ひきこもり令嬢は囚われの貴公子に溺愛される 《 終 章 想いのままに 02

 困り果てるリルを見かねたのか、オーランドがドクターストップをかけた。
「あら、すっかり夫気取りね? ……でもたしかに、そのとおりね」
「じゃあ元気になったら事細かにお話を聞かせてね、リルお姉さま」
 イザベラとカトリオーナは口々にそう言って、「ではおふたりでごゆっくり」と声をそろえて部屋を出て行った。似たもの親子とは彼女たちのことをいうのだと、リルはつくづく思った。
「はあ……。なんだかよけいに熱が上がった気がするわ」
 リルは大げさにため息をついて、残りのスープをすする。
「それはたいへんだ。スープを飲むのもままならないでしょう。僕がやってあげる」
 ひょいっ、とスープ皿をソーサーごと、スプーンも一緒に手からかすめ取られる。
「ええっ? そのくらい自分でできるわ」
「僕がやってあげたいだけ。ほら、あーんして」
 リルはもともとピンク色だった頬をいっそう濃くしてあごを引き、控えめに口を開けた。
 白いスプーンが、吸い込まれるようにそこへおさまる。
「おいしい?」
「……ええ」
「そう。いい香りだもんね、このスープ」
「………」
 リルは押し黙ったままだった。
 オーランドはリルの瞳に射るような視線を送っている。そうして扇情的に見つめられると、あらぬ箇所が疼いてくるので本当にどうしようもない。
 リルは彼となるべく目を合わせないようにして、スープを飲み進めた。
 スープを飲み終わったあと、皿を片付けたオーランドは小ぶりのウォッシュボウルを片手に部屋へ戻ってきた。ボウルからは湯気が立ち込めている。
「さて、体を拭いてあげるね」
「……それは、自分で」
 円卓のうえにウォッシュボウルを置き、ベッド脇に腰をおろしたオーランドは静かに首を横に振った。
 リルに有無を言わせない気だ。「自分で体を拭く」と主張するリルには目もくれず、手ざわりのよさそうなタオルをウォッシュボウルの湯に浸けて絞っている。
「あ、そのネグリジェには僕が着替えさせたから。安心して」
「なにが『安心』よ……」
「んー? どういう意味かな」
「へんなこと、しなかったでしょうね」
「なにもしてないよ。へんなことは、ね」
 オーランドはホットタオルをボウルの端に引っかけ、その手でリルのネグリジェのすそをつまんだ。
「だっ、だから、いいって言ってるのに」
「うん、『いい』んでしょ? じゃあなにも問題ない」
「もう……っ。そういう意味じゃないってわかってるくせに」
 ネグリジェのすそをまくり上げられまいとしていると、オーランドが下から顔をのぞき込んできた。
「そうやって隠したがるのは、逆に不埒なことを期待してるともとれるよ?」
「なっ……!」
 思わず手の力がゆるむ。するとオーランドはネグリジェのすそをいっきに引き上げて頭から抜けさせた。
「ちょっ、オーランド……!」
「恥ずかしがる必要なんてないと思うけど」
 ニヤニヤと顔をほころばせながらオーランドはリルのシュミーズの肩ひもを両方ともストンと落とした。
「やっ」
 ふくらみが無防備にさらけだされてしまい、そこをとっさに押さえていると、そのあいだにドロワーズをシュミーズごと下から脱がされてしまい、あっという間に、なにも身につけていない状態になってしまった。
(やだ……。どうしてこんなに恥ずかしいの)
 彼に裸を見られるのは一度や二度ではない。もう幾度となくさらしている裸体なのに、いまは異様に羞恥心をあおられる。じろじろと見られているのがいたたまれない。よけいに熱が上がってしまう。
 上気しきったリルの素肌を視線で舐めまわしたあと、オーランドは温かく濡れたタオルでそっと柔肌に触れた。
「んっ……」
 ベッドに座ったまま肩をすくめる。背中をゆっくりと撫で上げられている。
 胸はあいかわらず両腕で覆っているので、背から拭くことにしたのだろう。柔らかな生地と、ときおり触れるオーランドの温かな手がリルの体を疼かせる。
(いやだ、私……。本当に彼の言うとおりだわ)
 彼の言うとおり、不埒なことを期待しているからこんな反応をしてしまうのかもしれないと思い至り、よけいに恥ずかしくなる。
「ひゃっ……!」

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