ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第三章 勘違い 11

「っ、ちょ……!」
 腰に巻き付いていた彼の腕がグレーの下衣をさする。つかず離れず、絶妙な加減で生地越しに恥丘を押されている。リルは頬を赤らめて答える。
「まだ、痛いけど……。天気がいいうちにしかできないことがあるから、やらなくちゃ」
「そっか……。じゃあ、僕も一緒にする。やりかたを教えてくれる?」
 リルは「えっ」と小さく声を漏らして振り返った。
「生粋の王子様に、過酷な農作業が務まるかしらねぇ……」
 ふふん、と嘲笑して鼻を鳴らす。するとオーガスタスは頬ずりをやめた。
「――っふ!?」
 むぎゅっ、と乳房を両方とも、大きな手のひらに覆われてしまった。全力でもがく。しかし彼の腕からは逃れられない。
 農作業用の衣服ではコルセットを着ない。乳房だけでなくその先端も、無防備だ。
「ぁ、んく……っ。や、めて……!」
 なんの守りもない乳頭をオーガスタスは生地のうえからコリコリと押して刺激する。
「やめ、て、ったら……! ねえ……!!」
「ん? なに? ぜんぜん聞こえない」
 オーガスタスは先ほどリルが口走った嫌味を根に持っているようだ。
「おっ、王子様に手伝っていただけるなんて光栄です! お言葉に甘えて、よろしくお願いしますっ」
 早口で告げると、ようやくリルの胸は解放された。はぁっ、と息を荒げながら胸もとを両手で隠す。
 にやにやと顔をほころばせているオーガスタスを、リルは眉間にしわを寄せてじとっと見つめた。


 野菜の収穫は順調に進んだ。オーガスタスは初めは手間取っていたが、しだいにどんどん要領を得て、終わりかけにはリルと変わらぬ速さで収穫できるほどになっていた。
(こうも簡単に追いつかれちゃうのは、なんだか悔しいわね)
 収穫した野菜を倉庫へ運びながらリルは心のなかだけでつぶやいた。口に出したら、王子様がつけあがりそうだ。
 そうは思えど、手伝ってもらったのだから礼は言わねばならない。
 畑の端で、腰に両手をついて仁王立ちする彼のもとへ向かう。どうやら夕陽を眺めている。
「オーガスタス、今日はありがとう。あなたのおかげでいつもより早く済んだわ」
 彼が振り返る。夕陽に染まった髪はふだんよりも金色に見えた。
「そう、よかった。じゃあ今夜はご褒美をちょうだい」
 白い歯を見せてオーガスタスが笑う。
「む、無理よ! ヘトヘトなんだから」
「うん、だからリルの負担にならないようにする。さあ、すぐお風呂にしよう?」
「え、ちょ……っ!」
 ぐいぐいと背を押されて歩く。裏庭の端を通り、露天の風呂へやってきた。
「ほら、脱いで脱いで」
 オーガスタスはなんのためらいもなくリルの服を脱がせにかかる。
「ちょ、ちょっと……! やめて」
 彼がリルの言うことを素直に聞いていたのは収穫のあいだだけだ。いまはリルを完全に無視して彼女の服を拭い去っていく。
「肩、こってるでしょ? 揉みほぐしてあげるから、ね?」
「……っ」
 抵抗したところでどうせ結果は目に見えている。
「わ、わかったから……。自分で脱ぐわ。だからあなたも」
 ふうっ、とため息をつくリルをオーガスタスは満足げに見おろし、彼自身も服を脱ぎ始めた。リルはオーガスタスに背を向けて、残りの衣服をハンガーに引っかけた。ハンガーは軒下にあるので、雨が降っても濡れない。リルはいつもそうして風呂に入っている。
 いっぽうのオーガスタスは豪快だ。手早く服を脱ぎ、岩場に捨て置いた。リルはいつもそれを拾ってハンガーにかける。どうせ洗濯するのだからそのままにしておいてもよいのだが、なんとなく気になるのでそうしている。
「リル、早く」
 オーガスタスはすでに湯のなかだ。返事はせずに、湯のなかへ入る。
「そんなところにいたんじゃ肩を揉めないよ?」
「……本当に肩だけなんでしょうね」
「んー……。それは、状況による」
 リルは怪訝な顔をしてオッドアイの彼をにらむ。にらまれたほうのオーガスタスは、両手を顔の真横に持ってきた。おどけている。
「まあまあ。とにかくおいでよ」
「へんなこと、しないでよ。本当に疲れてるんだから、私。オーガスタスだってそうでしょう?」
「そうだね」
 警戒して動かないでいると、オーガスタスのほうから近づいてきた。リルのうしろにまわり込んで、彼女の両肩をつかむ。

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