いたずらな花蜜 ~妖精がつなぐ未発達な恋心~ 《 第六章 08

 ちゃんと脱いでから、と言うほうが正しいのだが、それを正直に進言するのは気恥ずかしい。しかしなんにせよ、フィースはまるで聞いていない。
「ルーシーがデザインしたわりにはいいドレスだと思う。まあ、きっときみがなにを着ても似合うからだと思うけど」
「ゃ、うっ……!」
「下着をつけたままでもココに触れられるようになってるのも、いい」
 ――そうなのだ。じつは下着も、フィースの従姉であるルーシーがドレスと一緒にトータルコーディネートしているのだが――下半身のもっとも大切な部分が、あろうことか開け広げなのだ。
(うう……っ、恥ずかしい)
 ルーシーには何度も抗議した。しかしこういうデザインのドロワーズは古典的で伝統に則っており、かつ理にかなっているだのなんだのと理由をつけて押し切られてしまい、いまに至る。
「ふ、ぁ……っ!!」
 ぽっかりと開いて丸見えになっているアリシアの花弁をフィースは指でそっと撫でたどった。両脚は言わずもがな左右に大きくひらかされている。
「ん、んん……ッ」
 陰唇に円を描いている指はおそろしく緩慢で、いっそひと思いにかき乱してくれればいいのに、と願ってしまう。
「俺はなにもしてないのにこんな状態になってるなんて……。ちょっと悔しい気持ちも、なくはない」
 不満そうな声音でフィースがつぶやいた。対してアリシアはとっさに、
「そんなことな――……あ、いえ」
 口付けだけでもそこが濡れていたのだとは恥ずかしくて言えない。だから言葉を切ったのだが、フィースは聞き流してくれない。
「なに? どういうことかな」
 口調は穏やかだが指先は明らかに意地悪だ。
「ぁ、あっ……!」
 秘めた突起の根もとをこちょこちょとくすぐられている。なんとももどかしい、微弱な快感だ。
「やっ、ぁうっ、んん……っ」
「教えて、アリシア」
「はぅっ、ぁ……!」
 蜜口と花芽のあいだをトン、トンッと小突かれた。それも、触れるか触れないかの微妙な加減で。
 はあはあと息を荒げつつ彼を見おろしてみるが、フィースはあきらめそうにない。根くらべでは絶対に負ける。いつもそうだ。
「うくっ、う」
 いよいよたまらなくなり、観念する。
「あ、あなたの……口付けだけでも、あふれてしまうの……!」
 素直に告げたというのに、フィースは指の動きをピタリと止めてしまった。
「フィース……?」
 おそるおそる名を呼んで、暗に続きをうながす。
「ん……!」
 すると秘所に熱い息を吹きかけられた。ため息のようだった。
「きみが愛しすぎて……おかしくなりそうだ」
「ひゃふっ……!」
 思いがけず妙な声を出してしまった。しとどに濡れているそこに、フィースがいきなり食らいついたからだ。
 ひどく熱を帯びた舌が陰唇をベロベロと荒っぽく舐めまわし、飢えたように性急に蜜を貪る。
 震える肉粒と、愛蜜にあふれた入り口を交互に舌でつつきまわされ、体の内奥がさらに潤んでくる。
「――きみの花蜜はすごく甘い。けど飽きがこないから、いくらでも口にできる」
 不意に真面目な顔で言われ、頭のなかが沸騰してのぼせてしまいそうだった。
「ん、はぅっ……。フィース……ッ!」
 呼びかけたことで舌遣いがいっそう激しくなった。そうして欲しいという意図があって名を呼んだわけではないが、結果的に体は愛撫に悦んでいるので同じことだ。
 フィースは蜜をすすりながら秘玉を指でなぶる。転がすような動きをたまに織り込まれるものだから、そのたびに体の内側から快感が波のように押し寄せてきた。たまらず大きく身をよじるが、どれだけ動いても舌と指が追いかけてくる。
 逃げられはしない。逃げる気なんてないけれど、あまりにも気持ちがよすぎて腰が引けてしまうのだ。
「やっ、ぁふっ……! ……あ、んんっ!!」
 舌先が蜜の肉道にグニュッと深く入り込んだ。かたくなに狭いその道を舌が四方にグイグイと力強く押し広げる。その快感といったら、もはやどう表現すればよいのかわからない。
 彼の舌がそれほど奥にまで入っているのがいたたまれなくもあるし、なにより恥ずかしい。くわえて、先ほどからひっきりなしに淫核を指でいたぶられているので、快楽が極まるのは舌を挿れられてからすぐのことだった。
「――……!!」
 口もとを両手で押さえて身を震わせる。そうしてアリシアが声を制限したところで、彼女が絶頂したことにフィースはすぐに気がつく。
「……次はきみの両手をつかんでおかないといけないな」
 隘路から舌を引き抜き、フィースが言った。彼の言う「次」とは――。それを深く考える前に、
「暑いだろ、アリシア。ドレスを脱いで」
 指示され、素直にしたがう。
「ん……」
 とはいえ、ひとりではウェディングドレスを脱ぐことができないので、結局は脱がされることになる。
 アリシアはゴロンと体を回転させてうつ伏せになった。フィースに、そうするように手でうながされたからだ。
 背の編み上げ紐がスルスルとたやすくほどかれていく。急いているとも思える手つきだった。
 ドレスをすべて剥ぎ取られるまではあっという間だった。汗ばんでいたせいで、なにも身にまとっていないいまは体がやや冷える。
 フィースは翡翠色の瞳をせわしなく動かし、アリシアの裸体をあますところなく見まわした。
 何度も晒しているとはいえ、こうもまじまじと観察されてはたまらない。
「フィースも、脱いで……。私ばっかりじゃ……イヤ」
 ベッドに座った状態で胸もとを彼の目から隠しながら言った。すると、
「じゃあ、脱がせて。アリシアが」
 薄くほほえみ、フィースはアリシアの両手を引っ張る。
「うん……」
 剣と唐草の地模様が入ったタキシードのボタンに手をかけ、プチプチと外していく。続いて、彼の髪と同じ色のタイをほどこうと首もとに手を伸ばしたときだった。
「……っ、ひゃ!? フィ、フィース? や、やめて。うまく……脱がせられない」
 むき出しになっていた乳房を下から持ち上げるようにしてわしづかみにされた。
 フィースは「いやだ」とつぶやき、ふたつのふくらみをゆっくりと揉み込んで堪能する。
「触れていたいんだ、きみに。四六時中だってこうしていたいくらいなのに」

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