ロストヴァージンまでの十日間 《 第十話 身体の手入れ

「ここ、私の家じゃありません」

「そうだな、俺の家だ」

山道をくだって街なかに戻り、ふたたび車から降りるようにうながされた場所は初見のマンションだった。引きずるように歩かされ、彼の自宅に連れ込まれてしまった。

「私、帰ります。明日は仕事だし」

「明日の朝、帰ればいいだろ。今夜はたっぷり可愛がってやる」

「な……っ、処女は保証するって言ったじゃないですか」

「ああ、だから可愛がるだけだ。アンタの全身を隅々まで」

伸びてきた両腕をかわして千夏は玄関扉のドアノブを握った。けれど鍵が何個もかけてあって、扉はすぐには開かない。

「そんなに怯えなくても、悪いようにはしない。さて、まずは風呂だな」

「ぎゃっ、やだ、おろして……っ!」

子どもを担ぐように肩に抱え上げられ、千夏はジタバタと四肢を動かして抵抗した。

「暴れるな、落とすぞ」

「ひっ……」

思わずそう叫んでしまうほど彼の声音と表情は恐ろしく、ついしたがってしまった。そのまま大人しくしていると、トンッと脱衣所におろされた。

「そういや、まだ風呂掃除をしてなかった。ここで待ってろ」

薄手のジャケットを脱いだ初見はシャツとズボンのすそをまくって浴室へ入って行ってしまった。急に所帯染みた行動をしている彼に驚いてしばし呆然としていた。

(あ、いまなら逃げられる)

忍び足で出て行こうしていると、

「逃げようとしても無駄だぞ。内鍵は俺が持ってるからな」

にわかに凄みのある声だけが響いてきて、千夏はギクリと足を止めた。

逃げ道がないとわかって、千夏はあきらめて脱衣所に留まった。

(このあいだも思ったけど、初見さんってマメね。どこも手入れが行き届いてる)

浴室に響くシャワーの音を聞きながら千夏は辺りを見まわした。鏡も洗面台も水あかひとつ付いていない。

(もしかして、潔癖? まあ私もひとのことは言えないけど)

そんなことを考えているうちに初見が浴室から出てきた。

「準備できたぞ。服を脱げ」

そう言いながら自身の衣服を脱ぎ始めてしまったから、千夏はあわてて彼に背を向けた。

「なにを言ってるんですか。ひとりで入ればいいでしょ」

「何だ、脱がされるほうが好きなのか」

「ひゃっ!」

ワンピースの背のジッパーをグイッと勢いよくおろされて、千夏はあわてて胸もとをぎゅうっと押さえた。

「やめ、て……っぅく」

慣れた手つきでどんどん服と下着を取り去られていき、あっという間に丸裸にされてしまった。

「ふうん……。まあまあいい身体だな」

うしろを向いているから彼がどこを見ているのかわからなかったが、男性に裸を見られるのなんて初めてだったから、恥ずかしくてどこかに隠れてしまいたかった。
けれどもう、こうなってしまった以上はどうしようもない。千夏は彼に押されるまま、湯気が充満する浴室に入った。

「髪、洗ってやる。目をつぶれ」

てっきりあらぬ箇所を触られるものだと思っていた千夏は拍子抜けして、言われるままに目を閉じた。言葉の通り彼は千夏の髪の毛を泡立てて揉み込み始めた。

「初見さんって、意外と世話好きなんですね。このあいだも髪の毛を乾かしてくれたし」

「世話好きっつうか、手入れしたり磨くのが好きなだけだ」

「ああ、だから家中ピカピカなんですね」

「ずいぶんと余裕だな。アンタの身体も磨いてピカピカにしてやるから覚悟しろ」

「な……っんぶ!」

突然、ザアッと頭からシャワーでお湯をかけられたので千夏はさらにきつく目を閉じた。湯を払おうと目をこする。

「っふ!?」

グニャリと双乳をわしづかみにされて思わず目を見ひらいた。

「やっ、だ……っ、放してっ」

「胸を揉まれるのは初めてか? 先端は初々しい色をしてるな」

肩には初見の顔が重くのしかかっている。息を吹き込むように耳もとで声を出されると、意図せず身体がビクンと跳ねた。

(どうして……手に力が入らない)

われながら情けない。拒みたいのに、ふくらみの先端を摘ままれると思わぬ喘ぎ声しか出てこないのだ。

「あ……っぅ、んく」

「感度はいいようだ。もっと強くしたらどうなるかな」

「っひ、ああ……っ!」

両方の尖った先端を思い切り上方へ引っ張られ、千夏は大きく喘いで身をよじった。股間の奥の方がジンッと熱くなってきて、けれどそれを認めたくなくて千夏はかがんで両胸を押さえた。

「おい、なにしてんだ」

彼の両腕を巻き込む格好で椅子に座ったまま前屈し、胸と太ももを密着させていると、初見は横から千夏の顔をのぞき込んできた。

「も、やめて下さい……っ! くすぐったいんですっ」

「気持ちいいの間違いだろ」

「ちが、うぅ……っん」

「強情な女だな。素直に洗われてろ」

「は、ふ……ッ!?」

ニュルリと耳のなかの雫を舐め取るように舌で触れられ、それに驚いて少しだけ身を起こすとグイッとうしろに引っ張られて、今度は身動きが取れなくなるほど強く腕を巻き付けられてしまった。

「や、だ……苦し……っ、はなし、て」

「アンタが大人しくしてないからいけないんだ」

片手でボディソープのポンプを押して器用に泡立て、初見はそれを千夏の胸にたっぷりと塗り付けた。

「ぁ……っ!」

柔らかい泡が乳房を覆う。それだけでふくらみの先端がピクンと動いてしまったような気がして、いたたまれなくなった。

「これくらいで感じてるのか。アンタの身体、ひどく熱いぞ」

千夏は言葉もなく首を横に何度も振った。口をひらいたらきっと嬌声が出てしまうから、かたくなに歯を食いしばって唇を一文字に結んでいた。
そうしているうちに呼吸することすら止めてしまっていたのか、しだいに頭がぼうっとしてきた。

「おい……おい、大丈夫か? ――なつ」

白く霞んでいく視界。のぞき込んできた顔に、名前を呼ばれたような気がしたけれど、それきりなにもわからなくなって、千夏は重いまぶたに抗えず目を閉じた。

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