ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第四章 つむいだ時間 05

「……うん」
 呼びかけられたほうの彼はリルの体を視姦していた。口もとはゆるやかに弧を描いている。まるで芸術品を作り上げたかのような、満足気な表情を浮かべてる。
「ああ……。あなたの薄桃色が絶妙に葉で隠れてる。すごくセクシーだ。そそられる」
「ん、ぁ……っ!」
 突然、ふくらみのいただきに刺激が走った。指で直接、触れられているのとは違う。先ほどオーガスタスは乳首が葉で隠れていると言っていた。彼は葉のうえから乳頭を押しているのだろう。
「っゃ、ぁ、ん……!」
 つんっ、つんっとじれったくつつかれ、身もだえする。リルが体を揺らすことで、蔦の葉もひらひらと揺れる。そのさまはどこか風情がある。
「リル、もっと体を揺らして。葉が踊ってる。きれいだ」
「う、ぅぅ……っ」
 意図して体を揺すっているわけではない。両手の自由がきかないことで、体がいっそう敏感になっているのだ。
 尖りきって、葉を押し上げてしまっているそこに、無骨な指先が円を描き始める。リルは喘ぎながら「はあ、はあっ」と呼吸を荒くして小躍りする。
 そうせずにはいられない。じかに触れていない、葉を通した刺激はなんともいたたまれず、もどかしさばかりがつのる。
「あ、ぁ……!」
 閉ざされた視界のせいで、リルの薄桃色はいつになく過敏だ。いつ乳頭をつつかれるのかまったく予測がつかない。
「じれったくなってきた?」
「んんっ、ぅ……ッ」
 わかっているくせに、あえて聞かないでほしい。リルがねだるのを待っているのだろう。
「はや、く……さわって……。オーガスタス……!」
 羞恥心が性欲に負けた。いましがた口走ったこの言葉を、彼がどうとらえたのかリルにはわからない。オーガスタスはなにも答えない。
「……オーガスタス?」
 ハンカチが作り出した真っ暗闇のなか、急かす意味も込めてふたたび呼びかけた。
「――っぁ、ああ!!」
 すると、ぐにゃりと荒っぽく両方の乳房をつかまれた。生温かいものがその頂点を見舞う。
 オーガスタスはリルの双乳をつかんで中央に寄せ、ふたつのいただきを舌で性急に舐めしゃぶった。乳首に舌を這わせたまま彼女の体を強引に横たえ、片手で脚の付け根をまさぐる。
「ひぁっ、あぁうっ、ンンッ……!」
 いきなりいろんなところを攻め立てられ、わけがわからない。頭のなかは混乱しているが、体はしっかりと感じていた。蜜壷からあふれた愛液をオーガスタスは指で絡め取り、花芽に塗りこめていく。
 乳首には先ほどから右、左と舌がべろべろと行き交い、硬くしこったそこに、これでもかと揺さぶりをかける。
「アアッ、ぅ、んぁぁ――……ッ!!」
 下半身の小さな豆粒をきゅっ、とつままれた瞬間、リルのなかで快感が弾けた。肉襞はびくびくと収縮し、絶頂の心地よい波が全身に広がっていく。
「リル……」
 かすれ声で名を呼ばれた。
 急に、まぶたの向こう側が明るくなった。リルはゆっくりと目を開ける。
 ――思いがけず、見とれてしまった。青と金の、曇りのない麗しい双眸がすぐそこにあった。
 しかし、それがあからさまにかげる。オーガスタスはリルの視線を避けるように顔をそむけ、彼女の手首に巻き付いていた蔦をほどいていった。
「……ねえ、リル。やっぱり気味が悪いでしょう? 左右で色が違うこの忌々しい瞳が」
 森で少年に言われたことを気にしているのだろうか。いや、そもそものコンプレックスなのだろう。ひとと違うところを持っているという点では同じだから、その気持ちはよくわかる。
「気味が悪いだなんて、思わないわ」
 リルはきっぱりと否定し、本心を告げる。
「あなたの瞳は、青空に輝く太陽を思わせる」
 すう、はあと呼吸を整えてリルはオーガスタスの両頬を手のひらで覆った。視線を逸らせないよう、両手で固定する。
「あるいは、未明の空に浮かぶ月。そういう……悠然とした美しさを感じる」
 まっすぐに彼の瞳を見つめて、言いたかった。嘘偽りはかけらもないのだと、伝わっただろうか。
 しばらくそうして見つめ合っていた。
 オーガスタスの口角が、ゆるやかに上がっていく。
「――嬉しい」
 見間違いでなければ、彼の瞳は潤んでいる。それは、晴れ渡る空の気まぐれな雨か、あるいは月夜のにわか雨。

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