いたずらな花蜜 ~妖精がつなぐ未発達な恋心~ 《 第六章 04

「ひぁっ、ぁ、ん……! ふっ、ぁぁ、あ」
 激しい指遣いでナカをかき乱されているせいで全身が揺れる。漏れ出る声まで震えている。
「……ッ、アリシア……。きみはどうしてそんなになんでも可愛らしいんだ。もっと……もっと声を聞かせて。きみの甘い声は本当にたまらない」
 フィースは指を突き動かしながらアリシアの口もとに顔を寄せた。
「んんっ……!」
 聞かせて、と言われると反対に口をつぐんでしまうのは自分があまのじゃくだからなのか、とにかく恥ずかしくて、できるかぎり声を抑えた。
「……アリシア」
 フィースが不満そうな視線をよこしてくる。
「きみはたまに素直じゃない。どうしたら、もっと聞かせてくれる?」
「ゃっ……!! ぁ、くすぐった、い」
 耳のうしろ、首すじ、鎖骨――と、レース生地に覆われていないところをフィースは舌でたどっていく。脇のあたりに舌を這わせられたときには、あまりのくすぐったさで思わず口を手でふさいでしまった。
「そうまでして声を出したくないんだ?」
 口もとを押さえるアリシアを見たフィースはますます不満そうにつぶやいた。
「ち、違う……。んゃっ……!」
 膣壁をまさぐる指がグンッと大きく動いた。それまでとは異なるところをグリグリと刺激されている。
「あぁっ、ん……! だ、め……そこ……っ、うう!」
 唇をへの字に曲げたままフィースはべつの指で秘玉をつまんだ。クニクニと左右に躍らせたあとで引っ張り上げたり押しつぶしたりとせわしなくいたぶられ、ナカを蹂躙する指とあいまって快感がいっきに頂点まで昇りつめる。
「あぁぁっ、あ――……!!」
 アリシアが高らかに絶叫すると、フィースはようやく満足したようすで彼女から指を引き抜いた。
 息を荒げ、彼を見つめる。頭のなかは霞みがかったようにぼんやりとしている。それでも、明確に思ったことがひとつだけある。
 愛撫をほどこされるばかりではなく、もっと深くつながりたい。そう願った。
 胸の下にあったリボンをフィースがほどく。すると下着はゆるみ、アリシアの秘所をいっそう無防備にさせた。
「……うしろを向いて」
 両肩をつかまれ、うながされる。彼に背を向ける恰好になった。うしろからまわり込んできたのは、たくましい腕。フィースはいつの間にか上着を脱いでいた。
「ん……っ?」
 硬いそれが、両脚のあいだに背後から割り入ってきた。ゆるくなっているレースの下着を押しのけて、じかに秘部に触れている。
「俺の、を……挟んで。アリシア」
「う、ん……」
 脚を閉じると、硬直がゆっくりと前後に動き出した。
「は、ぁぅ……。んっ、く、ぅぅ」
 肉竿は愛蜜に濡れてぬめり気を帯び、ぬるぬると律動してアリシアの花芽をこする。
 先ほどの指とは違って、体のなかにまでやってくる気配はない。
「ふくっ、ぅ……」
 どういうつもりで彼がそうしているのか、なんとなくはわかっている。彼なりのけじめなのだと思う。
 より深くつながる行為が究極的には子を成すものだと――これまで具体的なことは知らなかったが――ブロッサム国でのあの夜、身をもって知った。
 過ぎた一夜の痛みと衝動と快感、そして幸福感を、アリシアはずっと忘れられずにいた。
 彼の両手が、ゆるんだ下着の隙間から乳房をじかにつかむ。そのままいただきを指で押し上げられた。
「ふぁっ、ぁ……ッ」
 体を愛でられるのは気持ちがよい。けれど、それ以上のつながりを求めずにはいられない。
「フィース……。私、わた、し……。んっ!」
 何度もそれを伝えようと試みたものの、巧みな愛撫に終始翻弄され続けていたのと、抜けきらない羞恥心のせいで、かなわなかった。


 外は快晴。絶好の散歩日和なのだが、アリシアは私室にこもっていた。正確に言うと『近年の世界情勢について』というコラムをルアンドの監視つきで読まされているところだった。
 こういう晴れの日にはたびたび公務を投げ出してきたアリシアだ。監視されるのは無理もない。
「――読み終わったわ。そろそろ休憩をとりたいのだけれど」
 面白味のないコラムをこれでもかと時間をかけてじっくりと読み込んだせいでのどが渇いてしまった。かといって短時間で読み終わろうものなら「しっかり読め」と文句を言われてしまうので致し方ないところだ。
「……そうですね。ああ、そういえば」
 ルアンドは妙にわざとらしく懐から書簡を取り出した。
「姫様に婚約の申し入れがきております」
 アリシアは目を見ひらく。しばらくその状態で止まっていたので、のどだけでなく目も乾いてきてしまった。
「……っき、気の早いひとね。私、まだ18なのに」
 終始、声が上ずってしまったのだが、ルアンドはいぶかしんだりしなかった。
「そうですか? むしろ遅いくらいですよ。まあ、姫様を溺愛する国王に遠慮してだれもそういう話を持ちかけてこなかっただけですがね」
「……それで、どなたから?」
 壁際に立っているルアンドをじいっと見つめる。心臓は早鐘だ。
 アリシアは祈る。彼からであってほしい、と。淡く――いや、明確に期待した。
 ルアンドの口がひらくのを、いまかいまかと待ち構える。
「……フィース・アッカーソン・ローゼンラウス侯爵からです」
 なにかが頭のなかで鳴り響いた。ああ、きっと教会の鐘だ。愛するふたりを祝福する鐘の音の空耳だ。口もとがほころぶのを抑えられない。
 アリシアは満面の笑みを浮かべて椅子から立ち上がった。
「――姫様! どちらへ行かれるのですか!」
 部屋を飛び出すと、うしろからルアンドに呼び止められた。
「ローゼンラウス侯爵のところに決まってるじゃない!」
「お待ちください、姫様っ」
「いまから休憩なんだから、文句はないでしょうっ!?」

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