伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 《 第三章 07

 尽くし、尽くされる行為。彼の顔の前に秘所をさらし、いっぽうで彼の猛ったそれを舌でなぐさめる、何とも淫猥な行為――。
 いったいなにをしてるんだろうと思ういっぽうで気持ちがいいのはまぎれもない事実だ。そのことに我ながら辟易する。

「んっ!」

 ジェラルドの顔にまたがるエリスの両脚がビクンと震える。彼の指が蜜口の浅いところをヌチャリと水音を伴ってえぐったからだ。これは指示《サイン》。舌だけでなく手指も使って雄物をなぐさめろというサインだ。
 エリスは両肘をベッドの上につき、自由になった両手で猛々しい男根を握り込む。片手は陰嚢に添わせてゆったりとくすぐる。もう片方は上下させる。その間、舌を動かすのも忘れてはいけない。

(いやね、私。義務感を持ってしまうなんて)

 こうしなければならない、などと考えてしまう時点ですっかりジェラルドに屈服している。それもこれも彼が巧みに花芽をいたぶるせいだ。気持ちよくしてもらっているのだからお返しせねばと律儀に思ってしまう。

「ふ……んっ、ん」

 ジェラルドの動向に比例してエリスもまた活発に手と舌を動かす。果てへ向かって二人で高め合う。慣れとは恐ろしいもので、初めは嫌で仕方がなかったこの相互的な行為がいまでは何の抵抗もなく実行でき、そして達するところまできっちりできてしまう。

「―――」

 エリスは口の中に注ぎ込まれた液体をゴクリといっきに飲み込んだ。身を起こしてベッドの上に座り、口もとを手の甲で拭う。ジェラルドはそれを仰向けに寝転んだまま静観していた。

「飲み込んだのか。そんなに好きか? 俺の精液が。ああ、美味いのか」
「なっ!! そんなわけないでしょうっ!?」

 エリスは憤りをあらわにジェラルドをにらみつける。

(吐き出そうとしたら強引に阻んで飲み込ませるくせに、よくも白々しくそんなことが言えるわね!)

 口に出して反論しようかとも思ったが、その気力も体力ももはや残っていない。早く眠りたい。無意識に目もとを指でこすっていた。

「………」

 ジェラルドがエリスの細腕をつかんで引き寄せる。彼女の寝間着はいつの間にか完全に腕から抜けていた。
 抱き枕よろしくジェラルドはエリスをしっかりと抱き込む。亜麻色の髪を頭のてっぺんから髪先のほうへゆっくりと何度も撫でる。
 ただでさえ眠気に襲われていたのに、そんなふうにされてはよけいにまぶたが重くなる。

(ううん、寝ていいのよ……。先生のことなんて、知らない)

 太ももに硬いものが当たっているのは無視することにした。
 まったく、このお医者さまの肉欲の旺盛なこと。一回では満足しないとわかってはいたが、いちいち付き合っていられない――。


 相当疲れていたからか朝まで熟睡していた。目を開けるとそこに翡翠色の瞳があり、一瞬だが戸惑った。エリスはジェラルドの腕枕で眠っていた。

「……おはよう」

 仏頂面で彼が挨拶してくる。

「おはよう、ございます」

 ジェラルドにそう挨拶をするのは、ずいぶんと久しぶりのような気がした。

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