四角いダイニングテーブル前の椅子に、オーガスタスは裸で座っていた。厳密に言うと、腰にバスタオルだけを巻いた状態だ。彼の服は先ほどすべて洗ってしまった。
「見苦しくなんてないわ。だって、すごく綺麗だから」
言ってしまったあとで後悔した。男の裸を愛でるなんて、淑女のすることではない。
「あ、ええと、違うの。その……」
言いよどむリルをよそにオーガスタスはパンを口に運び、もぐもぐとおいしそうに頬張った。
「じゃあ、リルも脱いで」
「なっ、なんでそうなるのよ!」
「だって、僕もリルの綺麗な体を見ながら食べたいし。ね? 早く」
「………」
リルは無言で頬を赤く染め、フォークで野菜サラダをつついた。視線をさまよわせながら食べ進める。
「赤くなっちゃって、かわいいなぁ。リルは」
「……あなたは全然かわいくないわ。少しは恥ずかしくないの?」
彼は裸で食事をしているというのに、羞恥心のかけらも見受けられない。
「んー、そうだなぁ……。リルが裸にエプロンだけを着てくれたら、興奮して真っ赤になっちゃうかも。以前、オ――……ええと、ある人からもらった本にそういうのが書いてあったんだ。ねえ、やってみて」
「ぐっ、ごほっ!」
「わっ、大丈夫?」
トマトが逆流してきそうになるのをなんとか押しとどめ、飲み込む。
「だ、大丈夫じゃ、ない……! い、いったいなにを、言ってるの!」
「だから、そのドレスをすべて脱いでエプロンだけを着るんだ。さっきまで着てたよね、かわいらしいピンク色のエプロンを」
オーガスタスは横目でちらりとキッチンを見やった。キッチンわきの小さな円卓のうえに、たたんで置いてあるエプロンを目線で示している。
「だっ、だから! そんなことするわけないでしょう。あんまりへんなことを言うと、取り上げるわよ」
彼の前にある皿を両手で引く。するとオーガスタスはあわてたようすで皿をつかんだ。
「ごめん、ごめん。冗談だよ。うーん、それにしてもおいしい。ほっぺが落ちそうだ」
それからオーガスタスは過剰にリルの朝食を褒めちぎり、パンやサラダを性急に腹のなかへ入れていった。
朝食を終えて食器を洗っているときだった。
「リルは働き者だね」
ほぼ裸の王子様オーガスタスがうしろからリルをのぞき込んできた。
吐息がかかりそうな位置に彼がいるのが落ち着かないが、食器を洗う手は休めたくない。今日はこのあと薬草を摘みにいく予定だから、早く片付けてしまわなければ。
「働き者っていうか……。ほかにやってくれるひとがいないんだから、仕方ないじゃない」
「じゃあリルは嫌々やってるの?」
「うーん……。この森に住み始めたときは不慣れでうまくいかなくて、嫌になることもあったけど、いまはそうでもないわ。それなりに楽しい」
「じゃあやっぱり働き者だ。ところでリル、僕がさっき言ったこと実行してよ」
「………」
リルは振り返らずに無言を貫く。朝食のときに彼がつむいだ虚言は覚えているが、しらをきる。
「ねえ、リル。聞いてる? 僕が言ったこと、覚えてない?」
「さあ、なんのことかしら」
「裸にエプロン、だよ」
「っ、するわけないでしょう!?」
「ちぇ……」
「――っ!?」
ずしりと肩が重くなった。オーガスタスは背後からリルの体に腕をまわし、頭を肩にあずけている。
「邪魔なんだけど」
リルが言うと、彼はすぐに離れた。
(やけに素直ね……?)
怪訝な顔でななめうしろのようすをうかがう。
「じゃあ邪魔にならないように、ここだけさわらせて」
「ぎゃっ!?」
エプロンのうえからふくらみをわしづかみにされた。
豊満なふたつのふくらみをオーガスタスがぐにゃぐにゃと揉みまわす。コルセットのない胸はとても無防備だった。
「はは、なにいまの声。正義の味方にひねりつぶされた魔女のうめき声みたい」
妙に具体的な比喩だがあながち間違っていないような気がして、よけいに憤りが湧く。
「う、うるさいわね! 放してっ」
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「見苦しくなんてないわ。だって、すごく綺麗だから」
言ってしまったあとで後悔した。男の裸を愛でるなんて、淑女のすることではない。
「あ、ええと、違うの。その……」
言いよどむリルをよそにオーガスタスはパンを口に運び、もぐもぐとおいしそうに頬張った。
「じゃあ、リルも脱いで」
「なっ、なんでそうなるのよ!」
「だって、僕もリルの綺麗な体を見ながら食べたいし。ね? 早く」
「………」
リルは無言で頬を赤く染め、フォークで野菜サラダをつついた。視線をさまよわせながら食べ進める。
「赤くなっちゃって、かわいいなぁ。リルは」
「……あなたは全然かわいくないわ。少しは恥ずかしくないの?」
彼は裸で食事をしているというのに、羞恥心のかけらも見受けられない。
「んー、そうだなぁ……。リルが裸にエプロンだけを着てくれたら、興奮して真っ赤になっちゃうかも。以前、オ――……ええと、ある人からもらった本にそういうのが書いてあったんだ。ねえ、やってみて」
「ぐっ、ごほっ!」
「わっ、大丈夫?」
トマトが逆流してきそうになるのをなんとか押しとどめ、飲み込む。
「だ、大丈夫じゃ、ない……! い、いったいなにを、言ってるの!」
「だから、そのドレスをすべて脱いでエプロンだけを着るんだ。さっきまで着てたよね、かわいらしいピンク色のエプロンを」
オーガスタスは横目でちらりとキッチンを見やった。キッチンわきの小さな円卓のうえに、たたんで置いてあるエプロンを目線で示している。
「だっ、だから! そんなことするわけないでしょう。あんまりへんなことを言うと、取り上げるわよ」
彼の前にある皿を両手で引く。するとオーガスタスはあわてたようすで皿をつかんだ。
「ごめん、ごめん。冗談だよ。うーん、それにしてもおいしい。ほっぺが落ちそうだ」
それからオーガスタスは過剰にリルの朝食を褒めちぎり、パンやサラダを性急に腹のなかへ入れていった。
朝食を終えて食器を洗っているときだった。
「リルは働き者だね」
ほぼ裸の王子様オーガスタスがうしろからリルをのぞき込んできた。
吐息がかかりそうな位置に彼がいるのが落ち着かないが、食器を洗う手は休めたくない。今日はこのあと薬草を摘みにいく予定だから、早く片付けてしまわなければ。
「働き者っていうか……。ほかにやってくれるひとがいないんだから、仕方ないじゃない」
「じゃあリルは嫌々やってるの?」
「うーん……。この森に住み始めたときは不慣れでうまくいかなくて、嫌になることもあったけど、いまはそうでもないわ。それなりに楽しい」
「じゃあやっぱり働き者だ。ところでリル、僕がさっき言ったこと実行してよ」
「………」
リルは振り返らずに無言を貫く。朝食のときに彼がつむいだ虚言は覚えているが、しらをきる。
「ねえ、リル。聞いてる? 僕が言ったこと、覚えてない?」
「さあ、なんのことかしら」
「裸にエプロン、だよ」
「っ、するわけないでしょう!?」
「ちぇ……」
「――っ!?」
ずしりと肩が重くなった。オーガスタスは背後からリルの体に腕をまわし、頭を肩にあずけている。
「邪魔なんだけど」
リルが言うと、彼はすぐに離れた。
(やけに素直ね……?)
怪訝な顔でななめうしろのようすをうかがう。
「じゃあ邪魔にならないように、ここだけさわらせて」
「ぎゃっ!?」
エプロンのうえからふくらみをわしづかみにされた。
豊満なふたつのふくらみをオーガスタスがぐにゃぐにゃと揉みまわす。コルセットのない胸はとても無防備だった。
「はは、なにいまの声。正義の味方にひねりつぶされた魔女のうめき声みたい」
妙に具体的な比喩だがあながち間違っていないような気がして、よけいに憤りが湧く。
「う、うるさいわね! 放してっ」