから。

「んっ、んんーっ!」

理沙はわれを取り戻して、舌を捕らえられる前に部長の両頬をつかんだ。

「部長は……っ、誰とでも、こんなことを、するんですか……っ?」

声が震えてしまった。けれどもうそんなことを気にしてはいられない。

「するわけないだろ……おまえが生意気だから、黙らせたいだけだ」

部長のほかの表情を初めて見た。彼は冷笑して、理沙の首筋に顔をうずめた。

「……っ!」

耳殻にヌルリと生温かいものが触れたかと思うと、同時にブラウスのボタンがはずされていた。

「ぁ……っ」

抱かれて、背中に手をまわされる。上半身の締め付けがなくなり、心もとない気持ちは増すばかりだった。

「……ぃ、ゃ……っ」

「虫の鳴くような声だな……。おまえらしくもない。セクハラで訴えてもいいんだぞ」

部長はたのしそうに口角を上げて、胸もとに顔を寄せた。白いレースの下着をはねのけられて、ふくらみが彼の目に触れてしまう。

「まだ少し幼いな……」

ひとりごとのようにつぶやかれても、理沙は羞恥で身が焦げそうだった。
部長はふにふにと乳房を両手ではさみ、いただきのまわりを親指でゆっくりとたどっている。

「っぁ、ぅ……ッ!」

彼の指がふくらみの先端に触れそうになるたびに、理沙は耐えるように声を漏らした。
胸をさわられるなんて嫌なはずなのに、部長の腕をつかむ手は自分のものとは思えないほど役に立たない。

「きららよりも柔らかいなんて、心外だ。舌で感触を確かめてみるか」

普段は口数が少ないのに、いまの彼はずいぶんと饒舌だ。

「部長、も、う……やめて、ください……っ、ぁ……っん…ッ!」

乳輪を象るように湿った舌先を押し付けられ、はしたない喘ぎ声がのどを通って出ていってしまう。

「急にしおらしくなったな。おまえをしたがわせるには、こうするのがいちばんのようだ」

「も、や……おねが、やめ……っぅ、んん……っ」

「やっと素直に従った部下をやすやすとは手放せない」

ちゅうっと水音がして、上半身のいちばん敏感な部分が部長の口内に収まってしまった。

「あっ、アアッ……やっ、そんな、吸っちゃ……や……あ!」

「誘っているのか? こんなに硬くして、気持ちがいいんだろう」

右の乳房は乳輪ごと乳首の根もとをつままれ、尖ったいただきを舌で突かれる。
左の先端は指の腹でゆるゆると転がされて、下半身の秘めた部分が湿り気を増していくのを感じた。

「や、だ……ぁっ、ゃ……ぶちょ、や……っ!」

「本当に嫌かどうか、こっちの口に聞いてみようか」

部長の手は太ももを撫でてスカートをまくり上げ、脚の付け根に到達した。
彼の言う口をさわられまいと、理沙は脚を閉じようとしたが、片手で強引にこじ開けられた。

「何だ……よだれを垂らして、欲しそうにしてるじゃないか」

指摘され、理沙は下唇を噛んだ。下着を身につけているのに、下半身の秘所からは蜜があふれ出しているのだ。

「さわってもらいたいんだろ……。素直になれ」

理沙は言葉もなくただ頭を横に振った。もしかしたら身体は、彼の言う通りなのかもしれない。
けれど頭がついていかない。こんなこと望んでなんかいない。そう思っているはずのに、本当にそうなのかと同時に疑問も浮かんでくる。

(もう、なにも考えられない……っ)

秘所を覆っていたものを脱がされ、彼の指はこのあいだよりも更に奥をまさぐっている。
くちゅっ、ぐちゅっと聞くにたえない水音がいっそう思考を奪っていき、理沙は喘ぐしかなかった。

「ぁっ、ああ……ッ!」

乳首を吸い上げられ、割れ目に隠れていた小さな突起をグイッとつままれた瞬間、理沙の陰部はビクビクと収縮した。

「……もう少しナカを慣らそうかと思ったが、このままでも充分いけそうだな」

太ももにまで自身の愛液が滴っているのがわかる。ぼんやりとしたまなこで彼を見やると、ベルトをはずしているところだった。
理沙は目を見ひいた。これからする行為を想像して、全身が萎縮する。

(どうしよう、震えが……止まらない)

待って、と言いたいのに唇まで震えている。なす術なく自分自身を抱き締めて目を閉じていると、周りが明るくなったのがわかった。
そっとまぶたを開けると、部長は理沙から離れて床にあぐらをかいていた。明るく感じたのは、彼が理沙を組み敷くのをやめたからだ。

「ぶ、ちょう……?」

「やめておく。気分が乗らない」

理沙のなかにおとずれたのは安堵だけではなかった。けれどその感情には、気付かないふりをした。

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