伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 《 終 章 06


(また……ののしられるわ。たったこれだけの愛撫で、って)

 控えめに乳首を舌でつつかれ、尻を撫でまわされている。ただそれだけだというのに、内奥から湧き出した蜜がすぐそこまできているのがわかる。エリスの両腕はがくがくと震えていた。
 ふと愛撫がやんだ。ジェラルドはエリスの体を抱え上げるようにしてベッドへ横たえる。
 エリスは上半身を淫らにさらしたままベッドに片肘をついて体を支えた。それをジェラルドが官能的な憂いを帯びた瞳で見つめる。

「今日のきみは一段と美しい……。もちろん、普段着でも可憐なのには違いないが」
「や、っ……お世辞はやめてください! むずがゆくなる」
「世辞などではない。本心だ」

 ジェラルドは目を細めて身をかがめ、むき出しのままだった薄桃色の乳嘴をべろりと愛おしそうに舌のすみずみまで使って舐めしゃぶった。「美味い」とつぶやきながらふたたびドレスの裾をまくり上げ、食指を臀部へと動かし、張りのある尻を執拗に撫でまわす。

「……っ」

 きて欲しくない場所に彼の指が伝い下りてくる。尻からその割れ目を通って、菊門を過ぎてさらに前へ。秘めた園の手前で指は思い出したように立ち止まる。

「きみは美しくも可愛らしい……それでいて淫らな生き物だ」

 ツプッ、と妙に軽快な水音がした。

「はっ……ん、っ!」

 蜜洞を穿った指はそう深くないところまで沈んですぐに引き返してきた。その指に、多分の蜜をまとって。
 ジェラルドは蜜にまみれた指を極上品の肉を食すときと同じように口腔に収めた。カッ、と瞬時に全身の肌が火照る。網の上であぶり焼きにでもされている心地だ。

「相変わらず感度がよろしいようで」

 慇懃無礼に言いながらジェラルドは自身のクラヴァットをほどいた。彼の上着は灰色だが、地模様が不規則に光を照り返すので輝いて見える。上質な上着をジェラルドは床にポイっと造作もなく放り投げ、ドレスシャツの胸もとをゆるめた。その仕草の一つ一つから目が離せなかった。
 ジェラルドがなかなか愛撫を再開してくれないからだ。物欲しそうな顔になっていたのか、ジェラルドが「ふっ」と息を漏らして笑った。しかしそのすぐあとにはハッとした様子で口を押さえた。

「今夜はきみを甘やかすと決めていたのに。つい、いじめたくなる……。いけないな、焦らさずすぐに愛でるとしよう」
「い――」

 いつもどおりで結構です、という言葉は発せずキスに呑み込まれた。
 ジェラルドはエリスの唇の感触を確かめるように何度も食んでくる。もう幾度となく貪り合った唇だというのに、いまはなぜか新鮮だ。

(先生が妙なことを言うから)

 どうして急に甘やかそうなんて考えたの。問いかけたいのに、口づけは深くなるいっぽうだ。息継ぎをするだけで精いっぱい。

「ン……ッ、ふぅ……!」

 いつも思う。これだけ激しく舌を暴れさせながらなぜ指までも奔放に動かせるのだろう。ジェラルドはエリスの口腔を犯すのと並行して彼女の乳頭をふたつとも指でなぶり倒した。これだけでもう達してしまいそうだった。舌と指は荒々しくも的確に官能をくすぐる。それが彼のスキルなのか、単にエリスが彼を好いているからなのかわからない。あるいは両方なのだろう。でなければこれほどまでに感じはしない。
 下半身の花芽がひとりでにヒクヒクともだえるのを感じながらエリスは吐息だけで喘ぐ。早くそこに触れて欲しくてもじもじと内股をこすり合わせると、ドレスが衣摺れの音を奏でた。それをジェラルドが聞き逃すはずもない。

前 へ    目 次    次 へ