(でも、ご結婚なさればきっと、ほかの――伴侶となった女性を吸血なさる)
この快楽を、彼はほかの女性にも与えるのだ。
自分のなかですさまじいまでの嫉妬心が燃え上がるのを感じた。はらわたが煮えくり返るというのはいまのような状態に違いない。
(イヤ……極夜さまをひとり占めしたい)
鈴音はそっと、彼の広い背中に腕をまわす。すると極夜は驚いたように肩を跳ねさせた。
吸血をやめて顔を上げる。けげんな表情だ。いや、怒っているのだろうか。
(でも、どうして?)
なぜ彼が怒っているのか、皆目見当がつかない。なにか失礼なことをしただろうか。
極夜はギリッ、と奥歯を鳴らしてふたたび鈴音の首すじに顔をうずめる。
「ふ、っ……」
彼の両手が体を撫でまわしている。ゆるんだ着物の背を撫でたあと、前のほうへとやってきて、開いた衿合わせの内側へするりと入り込む。
「……!!?」
驚きのあまり声が出ない。
胸を、さわられている。
鈴音の双乳をわしづかみにした極夜の両手は豊かなふくらみを押しつぶすようにしてぐにゃぐにゃと揉みまわす。
「ん、んんっ……!」
カァァッ、と羞恥による熱が頬に込み上げる。しかし同時に快感も立ちのぼってきた。そんな――不埒な自分に困惑してしまう。
極夜はいったん牙を抜き、にじんだ血をぺろりと一舐めした。
とろけきった顔で「は、はっ」と短く喘ぐ鈴音の顔を凝視する。
「……悦《い》いのか?」
「――っ!!」
顔が、火を噴きそうなほど熱い。耳まで朱に染まった鈴音の顔から少しも目を逸らさず、極夜は片手で彼女の手首をつかみ、唇を寄せる。
鈴音の手首にちゅっと口づけたあと、なめらかな柔肌を穢《けが》すように浅く牙を突き立てる。
「……っ、ぅ」
極夜は鈴音の乳房をあらためてつかみ、揉み込みながら薄桃色の先端を指のあいだに挟む。
「ん、ぁっ……!」
触れられているのは胸だというのに、どうしてか下半身の奥底がゾクンッとうずく。
指のあいだに挟まれた乳頭をくにくにと小さく踊らされ、自分でも聞いたことのないような声が漏れ出る。手首からの吸血もあいまって、すさまじいまでの快感が湧き起こる。
「あぁ……んっ、ンンッ!」
頬を紅潮させ、乱れた着物で高い声を上げる鈴音を目に焼きつけるように極夜は彼女を見つめ続ける。
その視線にまた快感を煽られる。
刹那でもいい。
彼の牙を――あらゆる興味を、独占したい。
なんて淫らなことを願っているのだろう。
それでも、彼に触れられたかった。