「……そう。なかなか上手いじゃないか」
褒められてもまったく嬉しくなかった。それどころか、押し殺していた憤りが瞬時にふくれ上がった。
エリスは視線だけを上に向けた。好きこのんでこんなことをしているのではないのだと、目で訴えかける。
エリスとジェラルドの目がピタリと合う。
「――っ」
ジェラルドが小さくうめいた。
口の中には初めに感じたのとは比べものにならないほどの苦味が広がった。精液とはこんなにも不味いものなのか。
口から陰茎が抜ける。しかしいまだに口の中は精液でいっぱいだ。
「……飲み込め」
あごをつかまれて押し上げられる。エリスの喉がゴクリと鳴り、それから咳き込んだ。
カーテンの隙間から診察室へ長く差し込むオレンジ色の西日が、ジェラルドの嘲笑をいっそう不敵なものとして彩っていた。
その日、エリスは早々に宿舎の自室のベッドに潜り込んだ。
(テストに合格できなかった。それに、あんなこと……)
そういうことをするためだけの役どころだなんて嫌だ。それを仕事にしている人を蔑視しているわけではない。ただ――必死に医学書を読み漁り、いつか彼の役に立ちたいと願って寝る間を惜しんで秘かに勉学に勤しんでいた結果がこうなのだとうのが辛く悔しかった。
(もう一度テストをしてもらえないか頼んでみよう。ご主人様に頼み事をするなんて何だか癪だけど……)
エリスはバッとベッドから起き上がり、卓上ランプを灯して医学書とノートを広げた。
(へこたれてる暇があったら知識を増やそう)
ペンを手に取り、読みかけだった医学書の文字を追う。
集中し始めたときだった。コンコンというノック音がどこからともなく聞こえた。しかし扉のほうからではなかったので、空耳だろうと思いふたたび医学書に目を向けた。
コンコンコン。今度は明確に、それも三回もノックされた。どうやら窓のほうだ。
(誰かが締め出されちゃったのかしら?)
部屋の鍵を落とした同僚の誰かかもしれないと考えてエリスはすぐに窓のほうへ向かう。カーテンを開けたエリスは目を見張った。
「――なっ」
『開けろ』
彼の息で窓ガラスが白く曇った。ネジ式の鍵をくるくると左方向にまわして窓を開けると、冷たい空気がいっきに部屋の中に流れ込んできた。そしてまたジェラルドも、さも当然のごとく窓から部屋の中へ入ってくる。
「な、何なんですか?」
「ずいぶんな言いようだな。わざわざ持ってきてやったっていうのに」
「持ってきた……って」
彼は片手に紙袋を提げていた。袋の中身はまったくもって想像がつかない。
「なにをですか?」
ジェラルドはエリスの問いには答えず紙袋の中身を取り出した。出てきたのは服だった。
「着てみろ」
「は? あの、なぜ」
折りたたまれた状態ではその紺色の服が何なのかわからなかった。ジェラルドが「ちっ」と舌打ちをする。
「寄越せ」
渡されたばかりの服を奪い取られ、それだけでなく寝間着のボタンを外される。
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褒められてもまったく嬉しくなかった。それどころか、押し殺していた憤りが瞬時にふくれ上がった。
エリスは視線だけを上に向けた。好きこのんでこんなことをしているのではないのだと、目で訴えかける。
エリスとジェラルドの目がピタリと合う。
「――っ」
ジェラルドが小さくうめいた。
口の中には初めに感じたのとは比べものにならないほどの苦味が広がった。精液とはこんなにも不味いものなのか。
口から陰茎が抜ける。しかしいまだに口の中は精液でいっぱいだ。
「……飲み込め」
あごをつかまれて押し上げられる。エリスの喉がゴクリと鳴り、それから咳き込んだ。
カーテンの隙間から診察室へ長く差し込むオレンジ色の西日が、ジェラルドの嘲笑をいっそう不敵なものとして彩っていた。
その日、エリスは早々に宿舎の自室のベッドに潜り込んだ。
(テストに合格できなかった。それに、あんなこと……)
そういうことをするためだけの役どころだなんて嫌だ。それを仕事にしている人を蔑視しているわけではない。ただ――必死に医学書を読み漁り、いつか彼の役に立ちたいと願って寝る間を惜しんで秘かに勉学に勤しんでいた結果がこうなのだとうのが辛く悔しかった。
(もう一度テストをしてもらえないか頼んでみよう。ご主人様に頼み事をするなんて何だか癪だけど……)
エリスはバッとベッドから起き上がり、卓上ランプを灯して医学書とノートを広げた。
(へこたれてる暇があったら知識を増やそう)
ペンを手に取り、読みかけだった医学書の文字を追う。
集中し始めたときだった。コンコンというノック音がどこからともなく聞こえた。しかし扉のほうからではなかったので、空耳だろうと思いふたたび医学書に目を向けた。
コンコンコン。今度は明確に、それも三回もノックされた。どうやら窓のほうだ。
(誰かが締め出されちゃったのかしら?)
部屋の鍵を落とした同僚の誰かかもしれないと考えてエリスはすぐに窓のほうへ向かう。カーテンを開けたエリスは目を見張った。
「――なっ」
『開けろ』
彼の息で窓ガラスが白く曇った。ネジ式の鍵をくるくると左方向にまわして窓を開けると、冷たい空気がいっきに部屋の中に流れ込んできた。そしてまたジェラルドも、さも当然のごとく窓から部屋の中へ入ってくる。
「な、何なんですか?」
「ずいぶんな言いようだな。わざわざ持ってきてやったっていうのに」
「持ってきた……って」
彼は片手に紙袋を提げていた。袋の中身はまったくもって想像がつかない。
「なにをですか?」
ジェラルドはエリスの問いには答えず紙袋の中身を取り出した。出てきたのは服だった。
「着てみろ」
「は? あの、なぜ」
折りたたまれた状態ではその紺色の服が何なのかわからなかった。ジェラルドが「ちっ」と舌打ちをする。
「寄越せ」
渡されたばかりの服を奪い取られ、それだけでなく寝間着のボタンを外される。