ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第二章 囚われの貴公子は自由奔放 13

「ど、どこが、マッサージだっていうの……っ、ん」
 ドレスのうえから乳首をぐりぐりと指で押されている。マッサージにはほど遠い行為だ。
「ああ、ごめんごめん。それじゃあ、じかにちゃんと揉んであげるね」
「―――!?」
 詰襟のボタンがプチプチとはずされていく。リルは彼の手を勢いよくつかむ。
「ふっ、ふざけるのもいい加減にしてちょうだい!」
「ふざけてなんかいないよ」
 やけに低く、妙に落ち着いた声音だった。
 オーガスタスの瞳に釘付けになる。
 ふだんはヘラヘラと笑ってばかりいる男が急にこんな表情をするとあせってしまう。
 いつになく真剣な彼を前にしてリルの心臓は早鐘を打つ。
「オ、オーガスタス……! どうして、こんなこと」
「オーランドって、呼んでよ」
 リルのドレスを脱がせるオーガスタスの手はいっこうに止まらない。リルは彼の手首をつかんではいるが、連なって動いてしまって少しも抗えていない。
「僕はただあなたに美容にいいマッサージをしてあげようとしているだけだ。そう身構えないで」
 オーガスタスは嘘つきだ。これまでのことからそれはわかっているのに、信じてしまいそうになる。リルはふるふるとかむりを横に振った。
「嘘はやめて。私に、なにかへんなことをするつもりでしょう」
 彼の手首をつかむのをやめて自分自身を守りに入る。
 ドレスの胸もとを押さえたが、襟を開かれるのを止められなかった。
 急に顔を寄せられ、思わずそむける。あとを追われ、唇をぺろりとひと舐めされた。
「へんなこと……なのかな。わからない。けど、あなたが魅力的だから仕方がない」
「……っな」
 唐突に言われ、目を見張る。ぽかんと口を開けてしまったのはいけなかった。生温かい舌の侵入をたやすく許してしまう。
「……っ、ん」
 慣れとは怖い。口のなかに舌を入れらることに初めは違和感しかなかったのに、立て続けに何度もされると、それがまるで心地よい行為のように思えてくる。
「ふっ……!」
 唇に意識が集中しているあいだに胸もとがはだけていた。いつの間にかシュミーズの前をひらかれている。
 彼の人差し指と中指が交互に柔肉を打つ。二本の指でふにふにと乳輪の真横を押されていて、くすぐったい。
 オーガスタスの口が耳もとにやってきた。
「あなたは奇怪な行動をとるかと思えばそのじつ、働き者の努力家で」
 そこでぼそぼそと話されると、わき腹のあたりがむずがゆくなってくる。
「うぅっ、く」
「頭のなかはお花畑なのかと思えば意外と、かたくなだ」
「あぁっ……! ゃ、ぅっ」
 乳輪のきわを指でこすり立てられた。びくびくと過剰に身を震わせてしまう。
「敏感なところにはまだ触れていないよ?」
 吐息まじりに「かわいい」と付け加えてオーガスタスはくすくすと笑っている。
「い、いや……っ」
 ばたばたと肢体を動かすが、長身のオーガスタスの体はずっしりと重く、まったく動かない。
「はは、リルは反応が初々しくていいね。もしかして意図的?」
「意図的って……? な、なんの話……ぅ、んん」
「なんでもない。ねえ、ちゃんと見せて」
 両手首をつかまれてソファのうえに押さえつけられた。左右にひらかれたシュミーズから、乳房が無防備にさらけ出されているのが恥ずかしくてたまらない。
「やだっ、見ないで……!」
「あなたのふくらみは美しく魅惑的だ。これを前にして惑わずにはいられない……」
 オーガスタスは恍惚として言った。
 ごくっ、と息をのむ。リルには彼の瞳のほうが魅惑的だった。
 青と金を交互に見つめることで視線が揺れる。
 見れば見るほど美しく、そしていまは、情欲をちらつかせてたぎっているように思えた。
 ふと、彼が破顔する。
「でもまあ、目的を見失うのはよくないよね」
 オーガスタスがリルのふくらみを両手でわしづかみにする。いただきを指のあいだにはさみ、揉みまわし始めた。
「どう? 美容によさそうでしょ」
「……っ、ぜんぜん、よさそうじゃない。だから、もうやめて」
 弧を描いていた唇が平坦になり、ついには一文字に引き結ばれた。オーガスタスはからかいのない表情でリルをじいっと見つめている。
「なんでそんなに嫌がるの」
 彼の鮮やかな配色の双眸が揺らめく。

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