ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第四章 つむいだ時間 04

 少年との出会いから数日後のこと。
 健康補助以外の薬も日常的に作ることにしたリルは、オーガスタスとともに足りない薬草をつみに出かけていた。
 その、帰り道。
「ねえ……。そんなもの拾って、どうするつもり?」
「んー? 使いかたはいろいろあるよね。イロイロ」
 となりを歩いていたオーガスタスが突然、足を止めたと思ったら、太い木の幹に巻きついている蔦《つた》をおもむろに採取し始めたのだ。
 リルはそれを手伝いもせず、ただじいっと眺める。
「大丈夫、手伝ってくれなくてもいいよ。すぐに終わるから」
「ええ、もとからその気はないわ」
 薬草がいっぱいに入ったかごを両手に持ったまま、彼を静観する。意味ありげにニヤニヤと顔をほころばせてこちらを見ているオーガスタスに、ただならぬいやな気配を感じてリルは身の内を震わせた。


「――リル、汗をかいたでしょ。服を脱いで」
「ちょ……っ!?」
 屋敷に着くなりオーガスタスはすぐさまリルをベッドへ誘導した。無理やり服を脱がせようとしている。かたわらには、先ほど拾った長い蔦。鮮やかな緑色の葉がついたままだ。
「ほら、脱いで脱いで。そのままにしていたら風邪を引くよ」
「じゃ、じゃあ……オーガスタスはどこかへ行っていて」
「まあまあ。僕が脱がせてあげるから、リルは大人しくしていて?」
 リルの口まねをしながらオーガスタスは嬉々として彼女の服をどんどん拭い去っていく。
「やっ、いやだったら……! そ、その蔦でなにかするつもりなんでしょう!?」
「んん? リルにしては察しがいいね。そのとおりだよ」
 ぺろり、と蛇のように一瞬だけ舌をのぞかせてオーガスタスが目を細める。獲物を品定めでもしているような目つきだ。
「さて、この長い蔦の使いかたを当ててごらん」
 シュミーズとドロワーズだけになってしまって、なんとも心もとない。リルは必死に胸もとを押さえてぱくぱくと口を動かす。
「あれ? わからない?」
「や、やぁっ……!」
 強引にバンザイをさせられた。シュミーズが頭から抜けていく。残りの一枚であるドロワーズをすぐさま押さえるが、そちらも強く引っ張られてしまい、とうとう一糸まとわぬ姿になってしまった。
 なすすべがなくなってしまったリルはベッドにうつぶせになって体を隠した。ちらりと横目で彼のようすをうかがう。
 オーガスタスはあいかわらずニヤニヤとほほえんで、緑色の蔦をピンッと張り詰めさせている。
「いや……。やめて」
「なにをされるかわからないのに、やめてって言うのはへんじゃない?」
「わからないから、嫌なのよ!」
 オーガスタスは不敵に笑い、ベッドにうつぶせになっているリルのとなりに顔を寄せた。
「わからないから興奮する、の間違いでは?」
「んっ……!」
 ぺろぺろっ、と素早く唇を舐められてひるむ。どうしてか、それだけで体の力が抜けてしまい、かたくなにうつ伏せを貫くつもりだったのに、たやすく仰向けにさせられてしまった。
「あ……っ!!」
 オーガスタスはリルの体に手際よく蔦を巻きつけていく。
「わ、私で遊ぶのはやめてって、言ってるでしょ……!」
「遊んでいるつもりなんかないよ?」
「なっ……。やっ、いや……!」
 黙っていろ、といわんばかりに両手首をつかまれ、頭上でひとまとめにされてしまった。手首には蔦が幾重にも巻きついている。
「オーガスタス……ッ」
 いつか彼が言っていた。――縛って目隠しをするのもいい、と。
 目隠しをされていないだけまだいいのかもしれないと思った矢先に、彼は有言実行する。
「はーい。目は隠しちゃうよ」
 トラウザーズのポケットからハンカチを取り出し、リルの目もとを覆っていく。
 リルはいよいよどうしようもなくなった。
 長い蔦はリルの全身に、木の幹にあったときと同じようにぐるぐると巻きついている。足だけは拘束されておらず、片方にそれぞれ蔦が這っている。自由に動かせるようになっているのは故意だろう。そこが閉じてしまっては、彼が愉しめないからだ。
(オーガスタスはいまなにをしているの……?)
 蔦でぐるぐる巻きにされてしまったものの、かといってなにかされるわけでもなく、放置だ。この妙な「間」が、どうにも耐えられない。リルは彼に呼びかける。
「ねえ、オーガスタス……?」

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