いたずらな花蜜 ~妖精がつなぐ未発達な恋心~ 《 第六章 03

「……それにしても、こんな恰好で誘惑されちゃたまらないな。俺、ここ最近はずっと――」
 背中を上下にさすられている。フィースはなかなか続きを言わない。
「……ずっと、なに?」
「いや、なんでもない。少しだけ……さわらせて」
 背を撫で上げた手が肩を飛び越えて前へやってきた。鎖骨をたどりふくらみの稜線をのぼりつめ、ピンク色のレース生地ごと乳輪のきわをつままれる。
「……ッ!」
「きみはどんな恰好をしていても魅力的だ」
 指はふくらみのいただきには触れず、そのまわりの円を強く押している。生地の向こう側でつぼみが揺れる。
「あまり俺を誘惑しないで。なにもかも、欲しくなってしまう――」
「ふぁっ……!」
 急にキュッと乳頭を二本の指で挟まれた。そのままクニクニとひねりまわされる。
「ん、ぁぅっ……」
 腕に力が入らない。自身を支えきれずにいると、グルンと強引に体を反転させられた。柔らかいベッドに背から沈み込む。彼にのしかかられているのでよけいに埋もれているような気がする。
「アリシア」
 愛おしそうに名を呼びフィースは彼女の首すじに舌を這わせた。耳の下から肩のあたりまでをレロレロと舐めたどり、そのなかほどをちゅうっと吸い上げる。
「んっ……」
 チクリとしたささやかな痛みに気を取られたのも束の間、今度は乳房の先端を両方ともぎゅうっとつまみ上げられ、大きな嬌声を発してしまう。
「ひぅっ、んん……!」
 乳首とレース生地が擦れる感覚はとても心地がよかった。フィースはわざとそういう刺激を与えようとしているのか、執拗に指をすり合わせて薄桃色の乳頭をしごき上げる。
 アリシアは快感に顔をゆがませた。彼女が甘く苦悶する姿をフィースは見つめ、その唇をふさぐ。
「ンン、ぅ……っ」
 舌が割り入ってくるのにはもはや驚かなくなってしまった。むしろ悦んで受け入れる。頭で考えてそうしているのではなく、なるべくしてごく自然に舌を絡め合わせた。
 ぴちゃぴちゃという水音を聞いていると、この行為がひどく淫らなものに思えてくる。
(淫らなことを……してるのよね。もっと、しようとしてる)
 自覚することでいっきに下半身のたぎりが増す。
「ふっ!? ん、んんっ」
 フィースはアリシアの唇をふさいだまま、ひざで彼女の脚の付け根をグリグリとえぐった。乳頭はあいかわらず激しくこねくりまわされている。
 疼いていたそこをひざで刺激され、喘ぎ声があふれてきてしまう。けれど口のなかは彼の舌が占めている。息苦しさが増してくる。
「ふはっ、ぁ」
 フィースの舌が唇から遠のく。アリシアは思いきり息を吸い込んだ。
 深呼吸をしているあいだに彼の顔が胸もとにきていた。レース生地ごしに乳首をツンッと舌でつつかれる。
「ひぁっ!! あ、ぁっ」
 網目状の生地は彼の舌の熱をまばらに伝えてくる。くすぐったさにも似た快感を覚えて身をよじり、そのまま横たわる。するとフィースはアリシアの乳首に舌を這わせたまま尻をつかんで撫でまわした。そこはレース生地で覆われていなかった。やわやわと尻を揉み込まれている。
(少し……じゃ、ないような)
 彼は先ほど少しだけさわらせてと言ったが、ていどがわからなくなった。敏感なところをあますところなくまさぐられている。けれど文句などない。彼の手はどこに触れていても気持ちがよいからだ。
 尻の割れ目に沿って細く走るレースラインにフィースは指を掛けてクンッと引っ張り上げた。
「ん、ぁっ!!」
 必然的に、潤みをたたえた割れ目もレース生地に擦られ、花芯が悦んでピクピクともだえる。
「や、やぁっ……! フィース……ッ。ん、ふぅっ」
 舌で乳首を吸い上げるのに合わせて下半身の豆粒もそうして下着でいたぶられ、規則的な快感は果てへの気持ちをどんどん昂ぶらせていく。
「ふはっ、ぁ、ああ――!」
 下着の内側で尖りきっていたものの、舌では触れられておらず放置されていたほうの乳頭をぎゅうっとつままれた。
 とたんに下半身がビクン、ビクンッと小刻みに揺れた。
 口を閉じていたいのに、それができない。アリシアが絶頂してもなおフィースは舌と指の戯れをやめず、彼女の体を快楽に溺れさせていく。
「フィース……。わた、し……」
「きみがいけないんだよ。他人に言われるままこんな恰好をして、見せつけてきて。少しだけのつもりだったのに……やめられない」
 フィースは険しい表情で苦しそうに言った。心なしか息が荒い。
(少しじゃなくても、いいのに)
 そう思っていても、口には出せなかった。あと少しの勇気と、それから羞恥心が消え失せてくれればできたのかもしれないが、このときはそれを持ち合わせていなかった。
 指をくわえて、彼の手が下肢の付け根に伸びるのを見守る。
「ふ、くぅ……っ。ん、ぁ……ッ」
 秘部を覆う蜜濡れの細長い生地の端をフィースは持ち上げて指を滑り込ませた。あふれた蜜が彼の指を湿らせる。くちゅり、くちゅりとなかの愛液をかき出すように、浅いところを指で擦られている。
「んぅっ、う、ふぁ……っ! ぁ、あ……」
 ぞくぞくと表皮が粟立ち、身震いしてしまう。四肢の先端でなにかをつかんでいなくてはいたたまれないような状態だ。アリシアは指先でぎゅっとシーツを握りしめ、足の指を丸めて力を込めた。
 彼の指がより深いところへ沈んでいく。
「ぁ、あうっ、う!」
 体に力が入っていても指は難なく奥へ進んだ。隘路がしとどに濡れているおかげだ。
「……力を抜いて、アリシア」
 幼いころからよく知っている鮮やかな翡翠色の双眸に、扇情的な熱を帯びてジィッと見つめられてはよけいに身が強張ってしまい、脱力するどころではない。
 アリシアは小さく首を横に振る。
「こわい?」
 訊かれ、今度はぶんぶんと大きく首を左右に振った。
「きもち、よくて……。フィースが、好きすぎて……。ふっ……ぅ、く」
 ああ、なにを伝えたいのか自分でもよくわからなくなってきた。彼の指が体内をうごめくのが気持ちがよくて、同時に愛しさがあふれてきて、どうしようもないのだ。
「きみは嬉しい言葉ばかりくれる。……俺は、なにも返せていない――」
 フィースが苦笑した。
 そんなことはないと言おうとしていると、
「ひぁっ! んっ、ンンッ、ぁあ……っ!!」
 身の内で武骨な指が暴れ始めた。最奥を穿ち、狭道を大胆に往復する。ぐちゅぐちゅという音がもれなく官能をかき立て、さらなる蜜をあふれさせて水音をいっそう大きく奏でさせる。

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