般若部長の飼い猫 《 番外編  不満なクリスマス

見上げると雪が舞っていた。クリスマスだというのに、理沙はひとりで自宅のベランダにいた。
部長とそういう仲になって数ヶ月。初めての聖なる日。けれど彼はいない。
仕事中にかぎって、お面のように無表情な部長は健在だった。

***

「ええっ、明日から出張なんですか!?」

会議室に行く途中の廊下で理沙は声を荒げた。

「ああ、2泊3日だ。帰ってくるのは26日になる」

「……それ、絶対に行かなくちゃいけないんですか」

「代わりにお前が行くか? 支社の重役と会議ざんまいだが」

理沙は無言で頬をふくらませて抗議の意を示した。

(明日はふたりで迎える初めてのクリスマスイブだから、豪華な料理を作って楽しく過ごそうと思ってたのに……!)

理沙は頬の空気をふうっと吐き出してから口をひらく。

「しかたがないって、わかってますけど……。部長、もっと残念そうな顔をしてくださいよ」

彼は会社ではあいかわらず無表情だ。理沙は歩幅が広い部長に合わせて小走りでついて行きながら彼の横顔を見つめた。

「何でだ。出張はいつものことだろ。土産、買ってきてやるから」

「だって、クリスマスじゃないですか! 一緒に過ごしたかったのに」

「俺はクリスマスを祝ったことはない。仏教徒だからな。理沙は違ったのか」

「もうーっ、そういうことじゃないんですっ!」

そうこうしているうちに会議室へと到着してしまい、それ以上プライベートな会話はできなくなった。

***

ふうっとため息をつくと、視界はますます白くなった。昨夜のイブはひとりでワインをあおり、今日は会社でいつもどおり仕事をした。そしてクリスマスも終盤のいまは降り始めた雪をベランダで眺めている。
なんだか虚しい。寒いし、寂しい。明日には会えるけれど、本当はいまこの瞬間に、一緒にいてほしかった。

(部長のバカ……電話くらいしてきてよね……)

「にゃぁ~」

応えるようにきららがひと鳴きした。理沙は足にすり寄る猫にほほえみかけ、北風が一段と冷たく吹いたところで、きららを抱えて部屋に戻った。

その日は夢を見た。とても心地がよい夢。甘い言葉をささやかれながら、部長に全身を愛撫される、そんな夢。
こんなみだらな夢を見るなんて、どれだけ欲求不満なのだろう。

「理沙」

夢の続きだと思った。愛しい彼の声が聞こえて、耳たぶを食まれたような気がした。

「にゃあん」

ああ、きららが耳たぶを舐めているのだろう。

「もう、くすぐったいよ……」

猫の頭を撫でようと、目を閉じたまま手を伸ばしたら、明らかに猫ではないものに手が触れて、理沙は驚いて目を見ひらいた。

「ぶっ、ぶ、部長……!?」

「やっと起きたか」

目の前にはあきれたような顔をした彼がいて、理沙の髪を手ですくっている。

「何で、いるんですか……?」

部長は正午の飛行機で出張先から帰ってくるはずだった。今日は休みだから、朝寝坊して食事の準備をしようと思っていた。

「昨夜の最終便で帰ってきた。おまえ、まったく起きないから……やりがいがなかったぞ」

「やりがいって……あっ、ちょ、やだ……っん、んぅ」

お互いに裸だということに気がつき、理沙は反射的に胸もとを隠そうとしたのだが、それよりも早くふくらみを両手でつかまれた。

「んっ、ふぅ……あ、やぁ、ぁ、んんっ」

「そう、その声が聞きたかった」

そう言うなり、部長は理沙の両腕をベッドに押さえつけるようにして身体を仰向けさせ、ふくらみのいちばん敏感ないただきに舌を這わせた。

「あん、ん……っ、あ、やん、そんな速くしちゃ……っ、ああ!」

生温かいそれが乳房の先端をかすめる度に、理沙は身をよじって悶えた。

「もうこんなになって……欲求不満だったんだろ」

たしかに不満だった。聖なる夜はそばにいて欲しかった。心も身体も彼を欲していて、理沙は下半身が次々に淫猥な蜜を噴き出してしまうのを止められなかった。

「部長、あ……は、やく、くださ……いっ、あん!」

細長い指にかき乱された蜜壺は何度も細かく収縮していた。

「そうやってねだるなと言ってるだろ、加減できなくなる」

「あ、ああっ、ん、ふぁぁ……ッ!」

彼の雄棒はすぐに理沙の身体を貫いて、最奥まで到達した。

「んっ、あ、も……だ、めぇっ」

「理沙がいけないんだ、俺はもっとゆっくりたのしみたいのに」

抱え上げられている両脚はしだいに高さを増していき、彼は一物をいっそう速く出し入れしてきた。
せり上がってくる快感に耐えながら、理沙は彼の名前を呼んだ。
ああ、こういうときに名前を呼ぶのもやめるように言われていたっけ。

「理沙……っ、出す、ぞ……っ」

理沙が名を呼ぶと、彼はすぐに達してしまうのだ。
だから理沙は、自身がもう限界だという時に名前を何度も叫ぶ。そうしたら、同時に達することができるから。

「頼智、さん……っ」

もうろうとした意識のなかで、激しく脈を打つ彼の存在を確かめながら、理沙は満ち足りた気持ちで愛しいひとの名を呼んだ。

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