快感マッサージチェア 《 06

実家に出戻ってきて一ヶ月が経った。居心地は悪かった。兄の家族が同居しているからお嫁さんには気を遣うし、姪と甥はもう年頃だから遊び相手にもならない。両親には離婚したことを毎日のように責められていた。

(やっぱり働きに出よう)

就職先を探してみるものの、特に何か資格を持っているわけでも無く、結婚するまでは実家住まいでアルバイトしかしていなかったから、経験値もゼロに等しい。そんな状態で正社員の働き口を見つけるのは困難だった。かと言って、アルバイトだけで一人暮らしをするのは金銭的に辛い。

(ああ、もう……どうしよう)

実家の納戸で彩奈は大の字になって寝転がっていた。出戻って来てからはここが彩奈の私室。かつての私室は姪が使っている。

ふと頭の中をよぎるのは、あの男の言葉。これまで何度も思い出した。彩奈は財布の中からクシャクシャの名刺を取り出した。そして、ためらいながら電話を掛ける。

『彩奈さん!?やっと掛けてきてくれた……お待ちしてましたよ』

修吾はすぐに電話に出た。もう忘れられているかも、と思っていたから拍子抜けした。

「えっと……前にあなたが言ってた話は、まだ有効ですか」

バツが悪いこと極まりないが、そんなことは言ってられない。実家から出たい一心で、彩奈は尋ねたのだった。

『もちろんです。今からお迎えに上がりますから、荷物まとめといて下さいね』

「え……!?待って、あなたのところからは かなり遠い……って、ちょっと!」

電話はすでに切れている。彩奈は目を丸くしたまま しばし呆然としていた。

***

「いやぁ、ご連絡いただいて本当にありがとうございます。この一ヶ月、彩奈さんのことばっかり考えてたんですよ」

彩奈はエルマークのついた黒光りするセダンの助手席に乗っていた。修吾は本当に実家にやって来て、ご丁寧に引越しトラックまで引き連れていた。

「……どうして、わざわざ来てくれたの」

自分は都合の良い女だ。一度は彼のことを無下にしたくせに、結局は頼ってしまっている。

「そりゃあ……反省してるからですよ。俺が余計なことをしたから、彩奈さんは離婚することになったわけだし」

「それは……別に、あなたのせいじゃ無い」

彼のせいだと思ったこともあった。だけど夫の浮気は間違いない事実なわけで、遅かれ早かれこうなっていたことだろう。
修吾はふっと小さく息を吐いて車を止めた。辺りはもう真っ暗だ。夜はだいぶん更けている。

「ま、細かいことは気にしないで。今夜はもう遅いですし……ここで休んで行きましょう」

車から降りて、天を仰ぐ。大きなホテルだ。ラブホテルの割には品が良い佇まいだと思う。

(……結局、身体が目的ってことなのかな)

半ば自暴自棄になっていた。彩奈は黙って彼の後に続いて歩いた。

前 へ    目 次    次 へ

前 へ    目 次    次 へ