伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 《 第一章 14

 ジェラルドの診察を手伝い始めると、仕事はそれまでと打って変わってとりわけ忙しくなった。まだ慣れない部分も多いというのも一因だ。
 しかし意外なことに、ジェラルドは医療に関しては懇切丁寧に指導してくれた。

(間違いがあっては困るからだろうけど)

 医者としての彼の評判が名高いのもうなずける。人間性はさておき、医者としては看護助手の指導を含め優秀だというわけだ。

(癪だけど……そこは認めざるを得ない)

 一日の診察を終えてエリスは後片付けをしていた。ジェラルドはいまごろ馬車の中だろう。どこかの貴族が催す夜会に出席するのだと言っていた。
 ふと診察台に目がいく。

(あのあとシーツは取り替えたけど、やっぱりここであんなこと……不謹慎だわ)

 患者が横になるための白い台を見つめる。頬に熱がこもってくる。

(――って、違う! 場所の問題じゃない。あれをすること自体が大問題なんだからっ)

 いくら「仕事だ」と言われても次は絶対に断ろう、と心に決めてエリスは診察室の後片付けを終えた。


 診察室での手伝いを始めて一週間ほどが経った、休診日のことだった。エリスはジェラルドの執務室にいた。執務机の前の椅子に座って書き物をする彼の肩を揉まされているところだ。
 ここのところ四六時中、彼と一緒にいるような気がする。ジェラルドは屋敷にいるあいだはなにかとエリスに用事を言いつけてくるようになった。初めのころと比べるとずいぶんな変わりようだ。

「――肩はもういい。次はコッチ」
「……っ!」

 トラウザーズの上からでも彼のそこが張り詰めているのがわかった。

「ほら、いつものように貧相な胸も晒せ」
「……イヤ、です」
「まったく、きみは成長しないな。いつまでも俺に脱がされたいのか」
「そっ、そういうことじゃありません」
「こっちに来い」

 ジェラルドは椅子に腰掛けたままエリスの腕をつかんで引っ張り、椅子の正面へまわり込ませた。腕をつかんだままメイド服のリボンを解く。今日は休診日なのでメイド服だった。

「や、やめ……っ」

 外されてしまったボタンは片手ではなかなか留め直すことができない。
 いつかの決意は虚しく、結局こういう「仕事」を強いられているのだ。
 ジェラルドは精神を逆撫でするのが恐ろしく上手い。どれだけ「嫌だ」と言っても、彼の口車に乗せられてこういうことをさせられる。

「きみに仕事を振り始めてから時間に余裕がでてきた。こういうことをする余裕が。だからいまこうなっているのはきみのせいだ」
「ん、んッ――」

 控えめな胸を晒し、小さな口いっぱいに陽根を頬張りひざまずくエリスの頭をジェラルドは片手でぎゅうっと力強く押さえつけた。

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