般若部長の飼い猫 《 第八話  うつろう気持ち

今年の新入社員にとんでもない美人がいる。そんなうわさを聞いたのはちょうど新入社員研修が終わったころだった。そのうわさの人物は百合菜ゆりな 頼智よりともの部署に配属された。
なんだ、とんでもないというほどの美人でもないじゃないか。たしかに目鼻立ちは整っているが、ありふれた顔だ。
美人と称されてやって来た時任 理沙に興味がなかったかといえば嘘になる。

彼女のところの課長が出張で留守だったとき、初めてまともに言葉を交わした。
正直、驚いた。仕事が遅いくせにキャンキャンとうるさく盾ついてきたからだ。美人なら何でも許されるとでも思っているのだろうか。
あのヒラヒラした格好も気に食わない。
会社は遊び場ではないと教えてものれんに腕押しで、時任の印象は悪くなるいっぽうだったのだが、ある日を境に変わった。
彼女の手料理を食べてからだ。どうせ料理も仕事と同じで、できないに決まっていると、期待せず口にしたにもかかわらず、濃すぎず薄すぎずの味付けは「うまい」とひとりごとをつぶやいてしまうほど絶妙だった。
しばらくは彼女に料理を持ってきてもらっていたが、しだいにひとりで食べるのが嫌になった。
彼女と一緒に食べたいと思うようになったと言うほうがむしろ正しいかもしれない。
そんなことを言っても断られるだろうと思っていたのに、簡単に言いくるめることができたのは幸いだった。

しかしあいつは警戒心がなさすぎる。格好もそうだが、いくら会社の上司とはいえひとり暮らしの部屋にああもたやすく男を招き入れるのはいかがなものか。
誘っているのかとも思ったが、彼女にそんなつもりはないようだ。

あまりにも無防備であやういから、つい手を出したくなる。
先日、彼女の身体をいじったときはこたえた。
自身のもので貫いて泣き叫ばせてもよかったのだが、あれほどまでに怯えられてはいたたまれない。
嫌われたくないという気持ちがかろうじて勝った。もとより好かれている気がしないから、よけいにあの場で最後までするわけにはいかなかった。

だがこらえるのにも限界がある。いまだってそうだ。ご機嫌うかいで彼女が好きそうなワインを持って行ったら、初めは警戒していたのに飲み始めたらあっという間に打ち解けた。

「部長はぁ、何でそんなに無表情なんですかぁ?」

上気した頬でぽってりとした艶やかな唇を尖らせて問うてきた。
男を誘っているようにしか見えないが、おそらく彼女にその気はない。異常なまでにウブなくせに、矛盾した性格だと思う。

「さあな……この名前のせいかもしれない。姓は女みたいだし、名は歴史上の偉人にならっているからな……。ガキのころはそれでよくいじられた。名前で判断されるのが嫌で俺はだんだん……って、なにを話してるんだ俺は」

そんなに飲んだつもりはないが、酔いがまわっている。また彼女を襲ってしまう前に帰ろうかと思っていたのに、彼女が身体を預けてきたから、また下半身が疼き始めてしまった。

「時任……?」

頼智はソファに座ったまま、もたれかかってきた理沙をそっと抱き締めた。
ライトブラウンの髪を撫でて、細い腰を引く。
ルームウェアのシャツが透けて下着が見えていることを彼女は知らないのだろう。
言ってしまったらそれを眺められなくなるから、あえて指摘はしない。

「んん……も、飲めにゃい……」

「……おい」

聞こえてきた寝息に、頼智はいっきに落胆した。
理沙は意図して自分に寄り添ってくれたのではないとわかったからだ。寝込みを襲うほど餓えていないとは言いがたいが、だからと言って理性を抑えられないわけではない。
頼智は理沙の身体を抱き上げて寝室へ向かった。愛猫のきららもついてきた。
彼女の寝室には初めて入る。ピンクを基調にした少女趣味の部屋だ。下着もそうだったが、彼女にはいとけなさを感じざるを得ない。そんなところがますます欲情をかき立てる。

理沙をベッドに寝かせたあと、彼女のシャツのボタンをはずし、七分丈のボトムスを脱がせて下着姿にしてからともに床に入った。
これだけ泥酔していれば少しくらい身体をいじっても起きないはずだ。
結局は寝込みを襲っていることになるんだろうかと頭の片隅で思いながら、チェック柄の下着も取り去る。
柔らかな乳房はまだ成長の余地があるように思う。

(俺はなにをしてるんだ……。寝ている女に、こんな……)

鮮やかな色の乳頭をくわえ、舌で転がす。
時おり、彼女が息を漏らすからドキリとした。起きて欲しいような、そうでないような複雑でやるせない想いを抱きながら、なおも頼智は彼女の身体に指や舌を這わせていった。

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