ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第三章 勘違い 13

「ふっ……!?」
 急に体の向きを変えられた。山間に沈む夕陽が横に流れたように見えた。
「ん……っ」
 目を細める。オーガスタスの両手が頬を、目もとを覆っている。彼の指が目に入ることはないのだろうけれど、反射的にそうした。
 オーガスタスはリルの尻の下に自身の片腕を滑り込ませてかさ上げをする。少し高くなった彼女の乳房は湯から完全に出ている。
 頬にあった彼の右手が下がっていく。熱く、ぬめりを帯びた手のひらが火照った素肌を撫でおろす。
 彼の手はなぜこんなにも心地がよいのだろう。リルは喘ぎそうになるのを必死にこらえる。なんでもないところでも感じているのを知られたくなかった。
 白金髪の王子はそんな彼女の心理を見透かしたように「ふ」と息を漏らして笑い、指でふくらみの先端を押し上げて円を描く。
「っぁ、う……!」
 まだ舌で触れないのか、と少しだけ落胆してしまい、しかし口には出せない。リルはそっとオーガスタスの両肩をつかんだ。そうしなければ、きっと倒れて湯の底に沈んでしまう。
 のぼせてきているらしく、動悸が激しい。呼吸が荒くなる。口が半びらきになっているのを、リルは自覚していなかった。
「……すごく色っぽい表情をしてるね、リル」
「え……っ!? そ、そんなこと……ッン!!」
 オーガスタスは不意を打つのが得意のようだ。彼の口腔におさめられてしまった乳首はいっそう熱を持って、じりじりと甘く痺れる独特の快楽を全身に運ぶ。
 指で触れられていたほうは、そのままだ。そのまま、押しつぶされたり弾かれたりと、奔放にもてあそばれている。
「ああ、んっ……! やっ、あぅ……ッ」
 口に含まれているほうをじゅうっ、と吸い上げられた。こんなふうに水音が立つのはとても恥ずかしいのだが、オーガスタスはまったく気にしていないようすだ。むしろ、わざと大きな音を立てているようにも思える。
 しつこく舐め転がされていると、下半身まで焦れてくる。腰が揺り動いているのはわかっていたが、やめられない。
 陰毛に当たっている硬いそれの存在が、気になり始める。
 ふと、オーガスタスが顔を上げた。上目遣いで見つめられている。
「……リル、あんまり腰を揺すらないで。僕の――先端が、あなたのにこすれてる」
「……っ! そ、そんなつもり、ないわ」
「そうだとしても、ね。今日はいつもよりよけいに疲れてるんでしょ? だから、もう少しだけ……あなたの体を愛でたい」
「んぅっ……!」
 濡れた乳首をかすめた息は熱風だった。びくびくっ、と体を震わせる。
「はぁっ、ぅ……っ」
 硬い舌先で探るようにツン、ツンッと乳頭をノックされた。夕闇はまださほど濃くはない。むしろまだあたりは明るい部類だ。それなのにこんなことを――と、背徳感を覚える。
 では暗ければなにも問題ないのか、ということには彼女自身、無意識に目をつむっている。
 湯気に濡れてつやめく白金髪が小刻みにうごめく。オーガスタスは顔の角度を細かに変えて、あらゆる方向からリルの乳首を舐め上げる。
 硬く濡れそぼった乳頭は彼の舌を弾く。オーガスタスはそれを面白がっているのか、わざと舌を滑らせているようだった。
「や、だ……。遊ばないで……。っふ、ぁぅ……」
 オーガスタスはリルの乳首に舌を這わせたまま「んん」とうめくように返して、なまめかしくみずみずしい薄桃色の先端を大きく口に含んだ。
「あぁっ……! ゃ、ぁ……ッ」
 あまりに強く吸い上げられると、先端からなにか出てしまうのではないかと心配になってしまう。まるでなにかを吸い尽くしているかのような、そんな勢いで乳首を吸引されるのだ。
 ちゅぽっ、と淫猥な音が立って、乳頭が彼の口から出てきた。ようやくそこへの愛撫が終わったのかとひといきつくものの、今度はもう片方のそれを口腔へおさめられてしまった。
「ん、ゃっ、やぁ……っ、オーガスタス……!」
 そろそろべつのところにも刺激がほしくなってきた。自分がもっと素直な性格ならば、と思うけれど、二十五年間こうなのだから急には変えられない。
 下半身が焦れてくるのは、彼の愛撫がたくみだからだ。緩急をつけて乳首を舐め転がされている。ときに素早く、ときにはねっとりと。その落差がたまらなく下肢の付け根をくすぶらぜる。
 舌の腹を使って大胆になぶられるのもいい。熱い舌の感触が、頭のなかまで容易に痺れさせる。
「あ……陽が落ちる。リル、前を向いて」
「へ……っ?」

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