ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第二章 囚われの貴公子は自由奔放 12

 無防備に大きく口をひらく。よく考えればわかりそうなものを、このときはどうしてか素直に従ってしまった。
「……っ!!」
 唇どうしが合わさり、すぐに舌が侵入してくる。
「んっ、ん……!」
 つん、つんっと舌先で探られ、絡み合い、リルは翻弄されるばかりだ。
「――どう? 飲み込めた?」
「い、いいえ」
「じゃあ、もういっかい」
「………!」
 拒もうと思えばできたはずなのに、ふたたび受け入れてしまう。彼が目を閉じるものだから、リルも同じように目を閉ざした。
(オーガスタスはどういうつもりなの)
 本当に唾液を摂取させるためにこれをしているとは思えない。この行為が口付けの部類だというのは直感した。
「ふ、くぅ……っ」
 しだいに考えごとができなくなっていく。
 歯列をたどられるとくすぐったいのだが、それだけではないなにかが下半身を中心にうずき始める。
 舌と同時に彼の手のひらもリルをまさぐる。両頬から肩、それからわき腹を撫でおろした。
「んんっ……!」
 思わず身をよじって逃げようとする。しかしすかさずオーガスタスがはばむ。
 腰もとに腕を巻き付けられ、後頭部は手のひらで固定されて身動きがとれない。
 ちゅっ、ぴちゃっと水音が響く。彼の唾液を飲み込むどころではないし、舌を絡め取られて強く吸い上げられているから、息すらできない。
「……大丈夫? 実践するのは初めてなんだよね。苦しかったら教えて。あなたのほうが詳しいよね」
「そ、え……っ!?」
 私だって初めてだ、と言う前に視界がぐらりと揺らぐ。
 リルの黒い髪の毛がふわりと舞い、ピンク色のソファのうえに落ちて広がった。
 鮮やかな青と透き通るような金色の、射るような視線が痛い。
 オーガスタスはリルのひざに馬乗りになり、彼女に顔を寄せる。
(ま、まずいわ、とっても)
 このままでは彼の好き放題にされてしまいそうだ。そうされてなにがいけないのだ、という心の片隅に湧き起った考えを無視してリルはオーガスタスが興味を示しそうな話題を思案する。
 彼の関心を逸らせば、なんとかなると思った。
「わ、私っ、これからトレーニングの時間だわ」
「……トレーニング?」
 オーガスタスが首をかしげる。しめた、とばかりにリルは続ける。
「ええ。いろいろたるまないようにトレーニングしてるの」
「それなら、美容にいいマッサージ方法を知ってるよ」
「……っ!!」
 彼の顔が間近にせまった。つい息を止めてしまう。
「ほら、医学を学んだって言ったでしょ」
 手のひらが頬を撫でて滑り落ちていく。
「――やってあげる」
 どくっ、とあらぬ箇所が脈を打った。オーガスタスの手が、淡いグリーンのドレスのふくらんだところに添えられている。
「そ、それってどういう……。ぁ、ちょっと……!」
「ん? だから、マッサージだよ。美容に、とっても効果がある。お肌がつやつやになるから、僕に任せておいて」
「なっ、やっ……ッンン!」
 柔らかい唇を押し付けられ、なにも言えなくなる。
 オーガスタスはリルの唇を悪戯っぽくなんどもついばみながら両手でゆっくりと胸を揉みしだいた。
「オーガスタ、ス……ッ。や、ぅ……っ」
「……オーランドって、呼んで」
「ええっ……?」
 唇が離れたときを見計らって「やめて」と言おうと試みるが、離れたかと思うと角度を変えてすぐに唇が舞い戻ってくる。
(このままじゃ、だめ)
 口がだめなら態度で示そう。両手で彼の胸を押し上げてみるが、硬い胸板はちょっとやそっとではびくともしない。胸を激しく揉みまわされているせいで力が入らないのもある。
「あ……っ!」
 不意に唇が離れ、ふくらみの先端をドレスごしにカリッとひっかかれた。なぜオーガスタスはこうも的確に乳頭を探り当てるのか、はなはだ疑問だ。

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