夕闇の王立図書館 《 番外編 05

 アンジェリカは首を横に振った。大好きな彼を傷つけるようなことはしたくない。
「へ、い、き……だか、ら……。きて」
 絶え絶えにそうつぶやくと、クリフはとても小さな声で短く謝罪の言葉を口にした。
 そうして、ひといきに貫かれる。
「あああっ、あ、っく、ふぁぁっ!」
 ひといきに突き刺さった肉棒は想像を絶していた。心配そうな表情でこちらを見つめる彼に気がつき、アンジェリカは痛みを押し殺してほほえんだ。
 笑顔を作ってみたものの、痛いものは痛い。こらえていた涙が頬を伝ってしまい、それを見られまいと顔を背ける。するとクリフはアンジェリカの目尻に浮かぶ雫をゆっくりと舐め上げた。
(まるで愛されているみたい。クリフは私のことをどう思ってるのかしら)
 彼が誰にでも優しいのはいまに始まったことではない。だから、たしかめるのが怖かった。
 これは博愛なのだと知ったら、この痛みを乗り切れる自信がない。真意はどうであれ、せめていまだけは彼が自分を愛しているのだと思いたかった。
「……アンジェ」
「ん……っ、ふ、は……ぁっ」
 クリフがゆっくりと腰を揺さぶり始める。痛みはしだいにやわらいでいき、身体の内側をこする陰茎の存在を実感できるほどの余裕が出てきた。
(クリフのが、入ってる……。私のなかに)
 親友の弟であるクリフを男性として意識し始めたのはいつからだったのか、覚えていない。もともと大好きではあったけれど、きっと彼がアンジェリカの身長を追い越した頃からだ。こういった行為を少しずつ妄想するようになっていた。
「あ……っん、んく……ッ!」
 激しくなる律動にくわえて射るような熱っぽい視線を送られ、アンジェリカは彼と目を合わせていられなくなった。
 愛していると叫んでしまいそうになる。けれど彼にとってはこれも夜遊びのひとつに過ぎないのかもしれない。だから、口が裂けてもこの想いは伝えられない。伝えるのが怖い。
「ああっ、ぅ……そんな、吸っちゃ……っぁ、んんっ!」
 最奥を穿たれるだけでも快感で気がへんになりそうなのに、同時に上半身のつぼみをきつく吸い上げられてアンジェリカは身悶えしていた。
「アンジェのなか、どんどんきつくなってる。苦しいくらい」
「くるしい、の……!? ご、ごめん、なさ……っあ、あッ!」
「……謝らないで。むしろそれは僕のほう」
 こんなにも悲痛な面持ちをした彼を見るのは初めてだった。いてもたってもいられず彼の顔に手を伸ばすと、クリフはアンジェリカの両脚を高く持ち上げてさらに強く奥深くを突き、唇を寄せた。
「ひあぁっ、あッ……ん、んくっ、ふぁぅ――……!」
 真紅の瞳と髪の毛が大きく揺れて、肩に重くのしかかった。下半身には彼のたしかな脈動があって、そのリズムを心地よく感じた。
 しばらくは彼に覆われたまま動けずにいた。
 小一時間が経ったところで、クリフはゆっくりと身を起こした。
「ごめん、アンジェ……さっきは」
「クリフ、今日のことはジュリアには内緒だからね! ふたりだけの秘密にするの。約束よ」
 アンジェリカは彼に背を向けるように横たわりながら言った。
(やだ、私……どうして、さえぎるようなことを)
 謝罪なんて聞きたくなかった。一夜の過ちを犯してしまったと謝られでもしたら、始まってもいない恋が終わってしまう。
「私、疲れたから寝るわ。おやすみなさい」
 もうなにも話したくない、聞きたくない。
 せめて今夜くらいは、彼に抱かれた喜びを噛み締めて眠りにつきたかった。

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