「もうっ、しっかりしてください!」
「んー……」
夜会がお開きになるころにはジェラルドはすっかり酩酊していた。
大きな体を何とか支えて彼を寝室へ促す。ジェラルドの足取りはおぼつかない。
なかば放り投げる勢いでベッドに寝かせる。
(お水を飲ませたほうがいいわね)
エリスは「うーん」とうなっているジェラルドにくるりと背を向けて歩き出す――はずだった。不意に手首をつかまれ、危うく転ぶところだった。
「ちょっ、なにするんですか! 転んじゃうところでした」
憤りをあらわにジェラルドを見下ろす。いっぽう彼は何とも形容しがたい神妙な面持ちをしていた。
「行かないでくれ。俺にはきみが必要なんだ。きみなしでは生きていけない」
潤んだ翡翠色の瞳は揺らめく水底のようだった。エリスはしばし固まってしまった。
「……は? ちょっとお水を取りに行くだけですよ。そんな大げさな――っ、きゃ!」
つかまれたままだった手首を引っ張られ、ベッドに引き込まれる。春の訪れを控えめに告げているような薄桃色のドレスの裾がひらりと大きくひるがえった。
「うっ」といううめき声はエリスがジェラルドの胸に鼻をぶつけたからだ。苦しそうにうめくエリスには気づきもせずジェラルドは彼女を腕の中に閉じ込める。
「きみのすべてが愛しい」
頭の上から降ってきた声にエリスはぴくりと肩を震わせ、いっそう身を硬くした。まな板の上の鯉のごとくうろたえるエリスをジェラルドは自身の胸から離し顔のあたりまでグイッと勢いよく引き上げた。
それしか目に入っていないというような恍惚とした表情を浮かべ、相変わらず潤みを帯びたなまめかしい翡翠色の瞳でエリスを射抜く。
「みずみずしい唇も薔薇色の頬も」
言いながらジェラルドはそこへ口づけていく。
「ヘーゼルナッツのようなうまそうな瞳も」
ためらいもなく目に唇を寄せられ、反射的に目を閉じるとまぶたにキスを落とされた。
「この胸だって」
「ひゃっ!」
いきなり胸をわしづかみにされてあせる。もっとも、いま胸はコルセットに覆われているのであまりつかまれているという感覚はないが。
ジェラルドが「ふう」と悩ましげに息を吐き出す。
「俺の手にすっぽりおさまって……じつに愛らしい。きみのここはとても敏感だから、いつもついイタズラをしてしまう」
ジェラルドはドレスとコルセットに覆われた胸のいただきを指でトン、トンッと叩いた。じかに触れたくてたまらない、と顔に書いてある。
「エリス……愛しい、俺だけの天使」
ヘーゼルナッツ色の瞳が左右に揺れる。体の内側から膨大な熱エネルギーがふくれあがってくる。胸の奥が、そして下半身が沸騰した。
――顔から火がでそうなほど恥ずかしい。いや、いまなら本当に火を噴けるのではないかと思う。エリスは羞恥のあまり唇をふるふると震わせた。
「しっかりしてください! どうしたんですか、いつもの無慈悲なジェラルド様に戻ってくださいっ」
「無慈悲……? ああ、わざと憎まれ口を言っているんだな。本当に可愛いやつだ」