披露宴会場での晴翔と杏樹の席は離れていた。晴翔は友人席、杏樹は親族席だ。当たり前なのだが、会場の端と端だからあまりに遠い。大樹の悪意を感じざるを得ない。
来賓挨拶、乾杯を経て式は滞りなく進む。花婿と花嫁の立場や年齢的にもそう派手な演出はなく、しっとりとした結婚式だ。
(俺はもっとこぢんまりとやりたいな……。これじゃあ、業者のためにやってるようなモンだ)
酌をしにくるひとがあとを絶たない。友人の数は決して少なくないが、それよりも遥かに会社関係のゲストが多いと見受けられる。
(もういっそ親族と友人だけでも)
そんなことをぼんやりと考えていたら、
「先生、どうぞ」
愛しいひとの声が背後から聞こえてきた。杏樹は頬をほんのりとピンク色に染めて、ビール瓶を持っている。酌をしにきたのだ。色っぽい表情に見とれながらグラスを差し出すと、杏樹は目を伏せて静かに酒を注いだ。
「あっ、杏樹ちゃん久しぶり! ねね、俺にもーっ!」
となりにいた友人が身を乗り出して杏樹にグラスを向ける。杏樹はにこやかにほほえみながら「本当、お久しぶりですね」と言って酌をしている。
(……なにニコニコして話してんだよ)
この程度で神経を逆撫でされるなんて、何て心の狭い男だろうと自分でも思う。だが嫌なものは嫌だ。彼女がほかの男と話しているのは気に食わない。
「杏ちゃん、ちょっといいかな」
席を立ってひじをつかみ、杏樹を友人から引き離す。大人げない行動だと自覚はある。それでも彼女を独り占めしたくて、晴翔は会場の外へと杏樹を連れ出した。
「どうしたの、晴くん」
「ここの庭、杏樹と一緒に見たくて」
焼きもちを妬いていたのは悟られていないようで、杏樹は普段と変わらぬ様子で「そっか」とつぶやいて庭の噴水を眺めている。
「杏ちゃん、少し元気がないみたいだけど大丈夫?」
晴翔は噴水の前にあったベンチに腰かけた。杏樹もとなりに座る。
「んー……大丈夫。ただ……お兄ちゃんが結婚して、ずっと欲しかったお姉さんができて嬉しいんだけど、なんだか少し寂しい気もしちゃって」
大樹は本当に羨ましいやつだ。晴翔に兄弟はいないから、杏樹の気持ちはよくわからないが、こんなに想われているのがただうらやましい。
「俺じゃ、だめ?」
「そういうことじゃないよ。晴くんは家族みたいなものだけど、でも……。恋人、だから……特別」
もともとピンク色だった彼女の頬が濃くなって朱に染まる。考えるよりも身体が勝手に動いていて、晴翔は杏樹の熱い頬に口付けていた。
「……っ! は、る、くん……っ!?」
金魚のようにパクパクと動いている彼女の唇に触れようと身をかがめると、肩をつかまれて押し戻されてしまった。
「晴くんっ、みんな見てる……っ」
披露宴会場からはたしかにここがよく見えるだろう。しかしそんなことはどうでもよかった。肩にあった彼女の手をつかんで指を絡める。
「誰も見てないよ」
「み、見てるってば……。ねえ、もう戻ろう。そろそろ余興が始まるころだと思う」
困り切った顔でこちらを見上げる杏樹。晴翔は心のなかだけでため息をついて、「わかった」と返事をして立ち上がった。だがそのあとも彼女に触れたい欲求はおさまらず、晴翔は悶々とした気持ちのまま親友の結婚式を終えたのだった。
来賓挨拶、乾杯を経て式は滞りなく進む。花婿と花嫁の立場や年齢的にもそう派手な演出はなく、しっとりとした結婚式だ。
(俺はもっとこぢんまりとやりたいな……。これじゃあ、業者のためにやってるようなモンだ)
酌をしにくるひとがあとを絶たない。友人の数は決して少なくないが、それよりも遥かに会社関係のゲストが多いと見受けられる。
(もういっそ親族と友人だけでも)
そんなことをぼんやりと考えていたら、
「先生、どうぞ」
愛しいひとの声が背後から聞こえてきた。杏樹は頬をほんのりとピンク色に染めて、ビール瓶を持っている。酌をしにきたのだ。色っぽい表情に見とれながらグラスを差し出すと、杏樹は目を伏せて静かに酒を注いだ。
「あっ、杏樹ちゃん久しぶり! ねね、俺にもーっ!」
となりにいた友人が身を乗り出して杏樹にグラスを向ける。杏樹はにこやかにほほえみながら「本当、お久しぶりですね」と言って酌をしている。
(……なにニコニコして話してんだよ)
この程度で神経を逆撫でされるなんて、何て心の狭い男だろうと自分でも思う。だが嫌なものは嫌だ。彼女がほかの男と話しているのは気に食わない。
「杏ちゃん、ちょっといいかな」
席を立ってひじをつかみ、杏樹を友人から引き離す。大人げない行動だと自覚はある。それでも彼女を独り占めしたくて、晴翔は会場の外へと杏樹を連れ出した。
「どうしたの、晴くん」
「ここの庭、杏樹と一緒に見たくて」
焼きもちを妬いていたのは悟られていないようで、杏樹は普段と変わらぬ様子で「そっか」とつぶやいて庭の噴水を眺めている。
「杏ちゃん、少し元気がないみたいだけど大丈夫?」
晴翔は噴水の前にあったベンチに腰かけた。杏樹もとなりに座る。
「んー……大丈夫。ただ……お兄ちゃんが結婚して、ずっと欲しかったお姉さんができて嬉しいんだけど、なんだか少し寂しい気もしちゃって」
大樹は本当に羨ましいやつだ。晴翔に兄弟はいないから、杏樹の気持ちはよくわからないが、こんなに想われているのがただうらやましい。
「俺じゃ、だめ?」
「そういうことじゃないよ。晴くんは家族みたいなものだけど、でも……。恋人、だから……特別」
もともとピンク色だった彼女の頬が濃くなって朱に染まる。考えるよりも身体が勝手に動いていて、晴翔は杏樹の熱い頬に口付けていた。
「……っ! は、る、くん……っ!?」
金魚のようにパクパクと動いている彼女の唇に触れようと身をかがめると、肩をつかまれて押し戻されてしまった。
「晴くんっ、みんな見てる……っ」
披露宴会場からはたしかにここがよく見えるだろう。しかしそんなことはどうでもよかった。肩にあった彼女の手をつかんで指を絡める。
「誰も見てないよ」
「み、見てるってば……。ねえ、もう戻ろう。そろそろ余興が始まるころだと思う」
困り切った顔でこちらを見上げる杏樹。晴翔は心のなかだけでため息をついて、「わかった」と返事をして立ち上がった。だがそのあとも彼女に触れたい欲求はおさまらず、晴翔は悶々とした気持ちのまま親友の結婚式を終えたのだった。