アリシアは彼のつややかな銀色の髪を指に絡めてもてあそんだ。髪の毛と同じ色の長いまつげがピクンッと動く。
「ん……」
フィースの眉間にシワが寄る。睡眠の邪魔をしてしまったかもしれない。アリシアがあわてて手を引っ込めると、フィースは彼女の腰にまわしていた腕に力をこめ、いっそう擦り寄った。
「―――!」
下腹部の、そのさらに下にぐりぐりと顔をうずめられ、落ち着きを取り戻していたはずの心臓がドクドクとその鼓動を強める。
(わ、私……)
アドニスはいないというのに下半身に焦れが走る。さわりたいし、さわられたいと思ってしまう。
(む、無心よ……! なにも考えちゃだめ)
だれに言われるでもなく、なぜそういう思考に至ったのかもわからないのだが、アリシアは心のなかで自分にそう言い聞かせて深呼吸をした。
しかしながら、なんとか自分自身を落ち着かせようとしているあいだもフィースはひっきりなしに下半身を刺激してくる。顔を動かされることで恥丘と陰毛がこすれ、いてもたってもいられなくなるのだ。
(意識しちゃ、だめ……!)
ぎゅうっと目を閉じてアリシアは下を向く。もじもじと脚が動いてしまうのは、もはや仕方がない。
そうやってアリシアはしばらくのあいだ耐え忍んだ。頃合いを見計らって、フィースに呼びかける。
「フィース。そろそろ時間なんじゃないかしら」
「ん……」
「……フィース?」
「んんー……」
彼の眉間のシワが深くなったと思ったその直後、ぐらりと視界が揺らいだ。
「―――!?」
アリシアはソファの座面に背を預ける恰好――仰向けになった。みずからの意思でそんな状態になったわけではない。フィースがアリシアをソファに押し倒したのだ。
「フィース……ッ?」
呼びかけても、またしても返事はなかった。フィースはアリシアの首すじに顔をうずめている。
「っ、ん……」
彼の手が頬を撫で、そして唇をたどった。たどたどしく手探りをされている。口のなかに、無遠慮に指が入り込んできた。
「んむっ……!」
ついうめき声を上げてしまう。フィースは起きているのか、それとも眠ったままなのか、彼の顔はあいかわらず首のあたりに埋まっているのでわからない。
フィースの表情をたしかめようと、横を向いたときだった。
――唇に触れたのは、柔らかなそれ。
アリシアは目を見ひらく。いっぽうで、極めて近くにあるフィースのまぶたはしっかりと彼の瞳を隠している。
(ね、眠ってるの……? もしくは……寝ぼけてる、とか……?)
アリシアはフィースと唇を合わせたまま彼のようすをうかがった。後頭部を片手で押さえつけられているので、顔を動かせないというのもある。
「……んっ、ぅ」
アリシアのほうは微動だにできずに固まっていたが、彼は違った。角度を変えながら何度も唇をついばんでくる。それがしだいに心地よく思えてきて――よけいに困惑する。
「フィ――……っんん!?」
彼の名を呼ぼうと口を開けると、にゅるりと生あたたかいものが素早く口腔に潜り込んできた。
(しっ、舌が……っ!!)
初めは戸惑いしかなかった。舌で歯列をたどられ、うわあごをレロレロと舐めまわされ、なぜ彼の舌がそんなふうに動くのかまったくもってわからなかった。けれど――。
(……なんだか、気持ちがいい)
フィースの舌が口のなかに入っているというこの状態に慣れてきたからなのか、初めのころほど違和感を覚えなくなった。
目を閉じて、舌の感覚に集中する。目をつむったのは無意識のことだった。本能なのかもしれない。
「ふ……っ。ん、ンン」
いつの間にか、舌を絡め合わせることに夢中になっていた。ぴちゃっと水音が立っても、あまり気にならない。
アリシアの頭をかき抱いていないほうのフィースの片手が緩慢に動き出す。深紅のドレスの裾をめくりあげ、ドロワーズごと太ももを撫で、脚の付け根に伸び、生地ごしにゆるゆると割れ目をまさぐった。
「ンッ……! ふ、ぅ……っ」
口腔はいまだにフィースの舌でいっぱいなので、鼻から多分に息が抜ける。
彼が指で触れているところ――秘められた裂け目が潤みを増している。
妖精が不在のいま、なぜそこがそうなっているのだろうと疑問に思ういっぽうで、このまま続けてほしいとも思った。
『――たっだいまぁぁ~!』
突如、能天気な大声が響いた。パッと目を見ひらく。フィースも同じだった。アドニスの大声に驚いたらしく、翡翠色の瞳をのぞかせている。
『……あ、ゴメン。お邪魔だった?』
窓の隙間から部屋のなかへ入ってきたアドニスはソファに寝転がるふたりを見るなり気まずそうに顔をそむけ、短い手でポリポリと頬をかいた。
フィースはというと、
「……っ! ごめ、んっ……俺」
口もとを片手で押さえて頬を赤らめている。
「あ、俺……っ、その……。夢、かと……思って」
彼が目に見えてうろたえているのはめずらしい。そんな反応をされると、かえってこちらまであせってしまう。
「じっ、時間! えっと……平気?」
「あ、ああ……。行かなきゃ」
フィースはそそくさと立ち上がり、アリシアのほうを振り返りもせず部屋から出て行ってしまった。
あとに残るのは、柔らかな唇の感触と、それから――。
アリシアはソファから起き上がりはせず仰向けになったまま、いまだにありありと感覚が残っている唇を両手で覆った。
フィース・アッカーソンは大股で城の廊下を歩いていた。
顔がいまだに熱い。もしもいまだれかに遭遇したら、熱があるのだと勘違いをされるかもしれない。
(俺、は……アリシアに)
キスを、してしまった。それ以上のことを先にしておいて、いまさらという気もするが動揺してしまう。なぜなら、彼女はアドニスにイタズラをされている状態ではなかったからだ。
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「ん……」
フィースの眉間にシワが寄る。睡眠の邪魔をしてしまったかもしれない。アリシアがあわてて手を引っ込めると、フィースは彼女の腰にまわしていた腕に力をこめ、いっそう擦り寄った。
「―――!」
下腹部の、そのさらに下にぐりぐりと顔をうずめられ、落ち着きを取り戻していたはずの心臓がドクドクとその鼓動を強める。
(わ、私……)
アドニスはいないというのに下半身に焦れが走る。さわりたいし、さわられたいと思ってしまう。
(む、無心よ……! なにも考えちゃだめ)
だれに言われるでもなく、なぜそういう思考に至ったのかもわからないのだが、アリシアは心のなかで自分にそう言い聞かせて深呼吸をした。
しかしながら、なんとか自分自身を落ち着かせようとしているあいだもフィースはひっきりなしに下半身を刺激してくる。顔を動かされることで恥丘と陰毛がこすれ、いてもたってもいられなくなるのだ。
(意識しちゃ、だめ……!)
ぎゅうっと目を閉じてアリシアは下を向く。もじもじと脚が動いてしまうのは、もはや仕方がない。
そうやってアリシアはしばらくのあいだ耐え忍んだ。頃合いを見計らって、フィースに呼びかける。
「フィース。そろそろ時間なんじゃないかしら」
「ん……」
「……フィース?」
「んんー……」
彼の眉間のシワが深くなったと思ったその直後、ぐらりと視界が揺らいだ。
「―――!?」
アリシアはソファの座面に背を預ける恰好――仰向けになった。みずからの意思でそんな状態になったわけではない。フィースがアリシアをソファに押し倒したのだ。
「フィース……ッ?」
呼びかけても、またしても返事はなかった。フィースはアリシアの首すじに顔をうずめている。
「っ、ん……」
彼の手が頬を撫で、そして唇をたどった。たどたどしく手探りをされている。口のなかに、無遠慮に指が入り込んできた。
「んむっ……!」
ついうめき声を上げてしまう。フィースは起きているのか、それとも眠ったままなのか、彼の顔はあいかわらず首のあたりに埋まっているのでわからない。
フィースの表情をたしかめようと、横を向いたときだった。
――唇に触れたのは、柔らかなそれ。
アリシアは目を見ひらく。いっぽうで、極めて近くにあるフィースのまぶたはしっかりと彼の瞳を隠している。
(ね、眠ってるの……? もしくは……寝ぼけてる、とか……?)
アリシアはフィースと唇を合わせたまま彼のようすをうかがった。後頭部を片手で押さえつけられているので、顔を動かせないというのもある。
「……んっ、ぅ」
アリシアのほうは微動だにできずに固まっていたが、彼は違った。角度を変えながら何度も唇をついばんでくる。それがしだいに心地よく思えてきて――よけいに困惑する。
「フィ――……っんん!?」
彼の名を呼ぼうと口を開けると、にゅるりと生あたたかいものが素早く口腔に潜り込んできた。
(しっ、舌が……っ!!)
初めは戸惑いしかなかった。舌で歯列をたどられ、うわあごをレロレロと舐めまわされ、なぜ彼の舌がそんなふうに動くのかまったくもってわからなかった。けれど――。
(……なんだか、気持ちがいい)
フィースの舌が口のなかに入っているというこの状態に慣れてきたからなのか、初めのころほど違和感を覚えなくなった。
目を閉じて、舌の感覚に集中する。目をつむったのは無意識のことだった。本能なのかもしれない。
「ふ……っ。ん、ンン」
いつの間にか、舌を絡め合わせることに夢中になっていた。ぴちゃっと水音が立っても、あまり気にならない。
アリシアの頭をかき抱いていないほうのフィースの片手が緩慢に動き出す。深紅のドレスの裾をめくりあげ、ドロワーズごと太ももを撫で、脚の付け根に伸び、生地ごしにゆるゆると割れ目をまさぐった。
「ンッ……! ふ、ぅ……っ」
口腔はいまだにフィースの舌でいっぱいなので、鼻から多分に息が抜ける。
彼が指で触れているところ――秘められた裂け目が潤みを増している。
妖精が不在のいま、なぜそこがそうなっているのだろうと疑問に思ういっぽうで、このまま続けてほしいとも思った。
『――たっだいまぁぁ~!』
突如、能天気な大声が響いた。パッと目を見ひらく。フィースも同じだった。アドニスの大声に驚いたらしく、翡翠色の瞳をのぞかせている。
『……あ、ゴメン。お邪魔だった?』
窓の隙間から部屋のなかへ入ってきたアドニスはソファに寝転がるふたりを見るなり気まずそうに顔をそむけ、短い手でポリポリと頬をかいた。
フィースはというと、
「……っ! ごめ、んっ……俺」
口もとを片手で押さえて頬を赤らめている。
「あ、俺……っ、その……。夢、かと……思って」
彼が目に見えてうろたえているのはめずらしい。そんな反応をされると、かえってこちらまであせってしまう。
「じっ、時間! えっと……平気?」
「あ、ああ……。行かなきゃ」
フィースはそそくさと立ち上がり、アリシアのほうを振り返りもせず部屋から出て行ってしまった。
あとに残るのは、柔らかな唇の感触と、それから――。
アリシアはソファから起き上がりはせず仰向けになったまま、いまだにありありと感覚が残っている唇を両手で覆った。
フィース・アッカーソンは大股で城の廊下を歩いていた。
顔がいまだに熱い。もしもいまだれかに遭遇したら、熱があるのだと勘違いをされるかもしれない。
(俺、は……アリシアに)
キスを、してしまった。それ以上のことを先にしておいて、いまさらという気もするが動揺してしまう。なぜなら、彼女はアドニスにイタズラをされている状態ではなかったからだ。