今度はまぶしさで目を開けた。半開きのカーテンから陽光が射している。あたりを見渡しても中村の姿はどこにもない。
(これ……チャンスかも)
例の写真が収められたフラッシュメモリーを探す絶好の機会だ。仁美は布団から出てパソコンのデスクに近づいた。仁美の衣服はこの部屋のどこにも見当たらないから、裸のままデスクのまわりを漁る。引き出しや棚をひととおり調べてみたものの、それらしきものはなかった。
(たしか、上着の内ポケットにしまってたよね……。まだ入れっぱなしなのかも)
ゆっくりとクローゼットを開けて、中村が着ていたスーツを探した。服はたくさんあって、なかなか目当てのものが見つからない。探すのに夢中になっていたからか、
「なにしてるの」
「ぎゃっ!」
背後から伸びてきた手にふくらみをわしづかみされ、仁美は奇声を上げた。
「色気がないなあ。で、どうしたの。きみの服は洗濯してるから、ここにはないよ」
「え!? じゃあ私が着るものがないじゃない」
「コレで我慢して」
中村はハンガーにかかっていたワイシャツを手に取って仁美の肩に羽織った。彼のシャツを着るなんて不本意だけれど、裸でいるよりはマシだ。
「朝ご飯……、というかもう昼だけど、できてるよ」
シャツのボタンを留めながら、仁美は中村に背を押されてダイニングへ歩いた。食卓にはいかにも日本の朝ご飯というふうな料理が並んでいて、すきっぱらにはとてもおいしそうに見えた。しかし仁美は手をつけなかった。
「警戒してる? 大丈夫、今度はなにも入れてないよ」
「……本当に?」
「だってまたきみが延々と眠っちゃったら、エッチできないし」
「……いただきます」
まだなにかされるのかと思うと吐き気がしたが、空腹のままでは胃液が逆流してきそうだから、とにかくお腹になにか入れることにした。
(悔しいけど、おいしいんだよね……)
昨晩も思ったけれど、彼は料理上手だ。味つけは絶妙で、きっと万人受けする。けれど、引き出しやクローゼットのなかはわりとごちゃごちゃしていたから、よほどキッチリしているわけではないのだと思う。
「ごちそうさまでした」
仁美は小さな声でそう言って、茶碗を台所に運んだ。案の定、キッチンはあまり片づいていない。
「皿くらいは洗うよ。片づけ、あんまり上手じゃないみたいだから」
「ありがと。そうなんだよね。俺、料理は好きだけど片づけは苦手で」
中村はソファに寝っ転がってテレビをつけた。会社ではろくに休憩も取らずに仕事をしているけれど、家ではだらけるタイプのようだ。
しばらくは特に会話もせず仁美は黙々と皿を洗っていた。彼もなにも話しかけてこない。ふと中村のほうを見ると、目をつぶっていた。どうやら眠っている。
(あ、いまのうちに帰ろう……。って、服がないんだった)
最後の一枚を水切りに置き、ベランダへ出る。仁美の服はまだ湿っていて、とても着られるような状態ではなかった。
仁美はしかたなくリビングに戻り、スヤスヤと眠る中村を見おろした。
(……このままじゃ、風邪を引くよね)
こんな男、風邪のひとつでも引けばいいんだ。そうは思ったけれど、仕事に支障が出ては困る。一応は上司だし。
寝室から毛布を持って来て彼の身体にかけようとしていると、
「……っ!?」
突然、手首をつかまれたので驚いて体勢を崩し、ソファに倒れ込んでしまった。
「なっ、起きてたの?」
「うん。柚子川さん、どうするのかなあと思って寝たふりしてた」
嬉しそうにほほえむ彼はなんだか無邪気な顔をしている。いやいや、この男が無邪気なわけがない。腹のなかはドス黒いということはすでに知れている。
「勘違いしないでよね。本当は帰りたいけど、服がまだ乾いてないし……。中村くんに風邪でも引かれたら、仕事が増えて困るのは私だからっ」
「ハイハイ、わかってるよ。ありがとね」
つかまれていた手首にキスを落とされ、仁美は不覚にも赤面してしまった。
「顔、真っ赤だよ。まさか手首も性感帯だった?」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあなんで? 照れてるの?」
ぐるんと反転して、ソファに仰向けになる。もの知り顔で距離を詰められ、仁美はうつむくしかなかった。
「そんなんじゃ……、ない」
「純粋だよね、柚子川さんは。背伸びして不倫なんてすることないのに」
「背伸びって、そんな……。私、ステータスのために大輔さんとつき合ってるわけじゃな……っ、ふぐ!」
言い終わる前に指を数本、突っ込まれて、話せなくなる。彼は不機嫌そうに眉間にシワを寄せている。
「ほかの男の名前を言わないで。虫酸が走って舌を引っこ抜きたくなる」
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(これ……チャンスかも)
例の写真が収められたフラッシュメモリーを探す絶好の機会だ。仁美は布団から出てパソコンのデスクに近づいた。仁美の衣服はこの部屋のどこにも見当たらないから、裸のままデスクのまわりを漁る。引き出しや棚をひととおり調べてみたものの、それらしきものはなかった。
(たしか、上着の内ポケットにしまってたよね……。まだ入れっぱなしなのかも)
ゆっくりとクローゼットを開けて、中村が着ていたスーツを探した。服はたくさんあって、なかなか目当てのものが見つからない。探すのに夢中になっていたからか、
「なにしてるの」
「ぎゃっ!」
背後から伸びてきた手にふくらみをわしづかみされ、仁美は奇声を上げた。
「色気がないなあ。で、どうしたの。きみの服は洗濯してるから、ここにはないよ」
「え!? じゃあ私が着るものがないじゃない」
「コレで我慢して」
中村はハンガーにかかっていたワイシャツを手に取って仁美の肩に羽織った。彼のシャツを着るなんて不本意だけれど、裸でいるよりはマシだ。
「朝ご飯……、というかもう昼だけど、できてるよ」
シャツのボタンを留めながら、仁美は中村に背を押されてダイニングへ歩いた。食卓にはいかにも日本の朝ご飯というふうな料理が並んでいて、すきっぱらにはとてもおいしそうに見えた。しかし仁美は手をつけなかった。
「警戒してる? 大丈夫、今度はなにも入れてないよ」
「……本当に?」
「だってまたきみが延々と眠っちゃったら、エッチできないし」
「……いただきます」
まだなにかされるのかと思うと吐き気がしたが、空腹のままでは胃液が逆流してきそうだから、とにかくお腹になにか入れることにした。
(悔しいけど、おいしいんだよね……)
昨晩も思ったけれど、彼は料理上手だ。味つけは絶妙で、きっと万人受けする。けれど、引き出しやクローゼットのなかはわりとごちゃごちゃしていたから、よほどキッチリしているわけではないのだと思う。
「ごちそうさまでした」
仁美は小さな声でそう言って、茶碗を台所に運んだ。案の定、キッチンはあまり片づいていない。
「皿くらいは洗うよ。片づけ、あんまり上手じゃないみたいだから」
「ありがと。そうなんだよね。俺、料理は好きだけど片づけは苦手で」
中村はソファに寝っ転がってテレビをつけた。会社ではろくに休憩も取らずに仕事をしているけれど、家ではだらけるタイプのようだ。
しばらくは特に会話もせず仁美は黙々と皿を洗っていた。彼もなにも話しかけてこない。ふと中村のほうを見ると、目をつぶっていた。どうやら眠っている。
(あ、いまのうちに帰ろう……。って、服がないんだった)
最後の一枚を水切りに置き、ベランダへ出る。仁美の服はまだ湿っていて、とても着られるような状態ではなかった。
仁美はしかたなくリビングに戻り、スヤスヤと眠る中村を見おろした。
(……このままじゃ、風邪を引くよね)
こんな男、風邪のひとつでも引けばいいんだ。そうは思ったけれど、仕事に支障が出ては困る。一応は上司だし。
寝室から毛布を持って来て彼の身体にかけようとしていると、
「……っ!?」
突然、手首をつかまれたので驚いて体勢を崩し、ソファに倒れ込んでしまった。
「なっ、起きてたの?」
「うん。柚子川さん、どうするのかなあと思って寝たふりしてた」
嬉しそうにほほえむ彼はなんだか無邪気な顔をしている。いやいや、この男が無邪気なわけがない。腹のなかはドス黒いということはすでに知れている。
「勘違いしないでよね。本当は帰りたいけど、服がまだ乾いてないし……。中村くんに風邪でも引かれたら、仕事が増えて困るのは私だからっ」
「ハイハイ、わかってるよ。ありがとね」
つかまれていた手首にキスを落とされ、仁美は不覚にも赤面してしまった。
「顔、真っ赤だよ。まさか手首も性感帯だった?」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあなんで? 照れてるの?」
ぐるんと反転して、ソファに仰向けになる。もの知り顔で距離を詰められ、仁美はうつむくしかなかった。
「そんなんじゃ……、ない」
「純粋だよね、柚子川さんは。背伸びして不倫なんてすることないのに」
「背伸びって、そんな……。私、ステータスのために大輔さんとつき合ってるわけじゃな……っ、ふぐ!」
言い終わる前に指を数本、突っ込まれて、話せなくなる。彼は不機嫌そうに眉間にシワを寄せている。
「ほかの男の名前を言わないで。虫酸が走って舌を引っこ抜きたくなる」