ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第一章 ひきこもり令嬢のたくらみ 07

「――ありがとうございました、レディ・マクミラン。きちんと乾いたようです」
「ええ……」
 他人の髪の毛をこれほど長い時間、拭いていたのは初めてだ。マレットは濡れたタオルを手に部屋を出て行く。
(考えすぎかしら……。そうよね、こんな適齢期の過ぎた女、マレット男爵だって願い下げよね)
 うんうんとひとりでうなずき、リルはベッドにもぐり込んだ。
 間もなくして彼が寝室に入ってきた。見たわけではないが、扉がひらく音がした。
「レディ・マクミラン?」
「……はい、なんでしょう」
 マレットには背を向けたまま答えた。
「いえ、なんでもありません。おやすみなさい」
 ごそごそと布がこすれる音がする。マレットはリルの反対側から布団のなかに入ったようだ。
「……おやすみなさい」
 リルがぽつりとそう言ってから数分後。
(う、うそ……。もう眠ったの?)
 となりからすうすうと寝息が聞こえてきた。
(はあ、ばかばかしい……。マレット男爵にはきっと下心なんて微塵もないんだわ。まったく、お兄様がへんなことを言っていたからつい勘繰ってしまった。さて、私も早く眠らなくちゃ、美容に悪い)
 見慣れない青い髪の毛を指に絡ませてもてあそんだあと、安心しきったリルは目を閉じ、すぐに眠りについた。


 フランシス・マレットはとなりから聞こえてくる穏やかな寝息を確認してのそりと身を起こした。すやすやと眠る女の顔をのぞき込む。
「無防備なひとだな……」
 小さなつぶやき声は彼女の耳には届かないだろう。おそらく熟睡している。フランシスは枕に片ひじをつき、リルの寝顔を眺めた。
 長いまつ毛は濃い黒。目を閉じているいまでも、それが目もとの印象を際立たせる。
(ひとめ惚れだと言って迫ったら、困らせるだろうか)
 彼女には異性として意識されていないと思う。あのような森の家によく知りもしない男を軽々と上げるのだ。たんに警戒心が薄いだけかもしれないが、もしも自分のように奥手ではない男とふたりきりならリルは確実に貞操を奪われるだろう。
(それとも、本当は男を手玉にとってもてあそんでいるんだろうか。なにしろ『森の魔女』だからな)
 青くなってしまった髪の毛を指に絡めて梳く。染めていても指どおりはなめらかだ。
 リルの髪の毛に触れているうちに、ほかのところにも触れてみたくなったフランシスはいけないと思いながらも彼女の体を覆う布団に手を伸ばした。そっと拭い、太ももから腰、そしてふくらみへとシルクのネグリジェを撫で上げる。
(……やわらかい)
 初めて触れる女性の体はとてもやわらかだった。ふくらんでいるところをゆっくりと手のひらで覆って揉みまわす。
 フランシスはマレット商会の跡継ぎとして幼少時から厳しく育てられた。二十八歳になっても初恋すら知らなかったくらいだ。
 職業柄というのもあるが、もともと東洋のものに興味があった彼は、黒い髪に紅い瞳のエキゾチックな風貌のリルにひと目で惚れた。
 遅い初恋は彼に積極性を生まなかった。接点を持ちたくて――下心があって買い取り始めた彼女の薬だが、思いのほか評判がよく、結果的にフランシスを満足させている。
「ん……」
 リルの小さなうめきを聞いたフランシスはぱっ、と手を引っ込めた。
(眠っている彼女の体に悪戯をしていたのがばれたら、嫌われてしまう)
 どくどくと心臓を脈打たせながらようすをうかがう。起きるな、と切望する。
 フランシスの思惑どおりリルは目覚めなかった。それどころか、こちらに向かって寝返りを打ってきた。かわいらしく横たわっている。
(……もう少しだけ)
 フランシスは懲りずに彼女に触れる。
 今度はもっと大胆だ。ネグリジェの裾を緩慢にシュミーズごと引き上げ、乳房をあらわにした。
「……っ」
 息を呑み、見とれる。己の下半身はとっくにふくらんでいる。
 真っ白な乳房の先にちょこんとついている薄桃色のつぼみは美しく、舐めしゃぶりたい衝動にかられた。
(しかしさすがに、そんなことをしたら起きてしまうかも……)
 ためらいながらも、魅惑的ないただきに顔を寄せる。
 まずは指で乳房を突ついてみた。ふに、と沈み込む。ぐにゃぐにゃと思いきり揉みしだいてしまいたいのをぐっとこらえて、次はふくらみの頂点を指で押してみる。形が変わった。平べったかったそれがむくむくと勃ち上がった。
「んんぅ……」
 先ほどよりも大きなうめき声に驚きフランシスは体を跳ねさせる。ネグリジェをもとに戻すべきか迷う。しばらくはただ彼女の体を見つめているだけだった。
 起きる気配がないのを確認して、ふたたび乳房に顔を寄せた。間近で見るそれは情欲をいっそうかきたてる。
 フランシスは赤い舌を伸ばして、薄桃色をぺろりとひと舐めした。舐め心地は最高だ。これまで口にしたどんな食べ物もこの舌ざわりには負ける。
 嫌われてもいいからこのまま舐めしゃぶって、犯してしまおうかとさえ考えてしまう。
(……いや、だめだ。彼女を傷つけたくない)
 なけなしの理性がそれを引き止める。フランシスはリルの乳首を控えめに舐めながらごそごそと自身の一物を手にした。硬くふくらんだ切っ先からは欲望の白濁がにじみ出ている。
(俺は本当に情けないやつだ)
 偽善者的な協力を隠れ蓑にリルを家へ連れ込み、挙句の果てには彼女の体に無許可で触れて自身の欲望を勝手に満たしている。
 ひどく愚かで滑稽だ。
 それでも、フランシスは自身を慰めずにはいられなかった。いつか必ず想いを伝え、彼女にも相応の想いを向けてもらうことを夢見ながら、フランシスは情欲の飛沫を散らした。

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