ロストヴァージンまでの十日間 《 第十二話 埋まる外堀(2)

くわえろと言われても、いったいなにをどうすればよいのかわからない。
ソファに座ったままおそるおそる振り返ると、屹立した肉塊が目に入ってしまい千夏はすぐにまた背を向けた。

「おい、早くしろ」

「嫌です。それに、どうすればいいのかまったくわかりません」

「自分だけ気持ちよくなるなんてズルいぞ。教えてやるから、こっちを向け」

うしろめたさのようなものが少なからずあって、千夏はしぶしぶ彼にしたがった。
創作物でない本物の男性器を見るのは初めてで、生々しいそれに興味がまったくなかったかと言われると、そうでもないのが実情だ。
ソファからおりてカーペットのうえに座り込み、ソファに腰かけたままの彼を見上げた。こうして見ると初見は本当に整った顔立ちをしていて、大きくそそり立つ肉茎にはむしろ違和感を覚えた。

「まずはココ、先っぽのほうを舐めてみろ」

返事はしたくないので、無言のままそっとペニスをつかむ。チロリと先端を舐めると、何だかへんな味がしてむせそうになった。

「ペロペロキャンディを舐める要領でやれ」

(ペロペロキャンディ……!? そんなの、いつぶりだっけ)

幼い記憶をたどりながら、千夏は棒付きの飴玉を舐めるように舌を動かした。

(あのキャンディって、たしか口にまるごと含んで舐めてたような……)

「……っく」

気が付くと、ハムッと肉棒をくわえ込んでしまっていて、あわてて身を引こうとしていると、

「いい、そのままくわえて吸え。舌を動かすのを忘れるなよ」

後頭部を片手で固定され、あとには引けなくなってしまった。

「ん……っ、ふ」

「手も使え。こんなふうにするんだ」

初見の大きな手に覆われて肉棒をつかまされる。彼の手の動きに合わせて硬くて大きなそれを上下させながら、必死にしゃぶり付いた。

(私、なにしてるんだろ)

そう思い始めた次の瞬間、口内が液体で一杯になり、握り込んでいた雄棒が大きく鼓動していた。

(射精、した?)

精液を口に含んだまま陰茎を外に出す。そのまま口のなかのものも出してしまいたかったのに、

「のみ込め」

有無を言わさず鼻と口を片手で塞がれ、千夏はそうせざるを得なかった。
初めて喉を通ったそれはとてもまずく感じて、コホコホと咳き込んだ。

「……寝るか」

なに食わぬ顔で初見は服を着て立ち上がり、部屋を出て行こうとしている。

(むなしい。好きでもない男のをくわえて、のみ込んで……。私、本当になにをしてるんだろ。もう、帰ろう)

何だかとても疲れた。早く帰って家で寝たい。脱衣所に置いてあるであろう自身の衣服を取りにリビングを出る。

「どこへ行く」

「ぅぐっ!」

ワイシャツの襟もとをつかまれ、千夏は息苦しくなってうめいた。

「服を着て帰ります。初見さんはもうおやすみになるんでしょ」

「アンタも一緒にオヤスミになるんだよ」

「うっ、苦し……っ、放して……っ!」

首根っこをつかまれたまま寝室へと引きずり込まれ、瞬く間にベッドへ押し倒されてしまった。

薄暗いものの、寝室のカーテンは開いているから、千夏に覆いかぶさる初見の顔は眺めることができる。

(なにを考えているんだろう)

化けの皮が剥がれて以前ほど笑わなくなった初見はたいていが無表情だ。楽しんでいるとも怒っているともわからない表情は見ていて不安になる。

「どいてください、初見さん。帰るって言ってるでしょ」

「うるさい。俺は抱き枕がないと眠れないんだよ」

「それなら、そのへんにいっぱい転がってるじゃないですか……っ、や!」

太ももには彼の身体が重くのしかかっている。はずされていくシャツのボタンをふたたび留めようとしていたら、制するように唇に噛みつかれた。

「んん……っ、ぅ」

唇を合わせたまま背を抱かれ、肩からズルリとワイシャツを落とされる。ちゅっと音を立てて彼の顔が遠のいたと思ったら、首筋を這ってどんどん下降していく生温かい舌にあせりを覚えた。

「や……っふ、あ……んんっ」

舌を避けようと何とか身をよじって横向きになると、追随して初見も身体を横たえた。ふくらみのところまで身を屈めていた彼はその場に留まり、荒っぽく乳房をつかんだ。

「っぅ……!」

先端を刺激されるものだと思って身がまえる。けれど予想したことは起こらなかった。いや、決して期待したわけではない。
初見はふくらみの中央に顔をうずめて、すうすうと寝息を立てていた。

前 へ    目 次    次 へ

前 へ    目 次    次 へ