ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 第四章 つむいだ時間 07

「ふ、ぅ……っ」
 下からの視線がいたたまれない。オーガスタスは挑発的にリルを見上げ、ふくらんだ部分をゆっくりと揉み込み、薄桃色の先端を生地のうえに際立たせ、そこへすかさず舌を這わせた。
「ぁっ……」
 生温かい舌の感触がエプロン生地を伝ってくる。濃い桃色に染まってしまったそこを、オーガスタスは舌や歯で刺激する。
 リルはふと思った。
 彼をここに連れてきた目的はなんだっただろう。
(ああ……。そうよ、体液……)
 しかしそんなもの、もはやどうでもよくなっている。
 彼との甘やかな戯れに、盲目的に溺れている――。


 コン、コン、とひかえめにドアノッカーが鳴った。
 快楽の海を漂っていたリルはその音で陸地に――現実に引き戻される。
「……マレット男爵かしら?」
 ぽつりと言うと、オーガスタスは不愉快そうに唇を引き結んだ。
「なにも聞こえなかったよ」
 白々しくつぶやくオーガスタスだが、すぐに否定される。ふたたびコンコンッ、と今度は先ほどよりも明確に玄関扉がノックされた。
 じいっと見つめて、目でうったえかける。オーガスタスはなおも往生際悪く、そ知らぬふりをしてリルの乳首をエプロン越しに食む。
「っゃ、う! だ、だめ……早く出なくちゃ」
 白金髪をぎゅうっと両手で強く押し戻す。するとオーガスタスはすねた子どものような顔をして、いかにもしぶしぶといったようすで立ち上がった。
「じゃあ、僕が出るから……リルは休んでいて。その格好のまま、ね」
「ひゃっ!?」
 リルの体を軽々と横向きに抱え上げ、オーガスタスはそのままベッドへ向かった。そっと彼女を寝かせ、掛け布をかぶせる。
(大丈夫かしら……)
 来客の相手を彼ひとりにさせてもよいものかと不安になった。もしかしたら、訪ねてきたのは兄のロランかもしれない。鉢合わせしてはまずい。
「ねえ、オーガスタス。やっぱり私が――」
 いやしかし、こんな格好――エプロン一枚しか身につけていない状態ではすぐには玄関先へ向かえない。
 そうしてもたもたしているあいだに、オーガスタスは玄関扉を開けてしまった。
 リルは一度起こした体をふたたび休ませて、掛け布をかぶった。ここから玄関は見えないので、どきどきしながら会話に耳を澄ませる。
「――イルニア様があなたをお捜しです。いますぐお戻りください」
 聞きなれない誰かの声がした。それから、扉が閉まる音がした。
「……?」
 身を起こし、急いでドレスを身につけて玄関扉を開ける。
 そこには、誰の姿もなかった。

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