いたずらな花蜜 ~妖精がつなぐ未発達な恋心~ 《 第一章 08

「もう少し、さわってみないことには……なんとも」
「そ、そう、なの……?」
「うん。……だから、あと少しだけ」
 秘所で止まったままだった彼の指が動き出す。
「……っ! ぁ、う……ッ」
 割れ目をえぐる勢いで指が大胆に動く。フィースの指は存在感がありすぎる。丸みがなくゴツゴツしているせいだ。
 そんな武骨な指が、割れ目のなかの突起をつまんだ。
「あっ……!」
 つい大きな声を出してしまい、恥ずかしくなって口もとを押さえる。
「声……我慢しなくていい。聞かせて、もっと」
「う、ぅぅっ」
 フィースはアリシアの秘所で眠っていた花芽を指でつまんで執拗にこねた。喘ぎ声とともに漏れる吐息すらも、聞き逃したくないと言わんばかりに彼女の口もとに耳を近づける。
 ごく近いところで見つめられ、どきりとする。フィースの眉根はわずかにシワを刻んでいる。
「もっと聞きたい。アリシアの可愛い声を」
「……っふ」
 ――おかしい。下半身だけでなく、頭のなかまで熱くなってきたような気がする。
「あ、ぅ」
 アリシアは言いよどみながら、次の言葉を探す。
「そ、れも、必要な……こと?」
「……いや。ただ聞きたいっていうだけ。俺が」
 ぎゅううっ、と下半身のそこを強く引っ張りあげられた。
「んぁっ……!」
 もたらされる明らかな快感に当惑する。アリシアはなまめかしく顔をゆがめてフィースに尋ねる。
「どう、して……っ?」
「そこは、聞かないで」
「??っ! も、わけが、わからない――」
 涙目になっているアリシアを見つめながらフィースは指の動きをいっそう激しくさせた。淫核を上下にこすりたて、身もだえする彼女をこれでもかといたぶる。その口角は、わずかだが弧を描いていた。
「ンンッ、ぅ、う――……!!」
 アリシアは両手で自身の口を覆って、ビクビクと体を震わせた。
 フィースには声を抑えるなと言われたが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。自分のものとは思えない、甘ったるい声を聞かれたくはなかった。
(な、なにが起こってるの……?)
 はあ、はあっと息を荒げるアリシアの頭をフィースがそっと撫でる。
「……まだ、おさまらない? その……ムズムズするっていう感覚は」
「え、と……」
 正直なところ、自分でもよくわからなかった。しかし、まだ疼きは残っている。消え失せてはいない。
 アリシアはコクンとひかえめに一度だけうなずいた。
「じゃあ……ナカに指を挿れるよ。楽にしていて」
「な、なか……って、どこ?」
「きみの、ナカだよ」
 フィースの、いままでに聞いたこともないような低いかすれ声が耳朶をくすぐる。
「あ、ぁ……っ!?」
 指が、沈み込んでいく。いったいどこに向かってそうなっているのかわからない。じゅぷぷっ、というひどい水音とともに角ばった指が体のなかを突き進む。
「……すんなり入った。狭くてあたたかくて、気持ちがいいな……アリシアのナカは」
「い、言わない、で……。なんだかすごく、恥ずかしい」
「ん……、ごめん。つい」
「……っ。フィース……」
 なぜ彼はこんなにも楽しそうなのだろう。とろんとした目つきでほほえんでいる。
「指、動かすよ」
「……っえ!?」
 動かされるとどうなるのか、アリシアは知らない。うんともいやとも言えずに、ただ身がまえるしかなかった。
「あ、あの……。ん、ん……っ!」
 緩慢に、彼の指が前後に滑り出す。
「は、ぁぅっ、う……ッ!!」
 往復し始めた指が内側をこするたびにビリビリと全身が疼いて、どうしようもない快感に包まれる。漏れ出る甘い声を抑える余裕はかけらもない。
 アリシアは高らかに、快楽に溺れてなまめかしく喘ぐ。
 いっぽうのフィースは愉しそうに嗤う。
 彼の視線は突き刺さるようで、いたたまれない。いままさに指を挿れられている、秘めたところを見られているわけではない。そこはバスローブの裾に隠れたままだ。
 フィースはアリシアの顔を凝視している。
「み、見な……で……っ! ぁ、ァ」
「え、なに? よくわからない」
 翡翠色の瞳を細くしてフィースはわざとらしくとぼけ、アリシアに追いうちをかける。
「水音がすごいね。きみのナカ……ぐちゃぐちゃだ」
「――っ!!」
 目も耳も、塞いでいてほしいと思った。
 フィースの言葉に羞恥心をあおられて、よけいに蜜奥が潤むのだが、アリシアにはそういうことがまだ理解できない。
 いけない反応をしているのだという背徳感ばかりがあふれ、主体性のない快楽にひたすらのみ込まれる――。
「きゃっ!? ぁ、あ……っ。そ、こ……ッ」
 太い親指に突き上げられたのは、割れ目のなかにある小さな豆粒だ。
「ココが、なに?」
「うっ、く……ぅぅっ」
 そこに触れられると、足先がいっそうムズムズと甘くしびれる。先ほどさわられたときよりも、さらに敏感になっているような気がした。内側をまさぐる指の動きとあいまって、言いようのない快感がほとばしる。
「……っ、アリシア」
 フィースはアリシアの片脚を押し上げてひらき、指の動きを速めた。
 なにかが、せり上がってくる。自分では制御できない、なにかが。
「ひぅっ、う、あぁぁ――……!!」
 体の内側を核に、ビクンビクンと全身が痙攣する。
「………」
 フィースは絶頂したアリシアをしげしげと眺めたあとで、ゆっくりと名残惜しそうに彼女のナカから指を引き抜いた。
「――あ。瞳の色が、もとに戻った」
「……っ、え?」
 アリシアは乱れた呼吸のままフィースに訊く。
「それって、どういう……こと?」
「きみの瞳、さっきまで萌黄色だったんだ。気のせいでは、ないと思う」
「そうなの……? わ、私、どうしちゃったのかな」
 胸もとに手を当て、小刻みに体を震わせるアリシアをフィースがそっと抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫だから……。明日、母さんに相談しよう」
「う、ん……」
 彼の体はあたたかく、心が休まった。眠気に襲われる。
 どれくらい、そうして抱きしめてもらっていたのかわからない。
 急に温もりが消えた。アリシアが目を開ける。
 フィースはベッドを抜け出してどこかへ歩いていくところだった。
「……どこに行くの?」
 何気なく尋ねると、フィースはひどくうろたえた。
「う、あ……っ、ええと……ちょっと、用を足しに」
「そう……」
 アリシアはふたたび目を閉じる。彼が戻ってくるまで起きていようと、このときは思ったのだが――。
 フィースがベッドへ戻ったのは、アリシアが眠りに落ちてしばらく経ってからのことだった。

前 へ    目 次    次 へ