伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 《 第一章 19

「ぁ、は……っぁ、あっ!」

 甘い声が出るのを自制できない。エリスは両手で自身の口を覆った。しかしやはり嬌声は抑えきれず、くぐもったものに変わるだけだった。

「ぅ、う……っ! ん、んんっ」

 嗚咽のような喘ぎ声はジェラルドの情欲をいっそうたぎらせる。彼の舌遣いが激しさを増し、手付かずだった肉壷をまさぐる一助になる。ジェラルドは花芽に舌を這わせたままゆっくりと中指を隘路に沈み込ませた。

「――っっ!!」

 先ほどの比ではなかった。蜜の存在を指し示されたときよりも深く指が侵入していく。ぐぷっ、ぐちゅっという水音が立つのはジェラルドの指がたまに入り口へ戻ろうとするからだ。半歩引いては二歩進む。それを繰り返す。そうして指はじわりじわりと狭道の行き止まりを目指す。

「ぁ、あっ――!」

 おそらく最奥を指が突いた。なにもかもをえぐられている、そんな心地になった。彼の指が体の中に沈んでいる精神的なショックと、異物がそこに確かにあるという肉体的な違和感に襲われる。そしてなによりも、彼の指が不快とは対極にあるという事実に打ちのめされた。

(違う……! そんな、こと)

 頭の中で否定し続けるエリスを嘲笑うがごとくジェラルドは舌と指をうごめかせて彼女を快楽の高みへ誘《いざな》う。

「ん、ンンッ、ぁふっ」

 指の抽送がいっそう小刻みになった。舌も指もいやに素早い。下半身を核に頭のてっぺんにまで昇りつめてくるものの正体は何なのだろう。追い立てられているか、あるいは押さえつけられているような激情が全身にひた走る。
 なにかが来る、と思った刹那、体の中が激しく鼓動した。
 なにがどうなったのかわからず、エリスは息を切らせて疑問符を浮かべる。わけがわからないといった様子の彼女をジェラルドは診察をするときのように冷静に眺め、肉壷の中に沈めていた指を四方に動かして最終確認をする。

「かなりほぐれているからそう痛くはないと思うが……とにかく力を抜け」
「な……に、を」

 彼が身につけている濃紺のナイトガウンは下肢がはだけていた。硬く張り詰めた雄物が垣間見えている。
 性交の仕方は知っている。しかしできるわけがない。それを彼とする理由が少しも見当たらない。なによりも、怖い。

「イヤ……! やめて」

 エリスは仰向けに寝転んだまま両腕をずるずると動かしてジェラルドから逃れようとする。

「だがきみの体は俺のモノが欲しそうだ。ほら……早く寄越せとヨダレを垂らしている」

 ジェラルドはエリスの秘所の浅いところで指を折り曲げ中の蜜をかき出した。

「……ッ!」

 彼の指摘通りだった。蜜は惜しみなく外へこぼれ落ちる。
 羞恥と背徳感、それから自身への失望がないまぜになり、いよいよ涙が出そうになった。そこへ、彼が入り込んでくる。
 エリスの両脚をつかんで押し上げたジェラルドは猛り狂った一物を彼女の蜜口にあてがい、こなれたふうに挿し入れていく。

「や――……っ!!」

 脚に添うジェラルドの手をつかんで引き剥がそうとした。しかしまったく動かない。下半身の圧迫感は秒を刻むごとに凄まじさを増す。
 エリスの顔が悲痛に歪んだ。一線を越えた瞬間だった。
 彼女の目からとめどなく伝い落ちる涙をジェラルドが無言で拭う。
 指で涙を拭かれたのには驚いた。無理やりこんなことをしておいて、いたわるようなことをしないで欲しい。

「……すべて、収まった」

 彼の声が他人事のように響く。
 呆然としていたのはどれくらいの時間なのだろう。
 体内のソレが、動き出す。

「あ、ふっ……!」

 体の痛みは薄れていた。それでも、心は依然としてズキズキと痛む。その痛みの中心へジェラルドは律動しながら唇を寄せ、きつく吸い上げた。今度は胸がチクリと痛んだ。

(これきり、よ……。次はない。次があってはならない。こんなこと――)

 しかしエリスの意に反して、このふしだらな関係はその後二年は続くことになる。

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