「色気のかけらもないな、この寝間着は」
「……っ、はぁ!?」
なぜ文句を言われなければならないのだ。そもそもなぜ寝間着を脱がされようとしているのだろう。
エリスは彼が外したボタンをことごとく上から順に留めていった。ジェラルドはふたたび盛大に舌打ちをし、エリスの体を強引にベッドへ押し倒して馬乗りになった。
「いいから着替えろ」
「だ、だからなぜ……っ、や」
両手を頭上でひとまとめにされてしまい、これではボタンを掛け直すことができない。ジェラルドはむしり取る勢いで寝間着のボタンを一番下まで外した。
「ちょ、ゃっ」
丈の長い寝間着の袖が腕から抜けていく。シュミーズとドロワーズだけという何とも心許ない姿になってしまった。
「………」
ジェラルドの視線が胸もとに注がれているのはきっと気のせいではない。シュミーズごしに内側の突起をカリカリと引っかかれる。
「わっ、わかりました! 着ます、自分でっ」
これ以上、妙なことをされる前に素直に着替えよう。エリスはジェラルドの手を払いのけて起き上がり紺色の服を手に取った。彼には背を向けて服を着る。
「これ……は」
襟と袖口、そしてスカートの裾には真っ白なレースが精緻に施されていた。
ジェラルドはなにも語らずエリスに仕上げをする。服のレースと揃いのナースキャップを彼女の頭にそっと飾った。
「テストは不合格だったのでは」
「……間違えたら仕置きする、としか俺は言っていない。あの一問をきみが解けないことは想定の範囲内だった。だからテストは合格だ」
「そういうことはあの場ですぐ聞きたかったです!」
「言わなかったか? ……明日からはそれを着て仕事に勤しめ」
「……はい」
エリスはあらためて自身の看護服を見つめた。この部屋に姿見は置いていないので、窓ガラスに映る姿を他人事のように眺める。
(看護助手が、できる……!)
これほどまでに心が弾んだことがいままでにあっただろうか。自分に務まるだろうかと不安はあるが、それでもやはり嬉しい。
(あ、そうだ……)
新しい服をあてがわれたのだ。礼を述べねばと思い口を開きかける。ジェラルドはエリスをしげしげと見つめていた。
「馬子にも衣装だな」
礼を、述べようとしていた。しかし彼のその言葉でいっきにその気が失せる。
「みろ、バストは厚めに誂えてやったんだ。きみの板のような乳が目立たないように」
「――っっ」
余計なお世話だ! と言いたいところだが、正直なところ大変ありがたい。しかし素直に礼を言う気にはやはりなれない。こうなると押し黙るしかなかった。
エリスを眺めるのには飽きたらしくジェラルドは部屋の中を見まわしていた。書き物机に彼の目が留まる。
「不合格だと思っていたのにまだ勉学に励んでいたのか」
「……再テストを申し入れようかと考えていました」
「ふうん。きみは意外と努力家だな」
「それはどうも」
意外と、はよけいだと心のなかで文句を言いながらエリスは自身の真新しい看護服を内心ほほえましく見下ろした。
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「……っ、はぁ!?」
なぜ文句を言われなければならないのだ。そもそもなぜ寝間着を脱がされようとしているのだろう。
エリスは彼が外したボタンをことごとく上から順に留めていった。ジェラルドはふたたび盛大に舌打ちをし、エリスの体を強引にベッドへ押し倒して馬乗りになった。
「いいから着替えろ」
「だ、だからなぜ……っ、や」
両手を頭上でひとまとめにされてしまい、これではボタンを掛け直すことができない。ジェラルドはむしり取る勢いで寝間着のボタンを一番下まで外した。
「ちょ、ゃっ」
丈の長い寝間着の袖が腕から抜けていく。シュミーズとドロワーズだけという何とも心許ない姿になってしまった。
「………」
ジェラルドの視線が胸もとに注がれているのはきっと気のせいではない。シュミーズごしに内側の突起をカリカリと引っかかれる。
「わっ、わかりました! 着ます、自分でっ」
これ以上、妙なことをされる前に素直に着替えよう。エリスはジェラルドの手を払いのけて起き上がり紺色の服を手に取った。彼には背を向けて服を着る。
「これ……は」
襟と袖口、そしてスカートの裾には真っ白なレースが精緻に施されていた。
ジェラルドはなにも語らずエリスに仕上げをする。服のレースと揃いのナースキャップを彼女の頭にそっと飾った。
「テストは不合格だったのでは」
「……間違えたら仕置きする、としか俺は言っていない。あの一問をきみが解けないことは想定の範囲内だった。だからテストは合格だ」
「そういうことはあの場ですぐ聞きたかったです!」
「言わなかったか? ……明日からはそれを着て仕事に勤しめ」
「……はい」
エリスはあらためて自身の看護服を見つめた。この部屋に姿見は置いていないので、窓ガラスに映る姿を他人事のように眺める。
(看護助手が、できる……!)
これほどまでに心が弾んだことがいままでにあっただろうか。自分に務まるだろうかと不安はあるが、それでもやはり嬉しい。
(あ、そうだ……)
新しい服をあてがわれたのだ。礼を述べねばと思い口を開きかける。ジェラルドはエリスをしげしげと見つめていた。
「馬子にも衣装だな」
礼を、述べようとしていた。しかし彼のその言葉でいっきにその気が失せる。
「みろ、バストは厚めに誂えてやったんだ。きみの板のような乳が目立たないように」
「――っっ」
余計なお世話だ! と言いたいところだが、正直なところ大変ありがたい。しかし素直に礼を言う気にはやはりなれない。こうなると押し黙るしかなかった。
エリスを眺めるのには飽きたらしくジェラルドは部屋の中を見まわしていた。書き物机に彼の目が留まる。
「不合格だと思っていたのにまだ勉学に励んでいたのか」
「……再テストを申し入れようかと考えていました」
「ふうん。きみは意外と努力家だな」
「それはどうも」
意外と、はよけいだと心のなかで文句を言いながらエリスは自身の真新しい看護服を内心ほほえましく見下ろした。