夕闇の王立図書館 《 番外編 03

 アンジェリカは言葉なくうなずいた。指が入っているだけでも、異物感でおかしくなってしまいそうなのに――。
 クリフの一物がどれくらいの大きさなのかわからないけれど、それが身の内に収まるところなんてまったく想像ができない。
「っ、ん……」
 グチュッ、グチュチュッと音を立てて膣内の異物がなくなった。薄暗い王城の庭にはいまだに肌寒さを感じさせる風が吹いている。
「クリフ……?」
 アンジェリカは親友の弟の顔を見上げた。縦横無尽にうごめいていた彼の指を失って、蜜壺は空虚のあまりヒクヒクと震えていた。
「……帰ろうか。アンジェ、こごえてる」
 寒いわけではない。震えているのは、クリフがアンジェリカの身体をいじるからなのに。けれどそれを伝える間もなく彼はアンジェリカのドレスを整えていく。
「――ねえ、ダンスホールに戻りましょう? ジュリアが帰ってくるかもしれないわ」
 王城を出て行こうとするクリフのあとを追ってアンジェリカは早歩きをしていた。彼は舞踏会場に戻るつもりはないらしく、出口に向かっている。
「姉ちゃんは戻ってこないと思うよ。殿下は本気だ。今頃きっと……」
 何か言いかけて、クリフはそれきり話さなくなった。アンジェリカが立ち止まる。
「いいわ。私ひとりで会場に戻るから」
 ダンスホールへ向かおうと身を翻す。
「……送っていくから、帰ろう」
 クリフはアンジェリカの身体をうしろから羽交い絞めにした。
「ひゃ……っ! やだ、放してったら。クリフは先に帰ってていいわ。私はジュリアを待つの」
「ダメ」
「なんでよ。私がどうしようとクリフには関係ない……んむっ!」
 アンジェリカは彼の腕から逃れようとあがいていたが、どんなに抵抗しても抜け出せない。しまいには口もとを手のひらで覆われてしまった。
「アンジェはそんなにほかの男と踊りたいわけ?」
「んんっ……!」
 がくりとこうべを垂れたクリフはアンジェリカの口を手で覆ったまま肩にもたれかかった。
「ここ、まだ湿ってるね。こんな状態のままダンスホールに戻ろうとするなんて、信じられないよ。誰かにいじってもらいにいくの?」
「っぅ、ふ……っ」
 ドレスのすそから滑り込んできたクリフの指が秘所に収まる。彼の指摘どおり陰部は湿っていた。ヌルヌルとした液体を指で花びら全体に広げられ、アンジェリカは身体をくねらせる。
(たしかに、こんな……粗相をしたような状態では、舞踏会場には戻れない)
 割れ目のなかを指が往復するたびに股間から蜜がにじみ出ていくのがわかった。
 アンジェリカは覆われている口をかすかに動かしてクリフに告げる。
「かえ、る……っぅく」
「うん。帰ろう」
 満足気にうなずき、クリフはアンジェリカのなかから指を引き抜いた。
 頭はひどくぼうっとしていて、フワフワと浮いているような心地だ。彼の手はいまアンジェリカの両肩にあるというのに、まだ下半身に留まっているかのような余韻があった。

 それからふたりで馬車に乗り、間もなくしてアンジェリカの家の前に着いた。夜風はいっそう冷たくなっている。
「それじゃ、僕はこれで。おやすみ、アンジェ」
 先ほどまでの出来事がすべて嘘のようだった。食事を終えて帰るときと同じような挨拶をして、クリフは立ち去ろうとしている。
「あ……お茶でも飲んでいかない? 身体、温まるわよ」
 考えるよりも先に手が彼の腕をつかんでしまった。アンジェリカは目を泳がせながら言い繕った。
「……それじゃあ、お言葉に甘えて」
 紅い髪の少年がまぶたを細めた。ふだんとは違う、少年らしからぬ微笑を目の当たりにしたアンジェリカは、心臓をどきりと脈を打たせた。

(……しまったわ。これじゃあ誘っているみたいよね)
 クリフを家に招き入れたアンジェリカはすぐにそれを後悔した。兄のシリルは図書館協会の会議に出席するために今夜は不在だからだ。
 親友の弟と家でふたりきりになるのは初めてだ。兄が出かけて家にいないことはよくあるけれど、ふだんはジュリアが一緒だし、王城の庭であんなことをされては意識せざるを得ない。
「待ってて、着替えてくるから」
 声がかすれてしまい、緊張しているのが知れてしまったかもしれない。
 玄関ホールから足早に寝室へ向かう。
「僕も着替える」
 歩幅が広いクリフはあっという間にアンジェリカに追いついて、となりに並んだ。

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