このままではシュバルツ国王に殺される。
無防備な恰好で、腕のなかでスヤスヤと眠る愛らしい姫の頬をフィースはツンッと人差し指で突いた。弾力のある柔肌が指を押し返してくる。しばらくそうして薔薇色の頬をつついていた。
(本当、一度寝たら滅多なことじゃ起きないんだよな……)
これ幸いとばかりにフィースは指をどんどん下降させた。こちらを向いて横たわるアリシアの真っ白なふくらみの谷間に指を沈めて柔らかさを満喫したあとは薄桃色の先端をトン、トンッとノックした。
「んぅ……」
「……っ!」
ドキリとして指の動きを止める。ふくらみのいただきは人差し指で柔肉へ押し込んだままだ。
もしも彼女が目覚めたら、下のほうでくすぶっているこのどうしようもない肉塊をまた体におさめてくれるだろうか。
(いや……。なにを馬鹿なことを)
いまのいままで自己嫌悪でいっぱいだった。頭のなかでは反省していたはずだった。
嫉妬にさいなまれて、己の身勝手な欲求を彼女のなかへとめどなくぶちまけてしまった。
まるで気を失うように眠りに就いたアリシアを目の当たりにして、自身の横暴さを激しく後悔したが――彼女を犯したことは少しも悔いていない。もちろん、全面的に自分が悪いと認識はしている。
(けじめをつけなければ)
征服欲に駆られ、幾度もアリシアのなかに子種を植えつけた。孕ませてしまったかもしれない。
『アリシアに手を出したらコロス』
フィースはゾクッと背筋を震わせた。裸でベッドに横たわっているわけだが、寒気が走ったのとは違う。部屋のなかは暖かい。
フィースは長く息を吐く。まるで彼がすぐそばでそうささやいたかのようだった。背筋が凍ったのは、国王に――アリシアの父親に、会うたびにそう言われていたのを思い出したからだ。彼は娘のアリシアをひどく溺愛している。国王の子どもは男女ひとりずついるのだが、分け隔てなく愛情を注ぐ王妃とは違って、国王は長女のアリシアをとくに可愛がっているようだった。
(……俺が、然るべき相手になればいいだけだ)
自分自身が、彼女のとなりがふさわしい相手になればいいというだけの話だ。
机仕事が嫌だとか、舞踏会や茶会が面倒だなどとワガママを言っている場合ではない。
むしろ、うかうかしていたらアリシアをほかの男に奪われてしまう。いや、そもそもまだ彼女を名実ともに手に入れたわけではないが。
フィースはアリシアが目覚める気配がないのを確認すると、彼女の体をそっと仰向けにした。
覆いかぶさり、唇を塞ぐ。ようすをみるためにまずは軽く、一度だけ。少し間を空け、今度は深く唇を食んだ。ぷっくりとした、みずみずしい唇を舌で舐めたどる。
それから首すじに舌を這わせ鎖骨を通り、可愛らしいつぼみをレロリと一舐めした。
「アリシア……」
小さな声で呼んでみる。
起きてほしいような、そうでないような――複雑な心境だった。
ブロッサム国で催された舞踏会の翌日。秘密の花園へと出立すべく馬車へ乗り込む前のことだった。
「姫様は熱があって……ひどくうなされていたから、一晩中介抱していた」
ルアンドから浴びせられた「昨夜はふたりきりでいったいナニをしていたのですか」という問いに対してフィースは白々しく答えた。
アリシアが同調する。
「あ、そっ、そう……なの。フィース、ありがとう。おかげですっかり元気になったわ」
「いえ……。体調が戻られたのなら、なによりです」
ほのかに頬を赤らめて礼を述べてきたアリシアを健気に思った。嘘をつかせて申し訳ない気持ちはあるが、いまはこう言うしかない。
「……では、まあ。参りましょうか」
ルアンドはいまだに納得いかないといったふうな渋面を浮かべ、アリシアを馬車へうながす。
「ええ」
アリシアが歩き出す。
「……っ!」
しかし数歩進んだところで、体勢を崩してグラリとよろけた。フィースはすかさず肩を抱いて支える。
「……大丈夫ですか?」
「へっ!? う、うん……っ。だい、じょぶ、です」
彼女の頬は真っ赤で、耳までそうだった。
(……可愛い。抱きしめたい)
それから赤い耳たぶを食んで、清楚なクリーム色のドレスを引きはがしてしまいたいと思ったが――できるはずもない。
フィースはゴホンッと大仰に咳払いをする。
「まだ本調子ではないようですね。歩くときは常に俺の腕を支えに使ってください」
なんならずっと抱きつかれていてもいいくらいだ、と心のなかだけで考えつつ進言すると、アリシアは恥ずかしそうにコクンと一度だけうなずいた。
『やっほぉぉ~』
アリシアをともなって馬車へ乗り込むなりアドニスが姿を現した。
「アドニス、おはよう。リリアンとは……どう?」
アリシアが尋ねると、クマの姿をしたいたずら好きの妖精は浮かない表情――というか、顔つきは変わらないのでなんとも言えないが、とにかくガックリとうなだれて意気消沈した。
『あいかわらず平行線だよ……。姿も見せてくれないし。まあ、彼女もまだ本調子じゃないからね。フィースのなかでずっと眠ってる』
「そうなの……」
表情を曇らせ、落胆するアリシアをフィースはかたわらで静かに眺めた。
『フィースゥ~。ちゃんと責任とらなきゃダメだよぉ~?』
「……!!」
一瞬ギクリとした。ルアンドが目の前にいるというのに、なんてことを言うんだ、と。しかしアドニスの声は自分にしか聞こえていないようだった。
フィースは小さくうなずく。アリシアはというと、アドニスとフィースがアイコンタクトをしているのを不思議そうな表情で見つめていた。
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無防備な恰好で、腕のなかでスヤスヤと眠る愛らしい姫の頬をフィースはツンッと人差し指で突いた。弾力のある柔肌が指を押し返してくる。しばらくそうして薔薇色の頬をつついていた。
(本当、一度寝たら滅多なことじゃ起きないんだよな……)
これ幸いとばかりにフィースは指をどんどん下降させた。こちらを向いて横たわるアリシアの真っ白なふくらみの谷間に指を沈めて柔らかさを満喫したあとは薄桃色の先端をトン、トンッとノックした。
「んぅ……」
「……っ!」
ドキリとして指の動きを止める。ふくらみのいただきは人差し指で柔肉へ押し込んだままだ。
もしも彼女が目覚めたら、下のほうでくすぶっているこのどうしようもない肉塊をまた体におさめてくれるだろうか。
(いや……。なにを馬鹿なことを)
いまのいままで自己嫌悪でいっぱいだった。頭のなかでは反省していたはずだった。
嫉妬にさいなまれて、己の身勝手な欲求を彼女のなかへとめどなくぶちまけてしまった。
まるで気を失うように眠りに就いたアリシアを目の当たりにして、自身の横暴さを激しく後悔したが――彼女を犯したことは少しも悔いていない。もちろん、全面的に自分が悪いと認識はしている。
(けじめをつけなければ)
征服欲に駆られ、幾度もアリシアのなかに子種を植えつけた。孕ませてしまったかもしれない。
『アリシアに手を出したらコロス』
フィースはゾクッと背筋を震わせた。裸でベッドに横たわっているわけだが、寒気が走ったのとは違う。部屋のなかは暖かい。
フィースは長く息を吐く。まるで彼がすぐそばでそうささやいたかのようだった。背筋が凍ったのは、国王に――アリシアの父親に、会うたびにそう言われていたのを思い出したからだ。彼は娘のアリシアをひどく溺愛している。国王の子どもは男女ひとりずついるのだが、分け隔てなく愛情を注ぐ王妃とは違って、国王は長女のアリシアをとくに可愛がっているようだった。
(……俺が、然るべき相手になればいいだけだ)
自分自身が、彼女のとなりがふさわしい相手になればいいというだけの話だ。
机仕事が嫌だとか、舞踏会や茶会が面倒だなどとワガママを言っている場合ではない。
むしろ、うかうかしていたらアリシアをほかの男に奪われてしまう。いや、そもそもまだ彼女を名実ともに手に入れたわけではないが。
フィースはアリシアが目覚める気配がないのを確認すると、彼女の体をそっと仰向けにした。
覆いかぶさり、唇を塞ぐ。ようすをみるためにまずは軽く、一度だけ。少し間を空け、今度は深く唇を食んだ。ぷっくりとした、みずみずしい唇を舌で舐めたどる。
それから首すじに舌を這わせ鎖骨を通り、可愛らしいつぼみをレロリと一舐めした。
「アリシア……」
小さな声で呼んでみる。
起きてほしいような、そうでないような――複雑な心境だった。
ブロッサム国で催された舞踏会の翌日。秘密の花園へと出立すべく馬車へ乗り込む前のことだった。
「姫様は熱があって……ひどくうなされていたから、一晩中介抱していた」
ルアンドから浴びせられた「昨夜はふたりきりでいったいナニをしていたのですか」という問いに対してフィースは白々しく答えた。
アリシアが同調する。
「あ、そっ、そう……なの。フィース、ありがとう。おかげですっかり元気になったわ」
「いえ……。体調が戻られたのなら、なによりです」
ほのかに頬を赤らめて礼を述べてきたアリシアを健気に思った。嘘をつかせて申し訳ない気持ちはあるが、いまはこう言うしかない。
「……では、まあ。参りましょうか」
ルアンドはいまだに納得いかないといったふうな渋面を浮かべ、アリシアを馬車へうながす。
「ええ」
アリシアが歩き出す。
「……っ!」
しかし数歩進んだところで、体勢を崩してグラリとよろけた。フィースはすかさず肩を抱いて支える。
「……大丈夫ですか?」
「へっ!? う、うん……っ。だい、じょぶ、です」
彼女の頬は真っ赤で、耳までそうだった。
(……可愛い。抱きしめたい)
それから赤い耳たぶを食んで、清楚なクリーム色のドレスを引きはがしてしまいたいと思ったが――できるはずもない。
フィースはゴホンッと大仰に咳払いをする。
「まだ本調子ではないようですね。歩くときは常に俺の腕を支えに使ってください」
なんならずっと抱きつかれていてもいいくらいだ、と心のなかだけで考えつつ進言すると、アリシアは恥ずかしそうにコクンと一度だけうなずいた。
『やっほぉぉ~』
アリシアをともなって馬車へ乗り込むなりアドニスが姿を現した。
「アドニス、おはよう。リリアンとは……どう?」
アリシアが尋ねると、クマの姿をしたいたずら好きの妖精は浮かない表情――というか、顔つきは変わらないのでなんとも言えないが、とにかくガックリとうなだれて意気消沈した。
『あいかわらず平行線だよ……。姿も見せてくれないし。まあ、彼女もまだ本調子じゃないからね。フィースのなかでずっと眠ってる』
「そうなの……」
表情を曇らせ、落胆するアリシアをフィースはかたわらで静かに眺めた。
『フィースゥ~。ちゃんと責任とらなきゃダメだよぉ~?』
「……!!」
一瞬ギクリとした。ルアンドが目の前にいるというのに、なんてことを言うんだ、と。しかしアドニスの声は自分にしか聞こえていないようだった。
フィースは小さくうなずく。アリシアはというと、アドニスとフィースがアイコンタクトをしているのを不思議そうな表情で見つめていた。