ロストヴァージンまでの十日間 《 第二十三話 ロストヴァージン(2)

「も、だめ……あ、あ……へん、わた、し……へんに、なっちゃ……ッア、んぅぅ!」

「もっと大きいのが欲しいか? 言ってみろ、千夏。上手に言えなかったら、やらないぞ」

下半身は有り得ないほど大きな水音を発している。強くつかまれた乳房は痛いくらいのはずなのに、気持ちよさ以外の神経は切れてしまったんじゃないかとさえ思った。

「初見、さ……ん! ン……っく、だ……さ、い」

「おかしいな、俺が知ってる千夏はもっとハッキリ物事を言う女なのに」

受け入れることの痛みはすでに恐怖ではなくなっていた。それよりも、身のうちの空洞に彼のものをおさめたいという欲求は最高潮に達している。

「挿れ、て……っ、初見さんの……大きいの、私のナカに……っ。早く、はやく……ぅ、あああっ!」

言い終わる前に、とてつもない異物感が下肢を襲った。容赦なく突き進んでくる雄棒はいっきに深いところまで刺さって、あまりの激痛に顔が歪む。
熱があるせいか頭のなかはひどく混乱していて、痛みと快感がせめぎ合ってわけがわからない。

「千夏……悪い。今日は本当に、加減できそうにない」

彼の声はかろうじて聞き取れるほどの音量だった。黙ってうなずくと、なかにおさまったばかりの楔が大きく前後して身体を揺さぶり始めた。

「ああっ、う……っふ、は、んん……ッ」

痛みは徐々に引いていった。快感が勝ったのはそれからすぐのことだった。痛みがなくなると、緩急をつけて媚肉を往復する肉棒の存在がよくわかった。

(初見さんのが、なかに……入ってる)

それだけで涙があふれた。これきりでもいい。彼が別の誰かと結婚しても、処女を捧げることができた、それだけで。

「……まだ、痛むのか? それとも本当に具合が」

「ちが、う……嬉しくて……。いま、初見さんと……つながってる」

初見は少しだけ目を見ひらき、そうかと思うと優しげに細めた。上体はゆっくりと近づいてきて、互いの身体がピタリと密着する。

「俺も、嬉しい。ずいぶん前から、こうなることを望んでた」

「え……っあ、アアッ――……!」

何度も最奥を穿たれる。全身が汗ばんでいて、それは彼も同じで、なにもかもが混ざり合って激しく熱い。

「ああっ、あ……っ、も、う……っふ、ぁぁッ……!」

愛しい気持ちがあふれ出る。でもこれは今日限り。明日には、いや、それほどの猶予すらないかもしれない。このつながりが解けたら、その後は――……。
千夏は しがみつくように彼の背に腕をまわした。触れた素肌は熱く硬い。
抽送はいっそう激しくなって、終焉を憂う悲鳴のような嬌声と共にふたりは果てた。

***

枕もとに置いていた携帯電話のバイブ音で千夏は目を覚ました。振動する電話をノロノロと手に取り、届いたばかりのメールを開く。

『体調は大丈夫か? きみが目を覚ますまで一緒にいたかったんだが、急ぎの仕事が入ったからいまは社にいる。終わりしだい、また会いに行く』

どうして、また会いにきてくれるんだろう。ああ、そうか。肝心の別れ話をしていないからだ。
千夏は裸のまま布団から出て、浴室へ向かった。一眠りしたおかげなのか、熱っぽさはない。下肢が重くだるいのは、別の理由だろう。

(今度は、毅然としていよう。いつもの私らしく)

シャワーの湯は少しつめたくて、頭を冷やすにはちょうどいい。見苦しくすがったりしないように、別れぎわくらいは冷静でいなくては。
身体をさっぱりとさせたあと、遅めの昼ご飯を食べて千夏はふたたびベッドに潜り込んだ。けれどまったく眠ることができなくて、ふたたび初見が訪れるまでずっと起きていた。

「無理するな。まだ寝ていろ」

パジャマから部屋着に着替えて彼を出迎えると、初見が気遣わしげに言った。
ジャケットとネクタイは車にでも置いてきたのか、少しひらいたワイシャツの胸もとから彼の素肌が垣間見えて、今朝の出来事を思い出してしまい千夏は視線を逸らした。

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