言いなりオフィス・ラヴ 《 07

 カシャッというシャッター音で仁美は目を覚ました。あたりはほんのりと明るい。けれど目が慣れるまでに時間を要した。

「もう起きちゃったんだ。意外と早かったな」

 声がしたほうを向くと、そこにはなにも身につけていない中村がベッドにひざをついて横たわっていた。手には携帯電話を持っている。頭がハッキリしなくて、自分自身も裸だということに気がつくのが遅れた。身体を隠そうとしたけれど、両腕をベッド端のなにかに縛りつけられているから身動きが取れない。

「中村くん……? なにを」

「柚子川さんってホント、いい身体してるよね。いままで気づかなかったのは、服のセンスが悪いからかな」

 褒められているのかけなされているのかわからない。どちらにせよ不愉快なことには変わりなかった。

「いま何時? そろそろおいとましたいんだけど」

「ハハ、冷静だね。これからなにをされるのか、わからないわけじゃないよね」

 中村はスマートフォンを仁美の胸もとに寄せ、シャッターを切った。身体をよじってみたけれど、あまり意味がなかった。

「もうなにかしたあとなんじゃないの」

「さすがに眠ってる相手にはできないよ。写真はいっぱい撮ったけど」

 中村は携帯電話を枕もとに置いて、その手で仁美の唇をたどった。反射的に顔をそむけると、グイッと力強くあごをつかまれて唇をむさぼられた。歯列を舐める舌は本能的な性欲をくすぶらせる。狭い口内で舌を絡め取られるのは時間の問題だった。

「ん、ん……っ」

「ねえ、柚子川さん。俺のこと嫌い?」

「嫌い……。大っ嫌い……っ、ぅ!」

「そんなにハッキリ言われちゃうとショックだな。でも、100パーセント嫌いではないでしょ」

「なにうぬぼれて……、っぁ、んんっ!」

 無防備なふくらみの先端をちゅうっと水音が響くほど強く吸い上げられ、仁美はせめてもの抵抗をと脚を動かしたが、馬乗りになっている彼の身体が抑えになっていて払いのけることができない。

「……っふ、ぅ!」

 彼の指は乳頭をなぶったあと、どんどん下降していってすぐに蜜口をかすめた。

「少しの好意もないのに、こんなに濡れる? だとしたらきみの人格を疑っちゃうな。ああ、もとからそんなにマトモじゃないか。なんたって妻帯者と平気でセックスできちゃうんだから」

 課長との関係をけなされて、自然と目に涙がにじんだ。平気で彼と身体を重ねているわけではない。罪悪感はもちろんある。けれど課長のことが好きで、どうしようもなくて――。どんなに中村に人格を否定されても、これだけは言っておきたい。

「許されないことをしてるっていうのはわかってる。でも、課長のこと本気で愛してるの。たとえそれで彼の奥さんが傷ついても、この気持ちは変わらない」

 中村はしばらく無言だった。なにを考えているのか、まったくわからない。それくらい無表情だった。

「中村くん、そこをどいて。私……――っく、ああッ!」

 突如として蜜口に指を挿し込まれた。無骨な指は肉襞をえぐり、いっきに最奥を突いた。充分に濡れてはいなかったから、摩擦が大きすぎて痛みがほとばしる。

「一途で、かたくなで……。その気持ちを向けられてる課長は幸せ者だね」

「あ、あ……っ! ふ、ぅぅ……っ」

 蜜壷のなかの指は子どもを育むところの入口をズン、ズンと鈍い動きで刺激していた。媚壁は反射的に潤いを増し、摩擦はしだいになくなってきた。

「愛してるひとがいるのに、べつの男からいじられても気持ちいいの?」

「う……っ。ぅぁ、ぁんっ!」

 こんなことになる前まで、中村に対しては好意的だった。顔立ちはいいほうだし、話も合う。もしも課長と出会っていなかったら、気になる存在だったかもしれない。
 きっと彼が言う通り、仁美は中村のことが100パーセント嫌いではないのだ。けれどそれを絶対に悟られたくなくて、仁美は逃げるような思いで目をぎゅうっと閉じ、彼を視界から消した。
 両手の自由が効かないまま、仁美は目を閉じて中村の愛撫に耐えていた。乳頭は時おり爪を突き立てて引っかかれるから、そのたびにチクリとした痛みに過剰反応して身体を反らせた。

「目は閉じてるほうが感じるの? 目隠しでもしてあげようか」

「ちが……っ、中村くんの顔を、見たくないだけ……っ。ひ、ぁぅぅ」

「ふうん。じゃあ課長にされてるつもりで喘いで」

「あっ……ぅ!」

 彼の愛撫は愛しいひとのそれとはまったく異なるから、そんなふうに思うことは無理だし思いたくない。それでも快感はめまぐるしく身体中を駆け抜けていく。
 ちゅぷっと嫌な水音がしてふくらみの先端が外気に触れた。ようやく終わってくれるのかと思ってまぶたを開けると、彼は身を屈めて仁美の股間に顔を寄せているところだった。

「や、やだ……っ、止めて! 私、そこ……、嫌なの」

「なんで? 俺は好きなんだけど。特にきみのは綺麗な色してるし」

「くっ、んん……!」

 割れ目を指でこじ開け、中村は花芽をツウッと舐め上げた。
 嫌だ、恥ずかしくてたまらない。はじめて自身の陰部を見たのは中学生の時で、鏡越しだったけれどなんだか奇妙に感じた。それ以来、陰部を間近で見るのも見られるのもひどく苦手になった。

「やだ、やだったら……っ! ふ、ぅ」

 脚は両腕で固定されていて動かせない。陰茎にするのと同じような舐めかたをされて、仁美は羞恥で腰をよじった。

「さっきよりも愛液があふれてきてるよ。嫌って言ってたのに、嘘だったんだ?」

「や、ほんとに……。ん、ぅくっ!」

 突起をひねるように引っ張られ、舌で膣口を突つかれると、嫌なはずなのに身体のなかをうねる快感は増していく。これでは嫌がっていると思われないのは当たり前かもしれない。

「あ、う、んんっ、あああ……ッ!」

 それからすぐにビクンビクンと下半身が痙攣して、絶頂してしまった。

(やだ、私……なんで? こんなの、変……っ)

 自分でも信じられないくらいあっさりとイッてしまって、仁美は呆然としていた。すると中村が嘲笑する。

「ヒクヒクしちゃって、可愛いね。もっと大きなものを欲しがってるみたいだから、すぐに挿れてあげるよ」

「ん、う……っ! ひ、ぁぁ……っ」

 ズプ、ズププッと無遠慮に入ってきた雄棒が雌陰を貫いていく。脚は痛みを感じるほど大きく開かれていて、陰茎はすぐに奥まで到達してしまった。

「きっつ……。そんなに締めないで、もたないよ」

「ふぁっ、あ……あん、んっ!」

 乳房は手のひらで押すように揉まれ、指のあいだで乳首をつままれた。それをゆるい律動に合わせて上方に引っ張られると、もっと強くしてと願ってしまいそうになり、仁美は唇を噛み締めて自身を律した。

「なにか我慢してるでしょ。いいんだよ、正直になって」

「私は……。なに、も……っ。く、ふぅぅ」

 ぐちゅ、ぐちゅっと肉棒と媚壁が擦れる音は前後する動きに比例して大きくなっていく。

「乳首、もっとひねってもらいたいんでしょ? だったら言えばいい。今朝みたいに」

「ちが、う……。ゃ、ああ……っ!」

「ホント、素直じゃない。でもそういうところ、俺は……」

 最後のほうは聞き取れなかった。脚を高く持ち上げられ、最奥を何度も執拗に穿たれて、仁美は幾度となく絶頂に追いやられた。

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