ウィルは窓の外を見やりながら身体を起こした。
どうやら本気で美菜に「いろいろ」教えるつもりはなかったらしい。
ホッとしたような、少し残念なような複雑な心境で起き上がると、
「なにか着るものを貸してもらえないかな」
王子様に尋ねられ、美菜は「うーん」と首をひねった。
「あいにく男物は持ち合わせていなくて」
「じゃ、買ってきてくれる?」
まあ当然、そうなる。
王子様を呼び出してしまった手前、断るわけにもいかず、美菜は身支度を整えて自宅を出た。
近所のファッションセンターは閉店時間ぎりぎりだった。
四苦八苦しながら男物の服や靴を一式そろえて家に戻ると、ウィルは素っ裸のままリビングのソファに座ってテレビを見ていた。
「ああ、おかえり。ミナ、これ面白いね」
「テレビのつけかた、よくわかったね。これ、買ってきたよ」
「テキトーにこれをいじってたら、ついた。ああ、ありがとう。助かるよ」
ウィルはリモコンをテーブルのうえに置き、代わりに服を受け取った。
「どうやって着ればいいのかわからないな。着せてくれる?」
「はいはい。仰せのままに、王子様」
「むっ、なんだか馬鹿にされてる気分」
この王子様は見た目はたしかに25歳相応だが、中身は少し子供っぽい気がする。「むっ」とはなんだ。
しかし心のなかだけにとどめておく。
口に出したら、またこの小さな胸を引き合いにからかわれそうだ。
「ーーはい、できた。うん、安物のわりにはキマってる」
「モデルがいいからね」
「自分で言う? なんか、イメージしてた王子様と違うなぁ……。もっとこう、謙虚で穏やかというか」
「なにを言うんだい。そのとおりじゃないか」
「や、どっちかっていうと腹黒でワガマーーっ、いひゃい!」
頬をムニッとつねられた。
腹黒だと思ったのは、ニコニコしているのに毒のあることをサラッと言ってくるからだ。ワガママなのは言うまでもない。いま頬をつねられていることで、ドSも付け加えられた。
もちろんこのことは口には出さない。
「っ、ごめんなさい! 私が悪かったです、心優しいイケメンの王子様っ!」
「わかってくれれば、いいんだよ」
にっこりとほほえむさまは、背景に薔薇の幻覚が見えそうなほど麗しい。
しかし中身はとんだ鬼畜の腹黒な傍若無人だ。
安物の白いVネックシャツと黒のGパンをこうも見事に着こなされると、逆に腹立たしさを覚えてくる。
たしかにもとはーースタイルはとんでもなくよいのだ。
Gパンは裾上げせずに履けている。むしろ足りないくらいかもしれないが、靴を履けばさほど目立たないだろう。
「この格好、へんじゃないんだよね?」
「うっ!? うん、もちろん。めちゃくちゃカッコイイよ」
いましがた、Gパンの裾がちょっと足りないかも、なんて考えていたせいで過剰に褒めてしまった。
しかしウィルは別段、不審がってはいない。意外と単純な性格なのかもしれない。
「ねえ、外に出たいな。きみがあの本を手に入れた場所まで案内して欲しい」
「え、ああ……。うん、わかった」
本のことを彼に話していただろうか。
疑問に思いながらも、美菜はウィルと一緒に家を出た。
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どうやら本気で美菜に「いろいろ」教えるつもりはなかったらしい。
ホッとしたような、少し残念なような複雑な心境で起き上がると、
「なにか着るものを貸してもらえないかな」
王子様に尋ねられ、美菜は「うーん」と首をひねった。
「あいにく男物は持ち合わせていなくて」
「じゃ、買ってきてくれる?」
まあ当然、そうなる。
王子様を呼び出してしまった手前、断るわけにもいかず、美菜は身支度を整えて自宅を出た。
近所のファッションセンターは閉店時間ぎりぎりだった。
四苦八苦しながら男物の服や靴を一式そろえて家に戻ると、ウィルは素っ裸のままリビングのソファに座ってテレビを見ていた。
「ああ、おかえり。ミナ、これ面白いね」
「テレビのつけかた、よくわかったね。これ、買ってきたよ」
「テキトーにこれをいじってたら、ついた。ああ、ありがとう。助かるよ」
ウィルはリモコンをテーブルのうえに置き、代わりに服を受け取った。
「どうやって着ればいいのかわからないな。着せてくれる?」
「はいはい。仰せのままに、王子様」
「むっ、なんだか馬鹿にされてる気分」
この王子様は見た目はたしかに25歳相応だが、中身は少し子供っぽい気がする。「むっ」とはなんだ。
しかし心のなかだけにとどめておく。
口に出したら、またこの小さな胸を引き合いにからかわれそうだ。
「ーーはい、できた。うん、安物のわりにはキマってる」
「モデルがいいからね」
「自分で言う? なんか、イメージしてた王子様と違うなぁ……。もっとこう、謙虚で穏やかというか」
「なにを言うんだい。そのとおりじゃないか」
「や、どっちかっていうと腹黒でワガマーーっ、いひゃい!」
頬をムニッとつねられた。
腹黒だと思ったのは、ニコニコしているのに毒のあることをサラッと言ってくるからだ。ワガママなのは言うまでもない。いま頬をつねられていることで、ドSも付け加えられた。
もちろんこのことは口には出さない。
「っ、ごめんなさい! 私が悪かったです、心優しいイケメンの王子様っ!」
「わかってくれれば、いいんだよ」
にっこりとほほえむさまは、背景に薔薇の幻覚が見えそうなほど麗しい。
しかし中身はとんだ鬼畜の腹黒な傍若無人だ。
安物の白いVネックシャツと黒のGパンをこうも見事に着こなされると、逆に腹立たしさを覚えてくる。
たしかにもとはーースタイルはとんでもなくよいのだ。
Gパンは裾上げせずに履けている。むしろ足りないくらいかもしれないが、靴を履けばさほど目立たないだろう。
「この格好、へんじゃないんだよね?」
「うっ!? うん、もちろん。めちゃくちゃカッコイイよ」
いましがた、Gパンの裾がちょっと足りないかも、なんて考えていたせいで過剰に褒めてしまった。
しかしウィルは別段、不審がってはいない。意外と単純な性格なのかもしれない。
「ねえ、外に出たいな。きみがあの本を手に入れた場所まで案内して欲しい」
「え、ああ……。うん、わかった」
本のことを彼に話していただろうか。
疑問に思いながらも、美菜はウィルと一緒に家を出た。