王子様も見つめ返してきた。しだいに彼の表情が変わっていく。
情欲の色が、失われていく。
「はい、終わり」
ウィルは美菜の下半身から急に指を引き抜いた。
「……っ!?」
突然のことに戸惑うものの、やめないでとは言わない。理性は「これでいい」と言っている。
「ごめんね、ミナ。僕はそこまで無責任ではなかったようだ」
憂いを帯びた笑顔で謝られ、ますますわけがわからない。
ウィルは顔を窓のほうに向けて叫ぶ。
「兄さん、いるんだろ? 出てこいよ」
なにを言っているのだろう。呆然としていると、鍵をかけていたはずの部屋の窓がひとりでに開いた。
そこから顔を出したのは、見覚えのあるフード男。
「あ……っ! あなたっ、路上販売のフ――」
美菜が言い終わる前にウィルが言葉をかぶせる。
「はあ、やっぱり近くにいたんだね。どうせのぞき見してるんだろうと思ってたよ。まったく、異世界交遊は禁止されてるっていうのに……」
ウィルはそう言いながら、美菜の身体に布団をかぶせてフード男を横目で見やった。
「いいじゃんべつに。王子様特権ってやつだよ。おまえこそ、楽しんでたじゃないか。つうか、最後までやんないの? つまんねー」
「……軽々しくこの子の純潔を散らしたくなかっただけ」
「ふうん、べつにいいのに。どうせ俺たちのこと忘れちゃうんだし」
美菜は大声で「ちょっと待って!」と叫んだ。置いてけぼりで会話が進んでいるのが不愉快でならない。
「いったいどういうこと? ウィル、ちゃんと説明して」
「……ごめんね、ミナ。きみは僕を召喚なんてしていないんだ。すべては僕の兄さんの道楽魔法のせい」
ウィルはベッドのうえで立ち上がり、器用に窓枠のうえに立つフード男の頭をボンッと叩いた。痛そうだ。
「ってえ! なにする、ウィル」
「ちょっとは反省してよ。いきなりこっちの世界に飛ばされて困ってたところを、ミナが助けてくれたんだから、ちゃんとお礼を言って」
そういうことなら初めから事情を説明してくれればよかったのにと思ったけれど、口を挟む余地はなくウィルは話し続ける。
「風呂に入っていたら急に兄さんがやってきて、異世界の女の子と遊んでこいって言うんだ。兄さんはあらかじめきみに妙な本を売りつけていたんだろう? それで、きみ自身が僕を召喚させたと勘違いさせていろいろと世話をさせた。まあ、僕もちゃっかりそれを利用して服を用意してもらったりしたわけだけど」
ウィルとその兄を交互に見つめる。うん、どっちもどっちだ。
「なんで、そんなこと」
ぽつりと尋ねる。ウィルが答える。
「兄さんは他人のセックスをのぞくのが趣味なんだ。まったく……兄さんたら、わけのわからない言語の本をつくってなにか企んでるなぁって、警戒はしてたんだけど」
美菜は布団のなかでもぞもぞと衣服を正して起き上がり、ベッドのうえに正座をした。
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情欲の色が、失われていく。
「はい、終わり」
ウィルは美菜の下半身から急に指を引き抜いた。
「……っ!?」
突然のことに戸惑うものの、やめないでとは言わない。理性は「これでいい」と言っている。
「ごめんね、ミナ。僕はそこまで無責任ではなかったようだ」
憂いを帯びた笑顔で謝られ、ますますわけがわからない。
ウィルは顔を窓のほうに向けて叫ぶ。
「兄さん、いるんだろ? 出てこいよ」
なにを言っているのだろう。呆然としていると、鍵をかけていたはずの部屋の窓がひとりでに開いた。
そこから顔を出したのは、見覚えのあるフード男。
「あ……っ! あなたっ、路上販売のフ――」
美菜が言い終わる前にウィルが言葉をかぶせる。
「はあ、やっぱり近くにいたんだね。どうせのぞき見してるんだろうと思ってたよ。まったく、異世界交遊は禁止されてるっていうのに……」
ウィルはそう言いながら、美菜の身体に布団をかぶせてフード男を横目で見やった。
「いいじゃんべつに。王子様特権ってやつだよ。おまえこそ、楽しんでたじゃないか。つうか、最後までやんないの? つまんねー」
「……軽々しくこの子の純潔を散らしたくなかっただけ」
「ふうん、べつにいいのに。どうせ俺たちのこと忘れちゃうんだし」
美菜は大声で「ちょっと待って!」と叫んだ。置いてけぼりで会話が進んでいるのが不愉快でならない。
「いったいどういうこと? ウィル、ちゃんと説明して」
「……ごめんね、ミナ。きみは僕を召喚なんてしていないんだ。すべては僕の兄さんの道楽魔法のせい」
ウィルはベッドのうえで立ち上がり、器用に窓枠のうえに立つフード男の頭をボンッと叩いた。痛そうだ。
「ってえ! なにする、ウィル」
「ちょっとは反省してよ。いきなりこっちの世界に飛ばされて困ってたところを、ミナが助けてくれたんだから、ちゃんとお礼を言って」
そういうことなら初めから事情を説明してくれればよかったのにと思ったけれど、口を挟む余地はなくウィルは話し続ける。
「風呂に入っていたら急に兄さんがやってきて、異世界の女の子と遊んでこいって言うんだ。兄さんはあらかじめきみに妙な本を売りつけていたんだろう? それで、きみ自身が僕を召喚させたと勘違いさせていろいろと世話をさせた。まあ、僕もちゃっかりそれを利用して服を用意してもらったりしたわけだけど」
ウィルとその兄を交互に見つめる。うん、どっちもどっちだ。
「なんで、そんなこと」
ぽつりと尋ねる。ウィルが答える。
「兄さんは他人のセックスをのぞくのが趣味なんだ。まったく……兄さんたら、わけのわからない言語の本をつくってなにか企んでるなぁって、警戒はしてたんだけど」
美菜は布団のなかでもぞもぞと衣服を正して起き上がり、ベッドのうえに正座をした。