言いなりオフィス・ラヴ 《 09

 この男なら本当にそれをやりかねない。そう思ってしまうほど彼は冷めた表情をしていた。したがいたくはないけれど、ここは無難にうなづいておいたほうがいいと思い仁美は首を縦に振った。

「素直な女の子は好きだよ」

(素直って……。アンタが無理にしたがわせてるだけだっての)

 口に指を入れられたままだから、心のなかだけで言い返した。中村は満足気にほほえみ、仁美の胸もとに顔を寄せた。

「ね、俺の名前を呼んで」

「……ええと」

「まさか……、わからないはずないよね。知り合ってもう5年も経つのに」

(どうしよう。本当にわからない)

 携帯電話には〝同期の中村くん〟として登録しているし、いままで名前を呼んだこともない。仁美は彼が会社でつけている名札を必死に思い出そうとしたが、そんなにマジマジと見たことがないから記憶があいまいだ。

「ねえ、早く」

「んっ……!」

 シャツのうえからカリッとつぼみを引っかかれ、仁美はおもわず胸もとを押さえた。

「ごめん、わかんない……」

 中村は「はぁー……」と長いため息をついて仁美の胸に顔をうずめた。今回ばかりはほんの少しだけ申しわけない気持ちになった。

「そういう中村くんは私の名前、知ってるの?」

「仁美」

 彼が顔を突っ伏したまま即答した名前はくぐもっていた。けれど間違いはない。

「……あの、中村くんの名前を教えて欲しいんだけど」

「それは、名前で呼んでくれるってこと?」

「呼びはしないけど、気になるし……。ちょっ、ゃ……っ!」

 シャツ越しに乳頭を大きくくわえられ、彼の頭を払いのけようと手を伸ばしたら手首をつかまれてソファに押しつけられた。

「名前で呼んでくれるなら、教えるよ」

「ぅく、んん……っ」

 唾液で湿ったふくらみの先端は生地と一緒に指でこねられていて、焦れったい快感をもたらしていた。

「呼ぶ……、から……。あ、ふぅ……っ」

 中村はニヤリと口角を上げ、仁美の耳もとで自身の名前をささやいた。同時に、濡れている両の乳首を指腹でグリグリと押され、くすぐったさから大きく身体をよじった。

「あ、あ……っ! う、んくぅ……!」

「ちゃんと覚えた? 俺の名前」

 中村は耳たぶをねっとりと舐め、ワイシャツのすそから手を滑り込ませた。その指は迷わず胸もとをかすめる。

「呼んで。色っぽく」

「と……も、や……っ。う、ふぅぅ」

「聞こえない。もっと大きな声で」

「智也……っ。あ、ああ……!」

 いつの間にか胸もとのボタンだけを外されていた。中村は双乳をつかんで中央に寄せ、ふたつの乳頭をいっきに舌で蹂躙した。それがたまらなく四肢を痺れさせる。
 仁美は怖かった。彼の愛撫に慣れてしまい、溺れはじめている。自覚があるうちはまだいい。大嫌いなはずの中村のたくみな愛撫によって気持ちまで侵されているようで怖いのだ。

「俺のこと、好きになっていいんだよ」

 仁美の心のなかを見透かしたようにささやく彼。仁美は過剰にビクンと身体を跳ねさせた。脚のつけ根はあふれ出た蜜でぐっしょりと濡れている。
 中村はルームパンツとトランクスを脱ぎながら仁美の身体を起こした。向かい合って彼のひざに座る格好になる。

「仁美が挿れて、俺のを」

 言う通りにしなければ。脅されているんだから。
 淫部が彼のものを求めていることを認めたくなくて、そう自分に言い聞かせながら仁美は腰を浮かせ、彼の肉棒をつかんだ。ゆっくりと腰を落として、猛々しい雄塊を身のうちに収めていく。

「くぅ、う……っ。はふ、ぅ」

 肉壷は伸びやかに押し広がり、ヌルヌルと異物を取り込む。奥まで慎重に進めようとしていたのに、

「ふぁ、ああ……っ!」

 腰を引かれ下から思い切り突き上げられてしまい、仁美は身体を仰け反り喘いだ。
 中村はワイシャツからはみ出ている仁美の乳房をつかんでそのいただきを口に含み、下半身を軸にした振動で揺れる乳頭をなぶった。

「ああ、あ……っ。ん、んぅぅ、や……! も、だめ……っ。く、イッちゃ……、ううっ!」

「そんな簡単にイかせてあげないよ。もっと俺の名前を呼んでくれなきゃ」

 中村は上下運動をゆるめ、仁美の身体を無理やりうしろ向きに変えた。挿入は先ほどよりも浅くなり、絶頂するほどではなくなる。それでも快感はとろ火のようにくすぶり燃え続けている。

「う、んぅぅ……、っあ」

「ねえ、仁美はもうわかってるよね。どうすればもっと気持ちよくなるのか」

 このまま彼の意のままに行動していいのだろうか。誰も仁美をとがめたりしない。とがめるとすれば、それは自分自身だけだ。大輔への愛はどこへいったのだ、と。

「智也……、もっと……し、て。……んんぅ、……っあ!」

 堕ちてしまった、と頭の片隅で考えた。けれどそんなことはどうでもよくなっていて、仁美は彼にうながされるままソファからおりてローテーブルに両ひじをついた。

「んんんっ、あ、あふぅ……っ!」

 あらためてうしろから突き刺さる肉棒は先ほどよりも硬く感じた。彼が興奮しているのか、淫壁が締めつけを強くしているのかはわからない。あるいは両方かもしれない。
 子宮の頸部がこじ開けられてしまうんじゃないかと思うほど激しく穿たれ、乳房は両手で四方に揉みくちゃにされている。

「はふ、うぅ、ああ……ッ、んくぅ!」

 視界が白くぼやけてきて、絶頂が近いことがおのずとわかる。肌がぶつかり合う音の間隔はいよいよ狭くなり、ドクンドクンと鼓動する陰茎を感じながら仁美もまたぐったりと脱力し、果てた。

前 へ    目 次    次 へ