般若部長の飼い猫 《 最終話  般若部長の飼い猫

子猫に呼ばれている気がして、理沙は目を覚ました。すぐそこには猫の飼い主の顔がある。
彼の寝顔は年齢のわりには幼く見えた。

『にぁ~』

理沙は今度こそ完全に覚醒して身を起こした。ベッドを飛び出して、ベランダに続く窓をガラッと開ける。

「きらら!」

「にゃぅっ」

子猫はあいかわらず愛くるしい声で鳴いている。理沙はきららを抱き上げて、頬を寄せた。

「よかった、帰ってきてくれて……」

「よくない。なんて格好でいるんだ、理沙」

いつの間にか起きて背後に立っていたらしい部長に、子猫ごとバフッと毛布にくるまれて抱き寄せられた。

(あ……私、そういえば裸だった)

「それとも、こういうふうにベランダでするのが好みなのか」

「っ! ちっ、違います! ……っあ、やだ……んっ」

「だったら早く部屋に入れ」

部長は理沙の秘めやかな箇所を撫でるのをやめて、部屋のなかへと引き入れた。
人通りのある路地に面したベランダで身体をいじられてはたまらない。理沙はきららを抱えたまま素直にしたがった。

それから理沙は朝食を作るべく自宅に戻った。子猫とその飼い主も一緒だ。
理沙が料理をしているあいだ、部長はきららを抱っこしたり猫じゃらしを振ったりして戯れていた。きららと遊んでいるときの部長は、以前とは別人のように可愛らしく笑うようになったから、こちらまで顔がゆるんでくる。

「きららぁ、本当によかったよ~」

「そうだな」

食事を終えた理沙はリビングで子猫とスキンシップをとっていた。

「部長、もっと喜びを身体で表現したほうがいいですよ! そうしたら般若だなんて言われなくなりますって」

「……言い忘れていたが、きららが脱走して戻ってきたのはこれで三度目だ」

部長はそう言って、すました顔で子猫を抱き上げた。

「えっ!? なにそれ! 早く言ってくださいよ!」

「戻ってくる保証はないんだ。それなりに落ち込んでいたぞ」

理沙は口を尖らせた。帰ってくるかはわからないにしても、教えてくれてもいいのに。

「きらら、ちゃんと帰ってきたし、私はもう用済みですよねっ」

すっくと立ち上がり、理沙は朝食の後片付けをするべくエプロンを身につけた。
そして台所に立って洗い物を始めようとしていたら、部長はまたしてもうしろから抱き締めてきた。

「もう一匹、飼うかな。食い意地の張った茶色い毛の猫を」

「んなっ、私、そんなに……っん!」

「おまえはすぐそうやってむくれるんだな。かまってもらいたいのか?」

「そんなこと、な……あっ、やぅ……ッ!」

白いレースがついた薄手のエプロンの隙間からニットのシャツごしにふたつのふくらみを揉みくちゃにされて、理沙は洗い物どころではなくなった。

「どうした、そんなに身体をよじらせて……」

「だって……んっ、部長……んんっ」

シャツのうえからごく弱い力でふくらみの頂点をカリカリと引っかかれていて、とても焦れったい。
早く、ちゃんと触って欲しいのに、部長はいっこうにそんな素振りを見せないから、なんだか腹立たしくなってきた。

「触れてもらいたいか? ここに」

「ん、ん……っ」

「どうなんだ、理沙」

「……っ、さわって、もらいたい、です……」

「では服を全部脱いでエプロンだけになれ。そうしたら触ってやる」

理沙は「えっ!?」と声を荒げながらうしろを振り返った。
部長は理沙の両肩に手を乗せて目を細めている。

「なっ、なんでそんな格好しなくちゃいけないんですか……!? 嫌ですっ、部長のエッチ!」

息巻いていると、部長は理沙から離れてダイニングの椅子に腰かけ、テーブルに頬杖をついた。

「嫌なら今日はやめておこう」

そしてテレビのリモコンを手に取って、顔を背けた。

(意地悪! なんでこんなに根性悪なのっ!)
そうは思えど、下半身の陰唇からは蜜が漏れ出しそうだった。
しばし悩んだ挙句、理沙は寝室に入って彼の言う通りにエプロン以外の服を脱いだ。

「あの……部長」

「ん……先に洗い物を済ませていいぞ」

素直にしたがったというのに、こんな姿で家事が先だなんてひどい仕打ちだ。
理沙は不機嫌を訴えるべくあからさまに頬をふくらませて、ふたたび彼に背を向けた。
カチャカチャと皿を洗いながら、理沙は部長の視線を気にしていた。
視姦とでもいうのだろうか、とにかく居心地が悪い。部長はつけっぱなしのテレビではなく理沙ばかりを見ているのだ。彼を横目に見ながら、理沙は皿を洗い終えた。
「なんて格好だにゃー」とでも言いたげに、きららは足もとで鳴いている。
こんな格好までしてばかばかしい。さっさと服を着よう。

「きらら、一緒に遊ぼっか」

ふたたび着替えをしようと、寝室へ向かうところだった。部長は急に立ち上がって理沙の身体を引き寄せた。

「その前に俺と遊べ」

「ひゃっ、や、あ……っ!」

あまりにも勢いよく腕を引かれたので、理沙は転びそうになってダイニングテーブルに手をついた。

「そんなに尻を突き出して……理沙は随分と淫らになった」

楽し気な声がした。丸見えになっているお尻の割れ目を彼の指がツウッとたどっていく。

「うぅ……っんく、あぅ……」

彼に触れられると、その箇所は電流が走ったように痺れてしまう。ほんの少し前まで、男性に身体をさわられるなんて有り得ないと思っていたのに、部長にはもっと触ってもらいたくなるから、自分でもどうしたらいいのかわからなくなる。

「こんなに濡らして、俺を誘ってるのか? こんなものを見たら、求めずにはいられなくなる」

「アッ、やぅ……っ、ん、ん……ッ!」

ちゅぷ、と細長い指が肉襞をかきわけて侵入してきた。乳輪をかたどる指の動きとあいまって、蜜はさらに内側を潤していく。
もはや、触れられることに恐怖感はなかった。それよりも、心も身体も愛しい彼を求めてしまう。

「理沙、おまえは俺のことをどう思ってるんだ」

「んっ、ふぁ、あ……っ」

激しく指を出し入れされながら聞かれても、まともに言葉なんてつむげない。

「俺は理沙を愛してる。おまえは?」

「あっ、ん……っ、す、き……っ」

「好き? そんな程度なのか、理沙の気持ちは」

やっとの思いでそう言ったのに、部長は耳殻を舐めてさらに強く乳房を揺さぶった。エプロンの生地に先端がこすれて、予期せぬ快感をもたらす。

「だ、い、すき……ああっ!」

「……大好き、か。まあいいだろう」

クスリと笑ったのがわかった。部長のほほえんだ顔が見たくて振り返ろうと身体をよじる。

「言葉がなくとも、おまえの身体を見ていれば気持ちは伝わってくる」

耳もとでささやいて、部長はひといきに理沙の秘部に熱いくさびを打ち込んだ。

「アアッ、んふ、ぅ……っ、はふ、ん!」

気持ちが伝わっているのなら、あえて言わせなくてもいいのに。本当に、意地悪なんだから。 けれど理沙は、彼に突かれながらも精一杯の気持ちを込めて愛を伝える。

「部長、すき、だいすき、です……っ! あ、あんん……ッ!」

子猫が足もとにすり寄った。仲間はずれにしないで、と言っているかのように、高らかに鳴いていた。

FIN.

お読みいただきありがとうございました!
本編はこれで完結ですが番外編を予定しています。

熊野  まゆ

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