ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第三章 勘違い 05

「――欲しいんだ、あなたのすべてが」
 シュミーズとドロワーズだけになってしまった自分自身を抱きしめて彼を見上げる。リルの言い分などこれっぽちも聞く気がないのは明白だった。迷いも曇りもない、すがすがしいまでの表情をしている。
「腕をどけて。恥ずかしがらないで」
「ゃ……っ」
 抵抗しても無駄なのはわかっていたがそれでも、喜んで裸体をさらす気には到底ならなかった。このあいだはつい流されてしまったが、リルはそもそも性に寛容というわけではない。
 シュミーズの肩ひもがゆっくりと落ちていく。体だけでなく心もひもとかれていくようで、落ち着かない。
「リルの肌……とても温かい」
 首から肩にかけてを両手で覆われた。リルは彼とは逆で、手がとてもつめたいから心地が悪い。熱を奪われている。
「そ、れは……。オーガスタスの体が、すごく冷えているから」
 官能をくすぐるように鎖骨を這う舌がたまらなかったが、リルは平静を装った。
「やけに冷静だね? 心臓の音を聞いてみようか。虚勢かどうか、それでわかる」
「な……っ」
 オーガスタスは横を向き、リルのふくらみに頭を沈める。目を閉じて、心音に耳を澄ませているようだった。
 幼子が母親の胸で眠っているようにも見える。とてもとても大きな、子どもだが。
 黙って彼の白金髪を見おろしていると、ゆっくりと青と金の瞳がまみえた。口もとは弧を描いている。
「早鐘だ。……僕と同じ」
「あなたと、同じ……?」
「うん。緊張してる」
 プチッ、とシュミーズの前ボタンを弾かれる。
「ちょっ!? や、やだ、いつの間に」
 あわててシュミーズをつかむが、ときすでに遅い。シュミーズをいっきに腰のあたりまで引きおろされてしまった。とっさに胸もとを両手で覆い隠す。
「いいのかな、そこばかり守っていて。下がとても無防備だよ?」
 にやにやとほほえみながらオーガスタスはシュミーズごとドロワーズまでも引き下げる。
「あっ……」
 片手を伸ばす。しかしこれもまた、あとの祭りだ。結局はすべて脱がされてしまった。
 リルは胸を隠したまま横たわる。足先から手の先まであますところなく視線でなめまわされ、すでにいたたまれない。
「どこから舐めようかな」
「ぅ……」
 品定めでもするように、つめたい指が素肌をたどる。先ほどよりは幾分か温もりが戻ってきている。もしかしたら彼も、興奮しているのかもしれない。
「や、やめて……。そこ、くすぐったい」
 わき腹を指で撫でられている。彼の手を払いのけたいが、それでは胸もとががら空きになってしまうので、できない。
「じゃあ、ここから舐めるとしよう」
「……っや、いやよ。そんなところ、舐めないで」
 本当に全身を舐めまわす気なのか、と少しひるんでしまう。
「どこならいいの?」
「どこも、だめ」
「わがままだな、リルは。……ひとのことは言えないけど」
 横たわるリルの体にオーガスタスがのしかかる。やはりわき腹を舐めるつもりなのだ。真っ赤な舌をのぞかせて身をかがめている。
「ひぁっ、あ……!」
 腰のあたりからふくらみのきわまで、いっきにべろりと舌が這った。両腕は彼の片手で押さえつけられているから、されるがままに舐められるしかない。
「やっ、あ……! くすぐった、い……ッ」
 くすくすと笑い声を漏らすばかりでオーガスタスは舌をどけない。れろれろと舌を左右に動かしてふくらみの側面をくすぐっている。
 は、はぁっ、と息遣いが荒くなってくる。下半身にいっそう熱が集まり、蜜をたたえていく。リルの腰が、誘うようにくねくねと揺れる。
「腰が踊っているよ、リル。よし、今度はここにしよう」
 オーガスタスはリルの腕を押さえたまま舌を下降させ、腰骨のあたりで止まった。浮き出た骨の部分をたどり、茂みのほうへ行ったかと思うと引き返してきて、ふたたびわき腹に戻った。
「ぅ、う……っ、ふ」
 官能と紙一重のくすぐったさを覚えて身をよじる。
 足を動かすと、つめたい素肌に当たった。彼の胸板は厚く、少々力を入れたくらいではびくともしない。

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