視線をさまよわせながらカトリオーナは話を続ける。
「で、でも……男のひとの……ソレ、を見たのは初めてで……。だから、ええと」
アーウェルの視線を感じる。目を見て話をしなければ失礼だ。カトリオーナは彼の碧い瞳を見据える。こっそりと深呼吸をして息を整えた。
「殿下にお会いしたかったです。あの日からずっと」
アーウェルの唇がピクンと動く。
「俺も――」
彼の言葉は最後まで聞けなかった。
閃光が音もなくふたりを照らす。直後、どこからともなくドォンッと轟音が響いた。
「ふゎっ!?」
カトリオーナは大きな音に驚きあわてふためく。よろけた彼女をアーウェルは力強く抱き寄せた。
「……っ!」
美貌の王子様の向こう側に打ち上がる花火はもはや脇役でしかない。カトリオーナの視界のほとんどはアーウェルが占めている。
花火はさながらアーウェルの後光だった。彼の手がカトリオーナの頬に添う。少し冷たい。
「あまり顔色がよくないね。長旅で疲れた?」
花火は依然として連続して打ち上がり闇夜を明るくする。相変わらずお腹の底に響く轟音が続いているけれど、先ほどよりも近くにアーウェルの顔があるので会話は成り立つ。
「い、いえ……。その、殿下にお会い出来るのが楽しみで、あまり眠れなくて……」
「それは、嬉しいかぎりだ。ゆっくりと寝かせてあげたいところだが――」
アーウェルが目を細める。哀愁に満ちた表情になってしまった理由は、考えてもわからない。
「そうだな……ひとまず横になるといい。……おいで」
手を引かれ、部屋の中へ戻る。握られているところがやけに熱い。
「あ、あの……でも」
王子様のベッドで横になるなど畏れ多いことこの上ない。てっきり自分だけがベッドに寝かされるものだと思っていたのだが――。
「……っひゃ!」
勢いよくベッドに背を張り付ける。みずからそうしたのではない。アーウェルに押し倒されたのだ。
花火はいまもなお打ち上げられている。テラスから差し込む閃光が、パッ、パッと不規則にアーウェルの顔を照らし出す。彼はごく真面目な顔つきだった。からかったり、冗談半分でカトリオーナを組み敷いているのではないのだとわかる。
このままでは唇が触れ合ってしまう。
そう考えた刹那、唇にもたらされたのは温かく柔らかな感触だった。
驚きで目を閉じることすらしていなかった。もとより唇同士のキスは初めてなので、目を閉じなければいけないのだということがはなから頭にない。
しかし、必然的に目を閉じることになった。
口づけはしだいに激しさを増していき、目を開けていられなくなる。
(ど、どうしてこんなこと! ……でも)
彼の舌が口の中に入り込んできても、少しも不快ではなかった。なぶられ、吸い上げられてぴちゃぴちゃと水音が立つ。なんだか恥ずかしいけれど、やめて欲しくないと思ってしまう。
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「で、でも……男のひとの……ソレ、を見たのは初めてで……。だから、ええと」
アーウェルの視線を感じる。目を見て話をしなければ失礼だ。カトリオーナは彼の碧い瞳を見据える。こっそりと深呼吸をして息を整えた。
「殿下にお会いしたかったです。あの日からずっと」
アーウェルの唇がピクンと動く。
「俺も――」
彼の言葉は最後まで聞けなかった。
閃光が音もなくふたりを照らす。直後、どこからともなくドォンッと轟音が響いた。
「ふゎっ!?」
カトリオーナは大きな音に驚きあわてふためく。よろけた彼女をアーウェルは力強く抱き寄せた。
「……っ!」
美貌の王子様の向こう側に打ち上がる花火はもはや脇役でしかない。カトリオーナの視界のほとんどはアーウェルが占めている。
花火はさながらアーウェルの後光だった。彼の手がカトリオーナの頬に添う。少し冷たい。
「あまり顔色がよくないね。長旅で疲れた?」
花火は依然として連続して打ち上がり闇夜を明るくする。相変わらずお腹の底に響く轟音が続いているけれど、先ほどよりも近くにアーウェルの顔があるので会話は成り立つ。
「い、いえ……。その、殿下にお会い出来るのが楽しみで、あまり眠れなくて……」
「それは、嬉しいかぎりだ。ゆっくりと寝かせてあげたいところだが――」
アーウェルが目を細める。哀愁に満ちた表情になってしまった理由は、考えてもわからない。
「そうだな……ひとまず横になるといい。……おいで」
手を引かれ、部屋の中へ戻る。握られているところがやけに熱い。
「あ、あの……でも」
王子様のベッドで横になるなど畏れ多いことこの上ない。てっきり自分だけがベッドに寝かされるものだと思っていたのだが――。
「……っひゃ!」
勢いよくベッドに背を張り付ける。みずからそうしたのではない。アーウェルに押し倒されたのだ。
花火はいまもなお打ち上げられている。テラスから差し込む閃光が、パッ、パッと不規則にアーウェルの顔を照らし出す。彼はごく真面目な顔つきだった。からかったり、冗談半分でカトリオーナを組み敷いているのではないのだとわかる。
このままでは唇が触れ合ってしまう。
そう考えた刹那、唇にもたらされたのは温かく柔らかな感触だった。
驚きで目を閉じることすらしていなかった。もとより唇同士のキスは初めてなので、目を閉じなければいけないのだということがはなから頭にない。
しかし、必然的に目を閉じることになった。
口づけはしだいに激しさを増していき、目を開けていられなくなる。
(ど、どうしてこんなこと! ……でも)
彼の舌が口の中に入り込んできても、少しも不快ではなかった。なぶられ、吸い上げられてぴちゃぴちゃと水音が立つ。なんだか恥ずかしいけれど、やめて欲しくないと思ってしまう。