伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 《 第一章 07

「朝ですよ」
「………」

 寝ぼけているのか、ジェラルドのまぶたは相変わらず半開きだ。これはもう一度激しく揺さぶりをかけたほうがよさそうだ。
 エリスが右手を伸ばすと、ガシリとその手をつかまれた。それから視界と体勢がめまぐるしく変化した。いったいなにが起こっているのやら、とにかくいま言えるのはジェラルドの無駄に麗しい顔が目の前にあるということだ。
 ジェラルドはエリスをベッドに引き込み、彼女の上にまたがっていた。

「ご、ご主人様!」

 彼は裸だった。上半身だけではない。まじまじと見るわけにはいかないが、おそらく全裸だ。
 心臓が妙な鼓動を始める。こんなふうに高鳴るのはいまだかつて経験したことがない。

「……っ」

 ジェラルドの吐息が鼻をかすめる。このまま彼との距離が縮まったら唇が触れてしまう――。
 エリスはとっさに両手でジェラルドの頬をつかんだ。頬を指でつまんでそれぞれ左右に引っ張る。

「起きてください、ご主人様!」

 彼がこんなことをするのは寝ぼけているからに違いない。それならば完全に起こしてしまえばよいのだ。エリスはジェラルドの頬をつねる勢いで指に力を入れた。

「放せ、痛い」

 不機嫌そうに言われてパッと手放すと彼の頬はほんのりと赤みを帯びていた。

「申し訳ございません、痛かったですか?」
「よくもそう清々しく謝罪できるものだな。少しも悪いと思っていないんだろう」
「だってご主人様が寝ぼけていたから」

 ジェラルドは唇を引き結んで身を起こした。そのままベッドから離れていく。

「湯浴みするから手伝え」
「いまからですか?」
「そうだ。きみも服は脱げ。すべてだ」
「はあっ!?」

 エリスは素っ裸の男の背に驚きに満ちた視線を向ける。ジェラルドは浴室と思しき扉を開けようとしている。

「俺の湯浴みを手伝うときのメイドは皆そうだ」
「なっ、そんな……」

 本当にそうなのだろうか。

「で、でも」
「つべこべ言うな。俺は忙しいんだ。先に入っているからすぐに来い」

 ――ガチャッ、パタン。ジェラルドは扉を開けて中へ入っていった。これでは反論の余地がない。

(裸で、なんて……)

 扉の前をうろうろしながら逡巡する。

「おい、早くしろ」
「はいっ……」

 扉の向こうから急かされ、つい肯定を示す返事をしてしまった。

(ああ、もう……っ)

 おぼつかない足取りで扉を開けて中へ入る。透けた引き戸の先にジェラルドはいた。後ろ向きだ。

(ご主人様がずっと後ろを向いていてくれれば裸を見られずに済む)

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