ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第二章 囚われの貴公子は自由奔放 19

 快楽の頂点にのぼりつめ、そして急に堕とされ、頭のなかが真っ白になる。
 気持ちがいいのは間違いないが、ひどく堕落しているような気がして罪悪感が残るのだ。
「……っ、くふ、う」
 唇の端からみだらにこぼれる液体を指ですくう。鼻をつくのはかいだこともない匂いだ。決していいとは言えないが、そこまで不快感はない。体液なのだからこんなものだろう。
 リルは箱入りの公爵令嬢だったが、ある程度の性教育は受けていた。だから、男性器から放出されるものがなんなのかくらいは知っていた。子をなすために必要な、精液だ。
「……ちゃんと飲み込んだ?」
 こくんとうなずく。するとオーガスタスが急に起き上がった。体勢を崩してあわてるリルをうしろから力強く抱き寄せ、ソファの背にもたれかかった。
「ん……。ありがとう、リル」
 オーガスタスはリルの肩に顔をうずめている。
「よくわからないけど……。嬉しいものなの? その、せ……精液を、飲んでもらうのって」
「嬉しいよ。あなたを内側から犯して、なにもかも僕のものにしたような気になる」
 それは、男の征服心というものだろうか。
「まあ、別のところから注ぎ込むほうがもっと強くそれを感じるんだろうけど」
「……っん!? ちょっ……、なに?」
 首すじをちゅうっと吸い立てられ、ちくりとした痛みが走る。
「……もっと、したいな」
 耳もとでぼそぼそと話すのはやめてほしい。体のあらゆる箇所がむずがゆくなってしまう。
 やめてほしいことはそれだけにとどまらない。オーガスタスはごく自然に、リルの乳房をうしろからわしづかみにして揉みまわす。
「わたっ、わ、たしっ!」
 彼の両手をすさまじい勢いで跳ねのけたリルは両手で胸を守り、すぐにシュミーズの前ボタンを閉じた。
「なに、たわし?」
 くすくすと笑うオーガスタスを横目に「うぉっほん」とおおげさに咳払いをする。
「私、そろそろ裏庭に行くわ。気ままな森暮らしに見えるかもしれないけど、じつはけっこう忙しいの。野菜畑と薬草の手入れをしなくちゃ」
「そう、わかった。じゃあこのへんでやめておくよ。一応はスッキリしたし」
 オーガスタスはリルの意思を尊重してか、両手を放してばんざいをした。これ以上はなにもしない、と言いたいのだろう。
リルはそそくさと立ち上がり、クローゼットへ向かい、衝立の前で着替えを済ませた。
「僕、これからもあなたのいろんな姿を見たい」
 リルがいま身につけているのは、農作業用の地味な衣服に黒い長靴、それから分厚い軍手と麦わら帽子だ。
「……それ、どういう意味?」
 衝立の端から顔だけをのぞかせていたオーガスタスがなにも言わずに近づいてくる。
「……っ!!」
 あごをすくわれ、頬にちゅっと口付けられた。
「な、なにするのよ、いきなり」
 まごまごしながら触れた自身の頬は、焚き火に手をかざしたときのように熱かった。

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