「へえ……。それで、リルはどういうふうに答えたの?」
彼が歩くと、屋敷の床に水粒の軌跡ができた。ぽたぽたと水を滴らせながらオーガスタスはリルに近づく。
「……なんの話か、わからない――と」
「しらを切ったんだ? ……まあ、そうだね。僕はあなたに大したことはしていない。いままでは」
そっと手首をつかまれた。彼の手はずいぶんとつめたい。
「オーガスタス、体がとても冷えてる。湯に浸かったほうがいいと思う」
「ねえ、リル。体液の話なんだけど」
彼はたまにひとの話を聞かない。
「……その話はもういいって、言ってるでしょ」
リルが眉尻を下げていると、つかまれていた手首をぐいっと強く引っ張られた。リルは歩きながら言う。
「ちょっと、なに? ……ひゃっ!」
ぼふっ、と大きな音がしてほこりが立つ。
ベッドは窓ぎわだ。外の雨音がよく聞こえる。
ぽつり、と頬に落ちてきたのは白金の髪先からしたたり落ちてきたつめたい雫。
「ねえ、とにかく体を拭いたほうが……」
「そうだね」
リルに馬乗りになったまま、オーガスタスはドレスシャツを脱いでいく。シャツは透けるほどに濡れていた。なかの素肌も水びたしだ。水滴があちらこちらに散らばっていて、妙に艶っぽい。
どくん、と下半身がなにかを期待する。
(雨に濡れたから、脱いでいるのよ。彼は)
これからリルと「なにか」するために脱いでいるのではないと、そう思うのはこじつけなのかあるいは逃げなのか。
リルは怖気づいていた。オーガスタスの上半身から目を逸らし、ピンク色のドレスの胸もとをぎゅうっと押さえる。
「リルも脱いで」
「……私は、雨には濡れていないわ」
オーガスタスが笑う。なにをふざけたことを、と言わんばかりの嘲笑だ。その顔のまま近づいてくる。
「じゃあ、濡らしてあげる」
「……っ!」
首すじにちゅっと口付けられ、そのあまりにつめたい感触に身が震える。
「マレット男爵はなかなかあなどれないな」
オーガスタスはリルの首すじにあらかじめついていた花びらを、自分自身の唇を押し当てて上書きしていく。
「んっ、ん……! ね、ねえ、痛い……っ」
リルが言うと、首すじを吸うのはやめてくれたものの、その次に触れてきた舌は灼熱だった。彼の唇の温度とはあまりに違っていたからそんなふうに感じたのかもしれない。
「オーガス、タス……ッ」
「オーランドだよ」
「ん……!」
おそるおそる腕をまわして彼の背中に添わせる。やはりつめたい。
「風邪をひくわ。だから、こんなことしていないで……っ」
「あなたが僕を温めてくれればいい。全身で」
ベッドのうえに広がっていた黒髪の一束をすくわれた。オーガスタスが愛おしそうにそれに口付ける。
「だから裸になって、リル」
プチ、プチッと真鍮のボタンがはずされていく。
「今日はあなたのすべてを舐めまわしたい気分だ」
青と金の瞳がそれぞれにたぎっている。そんな錯覚をしてしまう。
「ど、して、そんな……」
胸もとのボタンはどんどんはずされていくが、それを止めることができない。
「どうしてだろうね。……少しだけど、離れていたから……恋しくなっちゃったのかな」
ひとごとのようだ。しかしリルも気持ちは彼と同じだった。オーガスタスが散歩に出かけていたのはほんの数時間だっだというのに、彼を目にしただけで情欲をかき立てられてしまった。
そんな自分が信じられないし、同時に想いを自覚した。
「あの、待って……。わ、私……」
だからといって迷いがないわけではない。森に引きこもっていても、いちおうは淑女だ。そうやすやすと貞操を投げ出してよいものかと迷う。
「ごめんね、リル。僕は我慢ができないようだ。いままで虐げられてきたからかもしれない」
――虐げられてきた? 誰に?
とうとうドレスのボタンをすべてはずされてしまった。そでとすそはたやすく体から抜けていく。オーガスタスはリルのドレスをバサリと乱雑に床に放り投げた。
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彼が歩くと、屋敷の床に水粒の軌跡ができた。ぽたぽたと水を滴らせながらオーガスタスはリルに近づく。
「……なんの話か、わからない――と」
「しらを切ったんだ? ……まあ、そうだね。僕はあなたに大したことはしていない。いままでは」
そっと手首をつかまれた。彼の手はずいぶんとつめたい。
「オーガスタス、体がとても冷えてる。湯に浸かったほうがいいと思う」
「ねえ、リル。体液の話なんだけど」
彼はたまにひとの話を聞かない。
「……その話はもういいって、言ってるでしょ」
リルが眉尻を下げていると、つかまれていた手首をぐいっと強く引っ張られた。リルは歩きながら言う。
「ちょっと、なに? ……ひゃっ!」
ぼふっ、と大きな音がしてほこりが立つ。
ベッドは窓ぎわだ。外の雨音がよく聞こえる。
ぽつり、と頬に落ちてきたのは白金の髪先からしたたり落ちてきたつめたい雫。
「ねえ、とにかく体を拭いたほうが……」
「そうだね」
リルに馬乗りになったまま、オーガスタスはドレスシャツを脱いでいく。シャツは透けるほどに濡れていた。なかの素肌も水びたしだ。水滴があちらこちらに散らばっていて、妙に艶っぽい。
どくん、と下半身がなにかを期待する。
(雨に濡れたから、脱いでいるのよ。彼は)
これからリルと「なにか」するために脱いでいるのではないと、そう思うのはこじつけなのかあるいは逃げなのか。
リルは怖気づいていた。オーガスタスの上半身から目を逸らし、ピンク色のドレスの胸もとをぎゅうっと押さえる。
「リルも脱いで」
「……私は、雨には濡れていないわ」
オーガスタスが笑う。なにをふざけたことを、と言わんばかりの嘲笑だ。その顔のまま近づいてくる。
「じゃあ、濡らしてあげる」
「……っ!」
首すじにちゅっと口付けられ、そのあまりにつめたい感触に身が震える。
「マレット男爵はなかなかあなどれないな」
オーガスタスはリルの首すじにあらかじめついていた花びらを、自分自身の唇を押し当てて上書きしていく。
「んっ、ん……! ね、ねえ、痛い……っ」
リルが言うと、首すじを吸うのはやめてくれたものの、その次に触れてきた舌は灼熱だった。彼の唇の温度とはあまりに違っていたからそんなふうに感じたのかもしれない。
「オーガス、タス……ッ」
「オーランドだよ」
「ん……!」
おそるおそる腕をまわして彼の背中に添わせる。やはりつめたい。
「風邪をひくわ。だから、こんなことしていないで……っ」
「あなたが僕を温めてくれればいい。全身で」
ベッドのうえに広がっていた黒髪の一束をすくわれた。オーガスタスが愛おしそうにそれに口付ける。
「だから裸になって、リル」
プチ、プチッと真鍮のボタンがはずされていく。
「今日はあなたのすべてを舐めまわしたい気分だ」
青と金の瞳がそれぞれにたぎっている。そんな錯覚をしてしまう。
「ど、して、そんな……」
胸もとのボタンはどんどんはずされていくが、それを止めることができない。
「どうしてだろうね。……少しだけど、離れていたから……恋しくなっちゃったのかな」
ひとごとのようだ。しかしリルも気持ちは彼と同じだった。オーガスタスが散歩に出かけていたのはほんの数時間だっだというのに、彼を目にしただけで情欲をかき立てられてしまった。
そんな自分が信じられないし、同時に想いを自覚した。
「あの、待って……。わ、私……」
だからといって迷いがないわけではない。森に引きこもっていても、いちおうは淑女だ。そうやすやすと貞操を投げ出してよいものかと迷う。
「ごめんね、リル。僕は我慢ができないようだ。いままで虐げられてきたからかもしれない」
――虐げられてきた? 誰に?
とうとうドレスのボタンをすべてはずされてしまった。そでとすそはたやすく体から抜けていく。オーガスタスはリルのドレスをバサリと乱雑に床に放り投げた。